執筆:香川睦

9日の日経平均は反落し、前日比162円安の16668円となりました。外部環境として、米国株や原油相場が堅調である一方、来週の日銀金融政策決定会合や23日の英国国民投票を巡る不透明感が根強く、為替は1ドル107円を割り込む円高となりました。朝方に発表された機械受注(4月分)が市場予想より下振れたことも株式市場の下落要因となりました。

10日の日本時間5時30分現在、為替は1ドル107.14円、CME日経平均先物(6月限)は16625円となっています。

(1)円高リスクは不安要因も、米国株高が支え

6月3日に発表された米雇用統計(5月分)では、非農業部門雇用者増加数が市場予想を大幅に下回り、今週初の東京市場は円高・株安で始まりました。

ただ、米景気の緩やかな回復基調を揺るがすものとは思われず、むしろ「低金利が続く中での景気回復」を好感した買いが先行し、米国株価は堅調に転じています(図表1)。ダウ平均(ダウ工業株30種平均)は最高値(18312ドル)まで307ドル、S&P500は最高値(2130ポイント)まで約0.6%に迫っています。

日銀の金融政策決定会合(6/15-16)や英国の国民投票(6/23)など警戒イベントを控える一方、米国市場のリスクオン(選好)が日経平均をも下支えている印象です。

図表1:日経平均、米ダウ平均、ドル円の推移

(出所)Bloombergのデータより楽天証券研究所作成(6月8日時点)

(2)低金利持続観測と原油相場の戻りで米国株高

米国株が堅調である要因の一つとして、原油相場の戻りが一段と鮮明になっていることも挙げられます。WTI先物は、バレル当り51.54ドルと約11カ月ぶりの水準まで回復(6月8日時点)、年初来では約38%上昇しています。

供給サイドの懸念は残るものの、インドを中心とするアジア新興国の原油需要増加や米国のドライブシーズン入り(ガソリン需要増加観測)が、需給バランスの改善観測に繋がっています。

原油相場の回復基調は、①一時のデフレ(ディスインフレ)懸念を後退させ、②エネルギー業界の業績見通しを改善させ、③投資家のリスクオン(選好)を喚起する傾向があります。このうち①については、原油相場回復に連動する形状で、市場の期待(予想)インフレ率改善に寄与してきたことに注目したいと思います(図表2)。

図表2:原油相場(WTI先物)と米期待インフレ率の推移

(出所)Bloombergのデータより楽天証券研究所作成(6月8日時点)

(3)米国株は業績の改善を視野に入れる動きに

こうした原油相場回復が、米企業業績の見通し改善を介して米国株式を支えていると考えられます。S&P500総合指数ベースの業績予想(EPSの前年同期比伸び:ブルームバーグ集計による市場予想平均)をみると、2014年以降の原油安で足元まで減益に陥ってきたエネルギー業界が、今年の7-9月期以降は増益に転じていくと予想されています。

暦年ベースでは、今年(2016年)は1.3%の微増益(エネルギーを除けば4.3%増益)に留ままりそうですが、来年(2017年)は二桁増益(全体で13.6%増益、エネルギーを除くベースでは11.0%増益)が見込まれています。

米国株式市場は、原油相場の底入れを背景に、「デフレ(ディスインフレ)懸念からの脱却」や「企業業績の改善」を織り込み始めたと考えられます。

図表3:S&P500指数ベースの平均EPS予想<前年同期比増減益率>

(出所)Bloomberg集計による市場予想平均より楽天証券研究所作成(2016年6月4日時点)

(4)高まる「BREXITリスク」への警戒感

一方、当面の市場には不安要因もあります。世界市場は、6月23日に英国で実施される「EU(欧州連合)残留の是非」を問う国民投票を、「BREXITリスク」と称して警戒しています。

「BREXIT」とは、Britain(英国)とExit(退出)を組み合わせた造語です。

EU全体の総人口のうち約1割、GDP(国内総生産)で約2割を占める英国が「EU離脱」となれば、欧州のみならず世界経済のリスク要因になりかねないと憂慮されています。

実際、英国財務省やBOE(英国中央銀行)は、「EUから離脱すれば、英国経済は景気後退に陥る」との見方を発表しています。英国内で実施されている世論調査では、「残留支持」と「離脱支持」が拮抗しており、予断を許さない状況です。投票結果が「離脱」と出れば、世界株式や為替相場が大きく揺れる可能性があり注意が必要です。

ただ、ご参考までに、英国最大のブックメーカー(賭け業者)で「冷静な判断が求められる(?)取引者」の掛け率から算出される「EU残留予想確率」は75%と高く、「EU離脱予想」(29%)を大きく上回っていることには注目したいと思います(図表4)。

いずれにせよ、「どちらに転ぶかわからない」との不透明感は市場の悪材料となりやすく、「不安が煽られやすいリスクイベント」として引き続き警戒したいと考えています。

図表4:大手ブックメーカーによる英・国民投票結果の予想確率
「EU(欧州連合)残留の是非を問う国民投票」の予想確率

(2016年6月8日予想)

  Fractional
Odds
Decimal
Odds
Probability
(予想確率)
投票はEU残留が過半を占める 1/3 1.33 75.0%
投票はEU離脱が過半を占める 12/5 3.40 29.4%

(出所)William Hill(英国公認ブックメーカー)公開サイトより楽天証券経済研究所作成(2016年6月8日時点)