執筆:窪田真之

26日の日経平均は、前日比237円安の16,383円となりました。26日の日本経済新聞朝刊で、政府が「来月2日にもまとめる経済対策の骨格を固めた。焦点となっていた国と地方の財政支出(真水)を6兆円程度に積み増す方向で調整する」と報道されたことが嫌気されました。「20兆円超の経済対策」という言葉が1人歩きして投資家の期待が膨らんでいましたが、真水が少ないことがわかり、失望に変わりました。

今週29日(金)昼に発表される日銀政策決定会合の結果発表にも、不安があります。外国人投資家に追加緩和の期待が広がっていますが、マイナス金利の弊害も目立つ中、大規模な追加緩和の余地は小さくなっています。26日は財政・金融政策への期待が低下したことを反映して、1ドル104円台へ円高が進み、日経平均は売られました。

なお、27日の日本時間午前6時10分現在、為替は1ドル104.66円でした。26日のCME日経平均先物(9月限)は、16,385円でした。

(1)政府の財政出動は準備不足の観が否めない

先週21日(木)、「近く発表される経済対策の規模は20兆円超になる見込み」と報道が出た時は、株式市場に好感されました。それまで、10兆円程度の経済対策になると見込まれていましたので、規模が倍増する期待が出ました。

ところが、22日(金)には、20兆円超の経済対策のうち、真水(公共投資や減税など実際の財政出動をともなう部分)が、財務省の提案では3兆円程度しかないことがわかり、失望されました。

26日の日経報道では、真水が小さいことに市場が失望していることを意識して、政府が、真水を6兆円以上に積み増そうと、検討していることがわかりました。ただし、真水とは言っても、単年度で実行されるものばかりではなく、複数年にわたる案件が含まれるようです。それでは、単年度の景気押し上げ効果は限られます。

一連の報道から、安倍政権が、株式市場に失望されないように経済対策の規模を大きく見せようと腐心していることがわかります。伊勢志摩サミットで、欧米諸国に財政出動での国際協調を積極的に提案した安倍首相としては、日本の財政出動規模を何としても膨らませようと考えていることでしょう。

見かけを大きくしようと腐心している舞台裏が透けて見えるところから、政府の経済対策は、準備不足であることがわかります。大型の公共投資は、本来、長い時間かけて必要性の高い案件をリストアップし、その中で、さらに必要性の高いものに絞り込んでいくべきです。株式市場を驚かせることを目的に、始めに金額を大きくすることを決めて、後から一生懸命、案件を積み上げていくやり方は、本末転倒と言わざるを得ません。

熊本地震では、大規模震災に備える国土強靭化が、まだ足りていないことがわかりました。時間をかければ、真に必要性が高い公共投資を見つけていくことはできるはずです。ただし、近く発表される景気対策では、そうした地道な投資案件の積み上げは間に合わない可能性が高いと思われます。

(2)年金財政の悪化が顕在化

マイナス金利の弊害がさまざまなところに表れており、日銀は、マイナス金利の深堀りや、債券買い取り額の大幅増額に動きにくくなっています。マイナス金利の弊害で、もっとも深刻な問題は、年金財政の悪化です。債券利回りの急低下で、年金の予定運用利回りが低下し、その結果、年金債務(現在価値)が膨らみ、積み立て不足が拡大しています。

26日の日本経済新聞朝刊によると、上場企業3642社の2015年度末の年金債務は、前年度末比で5.1%増加し、91兆円と、過去最高に拡大しました。マイナス金利の影響で、割引率が低下したため、年金債務額が膨らみました。年金債務の積み立て不足(将来の年金給付に備えて企業が積み立てている金額の不足分)も、26兆円に拡大しました。

企業年金だけでなく、公的年金も同じ問題を抱えています。金利のマイナス幅拡大が続くと、公的年金の給付引き下げや支給年齢引き上げを検討しなければならなくなる可能性もあると考えられます。

(3)日銀がここからできることは限られている

これまでに検討の俎上にのぼった追加緩和策について、それぞれ以下のような問題があります。

  • マイナス金利の深堀り:年金財政の悪化や、金融機関の収益悪化を招いている。
  • 年間80兆円の国債買取額の増額:日銀の一手買いで、国債の流動性が低下。
  • ETFやREITの買い増し:現在年間3兆3,000億円買い取っているが、それを4兆~5兆円に拡大。株の直接買い取りで株式市場を支える効果はあるが、金融緩和効果は限られる。
  • 貸し出し支援基金への日銀によるマイナス金利での融資実行:発表されれば、一時的に好感されるかもしれないが、冷静に考えて、金融緩和効果は限定的。