執筆:窪田真之

20日の日経平均は、前週末比365円高の15,965円でした。最新の英世論調査で、EU残留派が勢いを取り戻し、やや優勢となったことが好感されました。20日の海外市場でも、BREXIT(ブレグジット:英国のEU離脱)リスク低下を好感する流れが続き、欧米株が大きく上昇しました。為替市場では、英ポンドが対円、対米ドルで急騰しました。

ただし、今朝(21日)の午前6時現在、ドル円は1ドル103.91円と、やや円高に動いています。ブレグジット・リスク低下を好感して欧米株が上昇しても、円安は進みませんでした。20日のCME日経平均先物(9月限)は、15,810円と前日の日経平均引け値より155円安い水準となっています。

今日は、ブレグジットを問う今回の英国民投票と、2014年に実施されたスコットランドの独立を問う住民投票に類似点が多いことについて、コメントします。

(1)2014年スコットランド独立を問う住民投票の経験:投票直前の状況が今とよく似ている

英国の国民(住民)投票に世界がヒヤヒヤしたのは、2014年についでこれで2度目です。2014年9月18日には、スコットランド【注】の独立を問う住民投票が行われました。

【注】英国は、イングランド・スコットランド・ウエールズ・北アイルランドの実質4つの国から構成されています。古くからスコットランド・ウエールズ・北アイルランドには独立運動がありましたが、2014年にはスコットランド住民による、英国からの独立を問う住民投票が実行されました。

投票前には、「スコットランドの英国からの独立が可決されると、英国の信用力は著しく低下し、英国・欧州経済および世界に大きなダメージが及ぶ」と不安が広がっていました。今、英国がEUから離脱すると、英国・世界経済に大きなダメージが及ぶと不安が広がっているのと、似た状況でした。

2014年の世論調査では、当初、独立反対(英国に残留)派が優勢でしたが、徐々に独立賛成派が増加しました。一時、独立賛成派が反対派を上回りました。この時、スコットランドの独立が現実のものとなったとして、英国の経済界にパニックが広がりました。キャメロン首相は、イギリス経済界やエリザベス女王まで巻き込んで、スコットランド住民に独立を思いとどまるように大キャンペーンを展開しました。その成果もあって、投票直前の世論調査でなんとか独立反対派が僅差で優勢となりました。

9月18日の投票結果は、独立反対が55.3%、賛成が44.7%と大差で、英国への残留が決まりました。土壇場になって浮動票が「現状維持」に流れたため、大差での残留決定となりました。

(2)スコットランド独立の住民投票では、「経済」が焦点になった

スコットランドとイングランドの間には、長い歴史上の対立がありますが、2014年の独立運動で焦点になったのは、主に経済問題でした。1960年代にスコットランド沖で北海油田が発見されてから、スコットランド経済は、北海油田に支えられてきました。スコットランド独立派は、北海油田を持つスコットランドは、英国から独立した方が、1人当たりGDPが増加し、豊かになれると主張していました。ただし、イングランドと離れることで国家としての信用力が低下することに不安はありました。その不安をやわらげるために、スコットランド独立派は、独立後も通貨は英ポンドを使い、EU(欧州連合)に留まると主張していました。

独立を阻止したいキャメロン首相は、「スコットランドが独立したら英ポンドは使わせない。スコットランドはEUに加盟できない」と主張していました。同時に、スコットランドが主張する自治権拡大をかなり認め、独立阻止の実現を目指したのでした。スコットランドの独立が否決されたと伝わったとき、英国民だけでなく、世界が安堵しました。

(3)ブレグジットを問う国民投票、キャメロン首相が再び大キャンペーン

現在、ブレグジットを問う英国の国民投票が目前に迫っていますが、これまでの経緯が、スコットランドの英国からの独立を問う住民投票と、とてもよく似ています。当初、EU残留派が世論調査で優勢でしたが、徐々に離脱派が増加し、一時、離脱派が優勢になりました。

キャメロン首相が経済界を巻き込み、さらに国際社会の援護を受けて、英国民にEUから離脱することを思い留まるように、大キャンペーンを行っていますが、それもスコットランド独立投票の直前の状況と似ています。

EU残留を主張する女性議員が殺害されたニュースが、キャメロン首相の離脱阻止運動に有利に働き、足元の世論調査で、何とか僅差で残留派が逆転しました。これで、さらに6月23日の国民投票で、浮動票が現状維持(EUに残留)に流れれば、ある程度の差をつけて、英国のEU残留が可決されることになります。もしその通りになれば、スコットランド住民投票とほとんど同じ展開となります。

キャメロン首相の、国際社会を巻き込んでのEU残留キャンペーンは、かなり大掛かりとなっています。5月27日に開催された伊勢志摩サミットでは、キャメロン首相を援護するために、「英国がEUから離脱することは世界経済にとって深刻なリスクになる」との文言が声明文に採択されました。IMF(国際通貨基金)も、英国がEUから離脱すると、英国のGDP成長率が落ち込むとの試算を公表し、英国の離脱派をけん制しています。「英国がEUを離脱すると世界恐慌になる」という類のレポートも出ていますが、政治的なキャンペーンの一環として出されているものもあると考えられます。

スコットランドがEU残留を望んでいることも、EU残留キャンペーンに使われています。残留支持派は、「英国がEUから離脱すると、スコットランドはEUに残留するために英国から独立するだろう」と、スコットランドの独立運動まで利用して、EU残留キャンペーンを行っています。

キャメロン首相のキャンペーンが奏効して、2014年のスコットランド独立を問う投票では、独立を阻止できました。果たして、今回も、同じように英国のEU離脱が阻止されるでしょうか。最終結果に、世界が注目しています。

(4)6月24日の東京市場が英国民投票の結果を織り込む最初の市場になる可能性も

ブレグジットを問う英国民投票は、6月23日(木)に実施されます。出口調査などに基づいて投票結果の予想が出るのが、早ければ、日本時間の6月24日(金)早朝となります。さらに24日の日中に、開票速報も出てくる見込みです。投票結果がよほど僅差でない限り、東京市場が開いている間に、投票結果の大勢が判明すると考えられます。

EU残留が大勢と判明すれば、日本株に追い風となります。ただし、日本株がどこまで反発上昇するかは、為替によって制約されます。EU残留が判明すると仮定し、その時、どこまで円安が進むかが鍵です。EU残留が決まっても、米利上げが難しく、日銀の追加緩和も難しい状況は変わりません。円安(ドル高)があまり進まなければ、日経平均の上値も抑えられることになります。