執筆:窪田真之
27日の日経平均は前週末比357円高の15,309円でした。24日にブレグジット(英のEU離脱)可決ショックで1,286円安と急落しましたが、27日は一旦反発しました。
27日の東京市場で、26日に実施されたスペイン総選挙の結果が判明しました。事前の予想に反し、与党が議席を増やしました。英国民投票後の世界の混乱が影響し、浮動票の一部が「現状維持」に流れました。今日は、そのことについて、コメントします。
(1)緊縮財政を継続することで、金融危機を脱したスペイン
スペインは、リーマンショック後に財政危機が顕在化しました。同時に、不動産バブルが崩壊し、スペインの銀行が巨額の不良資産をかかえました。財政への不安と、銀行財務への不安から、スペイン発の金融危機がおきかねない状況でした。2012年には、スペインだけでなく、ギリシャ・イタリアなど、南欧の過重債務国の信用不安が高まり、これらの国の国債が急落、利回りが急騰し、南欧債務危機と言われました。
2012年に、ECB(欧州中央銀行)は、スペイン・イタリアなどの国債を積極的に買い付け、財政危機におちいっている南欧諸国を側面から支援しました。また、EUは、スペインの金融機能をまひさせないために、スペインの銀行に金融支援を実施しました。
EUは金融支援の実施と同時に、スペインに緊縮財政を実行して、財政を改善することを求めました。スペインは、EUの指示にしたがって緊縮財政を続けました。
緊縮財政の効果があり、スペインでは、財政基礎収支・経常収支とも大幅に改善し、2014年1月には危機を脱しました。
スペインの財政基礎収支と経常収支(対名目GDP比率)の推移:2006年~2016年まで(2015年2016年はIMFの推定)
(2) 緊縮疲れから、反EU・反緊縮を掲げる左派が勢力を拡大しつつあったスペイン
スペインは、金融危機を脱したものの、まだ対外負債残高は大きく、銀行の不良債権額も依然大きいです。現在でも、EUの要請で、緊縮財政を続けています。
ただし、危機を脱しても緊縮を続けていることに対し、スペイン国民の間に不満が蓄積しつつあります。2014年に設立された急伸左派「ポデモス」は、反EU・反緊縮を掲げ、急速に支持を拡大しつつありました。
(3)スペイン総選挙で、事前予想に反し、与党国民党が議席を伸ばす
最近の世論調査では、スペインの総選挙では、与党国民党が議席を減らし、急進左派ポデモスが大幅に議席を伸ばして、第2党になると予想されていました。
ところが、ふたをあけると、26日の総選挙で議席を伸ばしたのは、与党国民党でした。
スペイン総選挙の結果
政党名 | 政策スタンス | 今回獲得議席 | 改選前議席 |
---|---|---|---|
国民党 | 中道右派(政府与党) | 137 | 123 |
社会労働党 | 中道左派(第2党) | 85 | 90 |
ポデモス | 急進左派(新興政党) | 71 | 71 |
シウダダノス | 中道右派(新興政党) | 32 | 40 |
その他 | 25 | 26 |
直前に起こったブレグジットショックが与党拡大に寄与しました。ブレグジットショックで世界の金融市場が混乱し、英経済に重大な不安が生じるのを見て、スペイン国民の一部は、大衆受けする新興勢力に投票することに不安を感じたようです。
ブレグジットが可決した後、イギリスや北アイルランド・ロンドンに、英国からの独立を検討する機運が出たこともスペイン総選挙に影響しました。スペインも、分離独立の問題をかかえています。経済力の強いカタルーニャ地方がスペインから独立する住民投票を実施することを目指しています。スペイン政府は、カタルーニャが住民投票を実施することを認めていません。
もし、急進左派が議席を伸ばし、スペインが反緊縮・反EUに動くと、カタルーニャに独立気運が強まるリスクがあると考えられます。その問題も、与党支持に追い風となりました。
(4)反グローバル主義・孤立主義に一定の歯止めがかかるか?
世界的に、反グローバル主義・孤立主義が増殖しつつあることが、世界経済および世界の株式投資にとって、リスクとなっています。英国民投票でのブレグジット可決は、孤立主義の隆盛を感じさせるできごとです。
ブレグジットに刺激されて、EU内に、反EU運動が一段と拡大することが懸念されていました。まだ予断を許しませんが、スペイン総選挙で、スペイン国民がポピュリズムに走ることに、自制を示したことは、好材料といえます。孤立主義の行き過ぎで、世界経済がダメージを受ける図が、ブレグジット可決後の混乱で見えたことが、スペイン国民に影響しました。ポピュリズムに不安を感じ、現実路線に返る国民が増えていくならば、世界の政治・経済を安定させることに、寄与します。まだ予断を許しません。今後の、世界の孤立主義・ポピュリズムの動向を、注意深く見ていく必要があります。
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