執筆:窪田真之

11日の日経平均は、前週末比601円高の15,708円でした。3つの要因から、外国人投資家が、日本株を買い戻したと考えられます。

  • 日発表の米雇用統計が強く、NYダウが1年1ヶ月ぶり高値に上昇したこと
  • 参院選で与党が圧勝したこと
  • 1ドル101円台の後半へ円安が進んだこと

通常は、先に為替が動いて、それに応じて日経平均が動く(円安なら株高、円高なら株安)のですが、昨日は逆でした。まず日経平均が大きく上昇し、日経平均上昇を材料にして円安が進みました。

なお、11日のNYダウは前日比80ドル高の18,226ドルと続伸しました。CME日経平均先物(9月限)は、16,070円まで上昇しています。為替は、日本時間の12日午前6時現在、1ドル102.80円です。

(1)経済対策への期待が復活

外国人投資家にとって、11日の最大の買い材料は、参院選での与党勝利です。これで、自民党は、大規模な財政出動を打ちやすくなると判断されました。今年、日本株を大幅に売り越してきた外国人の一部は、大型の経済対策が発表される前に、日本株を買い戻しておこうと判断し、日経平均先物を買い戻したようです。

実は、6月1日にも、外国人投資家は大規模な財政出動が発表されると期待しました。6月1日は、安倍首相が2017年4月に予定されていた消費増税の2年半延期を正式に発表した日です。消費増税の延期発表は、事前の報道で織り込み済みでした。この時、期待されていたのは、「消費増税延期の正式発表と同時に大型の経済対策が発表される」というものでした。

5月26・27日の伊勢志摩サミットで、安倍首相はドイツのメルケル首相などに財政出動での国際協調を呼びかけていました。ドイツからは拒否されましたが、その時、6月1日に日本が先陣を切って大型財政出動を発表するとの思惑が生じました。

ところが、6月1日に安倍首相は、「総合的で大胆な経済対策を今秋に講じる」としか述べませんでした。具体策を発表できなかったことから、外国人投資家から見て、安倍首相のリーダーシップに疑問符がつき、翌6月2日は、外国人の売りで日経平均は前日比393円安となりました。

その外国人の一部が、昨日は、改めて大型財政発動の可能性が高まったと判断したようです。ただし、すべの外国人がすばやく投資判断をするわけではありません。動いたのは足の速いヘッジファンドの一部だけと考えられます。

長期投資主体の海外年金ファンドなどは、今後安倍政権から出てくる経済政策の内容を吟味した上で、参院選の評価を行うと考えられます。

(2)外国人の買いは続くか?

今年に入ってから6月までで外国人は日本株の現物を4.7兆円も売り越しています。日本への評価が変わり買い戻しが始まれば、買い戻し余地は大きいと考えられます。ただし、昨日、動いたのは、足の速い資金だけと考えられ、外国人投資家が、全般的に日本株の評価を変えたとは言えません。

足の速いヘッジファンドも、大規模な経済対策の発表前に日本株の組み入れを少し引き上げただけで、本格的に買いを続けるとは考えられません。今日にも発表される可能性のある経済対策の中身によっては、すぐにも投資判断を変えて、再び、日本株を売ってくる可能性もあります。

これから発表される、経済対策の中身に注目したいと考えます。

(3)外国人が期待する経済政策とは何か?

私は、かつてファンドマネージャーをやっていた時に、中東・中国・アメリカなどに出張し、現地の投資家とさまざまなディスカッションを重ねてきました。その時に、彼らが日本株を見る目がどういうものか、感じ取りました。その時の経験を生かして、今、外国人の目に日本がどう映っているかをいつも考えています。

外国人投資家が投資先国の政治をチェックする重要な切り口が、あります。資本主義政策を推進する政権が支配する国は買い、社会主義政策を推進する政権が支配する国は売り、と判断します。2012年末の総選挙で、民主党政権が終わり、自民党政権が誕生しました。外国人投資家の目には、「社会福祉を重視する政権が終わり、資本主義政策を重視する政権が成立した」と映りました。これを受けて、2013年には外国人投資家が日本株を15兆円も買い越しています。

外国人の目から見て、最近アベノミクスが変質し、経済重視の姿勢が後退していると見られるところもありますが、それでもまだ、アベノミクスが「資本主義色の強い政策を進める」政党であるという見方は変わっていません。

消費税率を引き上げ、法人税率を引き下げるのは、明らかに資本主義的政策です。TPP、農業改革の推進、官業(日本郵政・空港など)の民営化推進も、資本主義的政策です。マイナンバー導入によって電子政府を推進し官公庁の労働生産性を高めることも、資本主義的政策といえます。労働規制を緩和し、大企業が従業員を解雇しやくすることも、資本主義的政策です。これらの政策が、日本国民の幸福増進につながるか否かは別の議論です。こうした資本主義的政策が進められる間は、資本家として日本に投資する外国人の目から見て、アベノミクスは評価されます。

今、欧米で、反資本主義、つまり、社会主義的政策を掲げる政治家が人気を博していることが、世界の株式投資にとって不安材料となっています。米国でいえば、それは、共和党候補のトランプ氏です。大企業への課税を強化し、バラマキ型社会福祉を増やし、メキシコとの国境に壁を築き、TPPやメキシコとの自由貿易を否定する政策は、資本主義に背を向け、社会主義政策を進めるものです。イギリスでEU離脱派を主導したボリス・ジョンソン氏の主張も、中身をよく見れば、資本主義に背を向ける社会主義的主張であることがわかります。欧州各国で、急進左派が勢力を拡大し、資本主義を否定する発言をしています。

そうした欧米での資本主義の揺らぎと比較すると、まだ日本の自民党は、資本主義色が強いと見られ、参院選での自民党の勝利を、外国人は歓迎すると言えます。

ただし、安倍政権がこれから打ち出す政策によっては、そうした外国人の評価もあっさり変わる可能性もあります。これから安倍政権が打ち出す政策が、外国人投資家にどう映るか、継続的にフォローします。