執筆:窪田真之

7月16日の名証セミナー、18日の17周年大阪セミナーに多数ご来場を賜り、誠にありがとうございました。本資料の末尾に、私の講演会資料を添付しています。

先週の日経平均は、1週間で1,391円(9.2%)上昇し、16,497円となりました。15日(金)の東京市場で、為替は1ドル106円台まで円安が進みました。1週間で一気に6円近く円安が進んだことを受けて、外国人投資家から日経平均先物の買い戻しが増えました。

15日の米国市場では、トルコで一部軍部によるクーデターが起こったとの報道を受け、1ドル104.80円まで円高に戻りました。ただし、トルコのクーデターは短期で鎮圧されたことから、週明けの世界の金融市場を揺るがす問題とはなっていません。

日本時間で19日の午前6時20分現在、為替は1ドル106.17円です。18日のCME日経平均先物(9月限)は、16,610円でした。今週の日経平均も、続伸が期待されます。ただし、来週の日米金融政策発表には注意が必要です。

(1)円安急進の背景

先週、円安が急進したのには3つの理由があります。

ブレグジット(英EU離脱)ショックが緩和

英国民投票でブレグジットが決まったと伝わった6月24日(金)は、世界中の株が急落し、ブラック・フライデー(暗黒の金曜日)と言われました。この時は、世界の金融市場がハードランディング型のブレグジットを織り込みにいったと考えられます。ハードランディング型とは、英国がEUに離脱を通告してから2年間の離脱交渉期間で交渉がまとまらず、そのまま交渉打ち切りとなって、英国とEUの特別な経済関係が途切れてしまうシナリオです。この場合、英国にもEUにも、世界経済にも大きなダメージがおよびます。

ブラック・フライデー後、英米株は順調に回復し、高値を更新しています。ソフトランディング型離脱の可能性もあることがわかり、世界の金融市場は落ち着きを取り戻しました。ソフトランディング型とは、英国とEUが離脱交渉において、双方が受けるダメージを最小とするように、条件交渉を進め、合意するケースです。

交渉は難航が予想され、2年で決着せず、3年・4年・5年と延長交渉になる可能性もあります。決着に時間がかかるものの、単純なハードランディング型にはならないとの見方も増えており、英米株は、ブレグジットショックから立ち直りつつあります。

米景気の回復色が強まり、米国株(NYダウ・S&P500)が最高値を更新

1-3月に原油急落とドル高のダメージを受けて失速した米景気ですが、4月以降、持ち直しつつあることが徐々に明らかになってきました。7月8日発表の6月米雇用統計が、急回復を示していたことに加え、現在発表中の4-6月期米決算発表が、好調に推移しているためです。

ブレグジット決定が伝えられた6月24日には、年内、米FRB(中央銀行)は利上げができないとの思惑が広がり、一時1ドル99円までドル安(円高)が進みましたが、米景気の持ち直しを受けて、年内に利上げが実施されるとの見方が復活し、ドル高(円安)につながっています。

ただし、それでも、7月の利上げはむずかしいと考えられています。ブレグジットなどによる世界的な金融不安は完全には解消していないからです。「米景気・企業業績が回復してきているにもかかわらず目先、米利上げは難しい」との見方が、米国株上昇の追い風となっています。

日銀によるヘリマネ実施の思惑

先週は、日銀がヘリコプター・マネー(ヘリマネ)と呼ばれる大規模追加緩和を実施するとの思惑が広がり、それが円安急進の背景となりました。きっかけは、「ヘリコプター・ベン」の異名を持つ、前FRB議長のベン・バーナンキ氏が来日し、安倍首相・黒田日銀総裁と会談したことです。「バーナンキ氏がヘリマネを推奨し、安倍首相・黒田総裁がそれを検討する」との思惑が勝手に広がりました。

ヘリマネの定義は、必ずしも明確でありませんが、一部では、以下の解釈が広がっています。「日銀が政府発行の無利息永久債を引き受け、政府がそれで調達した資金をバラマキ型社会福祉に使う」というものです。日銀が政府に実質タダでお金を渡し、それを政府が国民にバラマクというものです。日銀から国民への現金バラマキとほぼ同じです。「中央銀行がどんどん現金を増刷して、ヘリコプターで空からばらまく」というたとえから、ヘリコプター・マネーという呼び名がつきました。もちろん、現時点でこれは机上の話で、実際に行った国はありません。

日銀による国債の直接引き受けは、当然ながら財政法で禁止されており、黒田日銀総裁は「(ヘリマネを)実行することはない」と語っています。

(2)来週発表の日米金融政策が波乱要因に

来週、日米の金融政策決定会合が行われます。7月26・27日のFOMC(米金融政策決定会合)および、7月28・29日の日銀金融政策決定会合への注目が高まっています。

米景気は回復したものの、7月の利上げは困難と考えられます。ブレグジットが決まり、世界の金融市場の不安が完全には解消されていないこと、米大統領候補のドナルド・トランプ氏が米FRBによる利上げを批判していることが理由です。利上げなしが発表されても、織り込み済みの可能性がありますが、それでも発表直後に、一時的にドル安が進みやすくなる点は要注意です。

もっと心配なのは、7月29日の日銀金融政策決定会合の結果発表です。外国人投資家の間に、勝手にヘリマネ期待が広がっていることから、何らかの大規模緩和が発表されないと、失望されて円高に反転するリスクがあります。

ヘリマネ自体は、財政法で禁止されていますので、7月29日に発表されることはありません。市場が期待しているのは、ヘリマネに匹敵するような大規模緩和です。ただ、現実には、マイナス金利の弊害も目立つ中、日銀は簡単に追加緩和に動きにくくなっています。

7月29日に、ゼロ回答(なんの追加策も出さない)、または小手先の対応(効果が小さい小粒の追加緩和を発表)をするようだと、一時的に円高・株安が進む可能性があることには注意が必要です。

(3)17周年セミナー資料

以下、セミナーに使った資料を掲載します。