執筆:香川睦
26日の日経平均は小幅続伸し、前日比15.11円高の16772.46円となりました。米国株が堅調を維持したことや、為替相場が1ドル110円前後を維持していることが株式市場全体の支えとなっています。ただ、G7首脳会合(伊勢志摩サミット)の合意発表を控えた見送り気分が株価の上値を抑えた印象もあります。
27日の日本時間5時30分現在、為替は1ドル109.78円、CME日経平均先物(6月限)は16875円となっています。
(1)市場はG7サミットを受けた政策発動に注目
国内株式の先行きを占う上で、市場参加者の関心が高いG7サミット(先進7カ国首脳会合)が昨日より伊勢志摩で開催されています。サミット閉幕時に発表される首脳間の合意内容と、各国政府による景気下支え策が注目されます。特に国内市場では、同サミットを受けて安倍政権が、①個人消費を下押しする可能性がある消費税率の再引き上げ(2017年4月予定)の先送りを決定するか、②補正予算の拡大を含む積極的な景気対策を決定するか、③日本銀行が、4月の政策決定会合で見送りを決めた金融緩和拡大に踏み切るか(次回の政策決定会合は6月15日-16日)、などが材料視される可能性が高いと考えます。
①と②は国内の先行き景況感を左右し、③は(間接的にせよ)為替相場の方向性に影響を与えると考えられます。換言すれば、サミットでの議論を踏まえた政府・金融当局による政策発動が、国内の先行き景況感を改善させ、為替市場での円高観測を後退(業績見通しを改善)させることで、国内株式の回復基調を支えていくことを期待したいと考えます。
(2)日経平均は円換算した米ダウ平均と相関性が高い:
足下で日経平均が戻り歩調にある要因として、米国株式の復調と為替相場でのドル円相場の戻りが挙げられます。米ダウ平均(ダウ工業株30種平均)を円換算した指数と、日経平均の相関性は高いことが知られています。下記の図表1は、2010年以降の米ダウ平均(円換算)と日経平均の推移を重ねたものです。両者の関係を回帰分析してみると、決定係数は0.96(相関係数は0.98)と計算され、高い相関性がみてとれます。わかりやすく言えば、「米国株が上昇したり為替が円安になると日経平均は上昇しやすく、米国株が下落したり為替が円高になると日経平均は下落しやすかった」市場実績を示しています。米国株が戻り基調を辿る中、米ドル金利の上昇観測を受け為替がドル高・円安気味となっていることが、日経平均の戻り歩調を支えていると言えそうです。
図表1:日経平均と米ダウ平均(円換算)の推移
(3)そもそも日本株には出遅れ感が強い:
今後の国内株式の基調を占う上で考慮したい事象の一つに、年初来の国際比較で日本株が「出遅れ感」を顕著にしてきたことが挙げられます。世界の機関投資家が運用ベンチマークとして使用することが多いMSCI指数を使い比較してみると一目瞭然です(図表2を参照)。今年に入り、世界的な景況感鈍化、為替の円高進行、リスクオフ(回避)を受けた外国人投資家による売り圧力を受け、「グローバル景況感と為替相場の変化に敏感な市場」と言われる日本株式は世界市場の中で劣後してきました。換言すれば、外部環境が改善に向かえば、出遅れを解消する動きが優勢となることも期待できそうです。
図表2:主要株式市場の年初来推移(2016年初=100、MSCI指数ベース)
(4)グローバル比較でみる日本株式の割安感:
国際比較でみた日本株式の割安感が注目される可能性にも注目したいと思います。MSCI指数をベースに、各国の予想PER(株価収益率=株価÷指数ベースの予想1株当り利益)、予想PBR(株価純資産倍率=株価÷指数ベースの予想1株当り純資産)、予想配当利回りスプレッド(指数ベースの予想配当利回り-10年国債利回り)を比較すると、バリュエーション面で日本株式の割安感がみてとれます(図表3を参照)。特に、予想PERで約13.2倍、予想PBRで約1.1倍程度に留まっている日本の株価水準は、長期実績と比較しても割安ゾーンにあると言えます。史上初めてマイナス圏に水没した10年国債利回りを勘案すれば、配当利回り面の投資魅力も鮮明にみえます。
図表3:主要先進国株式のバリュエーション比較(MSCI指数ベース)
国 名 | 通貨 | 年初来 騰落率 |
予想PER (倍) |
予想PBR (倍) |
予想配当 利回り |
10年国債 利回り |
利回り スプレッド |
---|---|---|---|---|---|---|---|
日本株式 | 円 | -14.0% | 13.16 | 1.08 | 2.41% | -0.11% | 2.52% |
米国株式 | ドル | 2.0% | 18.10 | 2.69 | 2.17% | 1.85% | 0.31% |
ドイツ株式 | ユーロ | -7.1% | 13.22 | 1.51 | 3.16% | 0.15% | 3.01% |
フランス株式 | ユーロ | -2.8% | 15.24 | 1.42 | 3.62% | 0.48% | 3.14% |
英国株式 | ポンド | 0.2% | 16.99 | 1.74 | 4.18% | 1.46% | 2.72% |
(出所)MSCI指数、Bloombergのデータより楽天証券研究所作成
(5)為替相場での円高一巡感に注目:
なお、為替相場で潮目の変化がみられる点にも注目したいと思います。5月以降の米景況感の改善や4月のFOMC(米連邦公開市場委員会)議事録要旨を受けたドル金利の先高感で、為替市場でのドル安・円高観測は後退しつつあります。米国のFF金利先物の動向から試算される「6月と7月のFOMC(米連邦公開市場委員会)における利上げ予想確率」は最近急上昇しています(図表4)。実際に、次回のFOMC(6月14-15日)で追加利上げが決定されるか否かは、6月3日に発表される5月雇用統計の内容や、英国で6月23日に実施される国民投票(英国のEUからの離脱を巡る賛否を問う)に向けた市場変動次第、との見方もあります。いずれにせよ、「ドル金利上昇観測(=ドル高観測)」が浮上してきた趨勢に注目したいと思います。なお、27日(米国時間)にはイエレンFRB(米連邦制度準備理事会)議長が講演を行う予定となっており、市場はその発言内容も注目しています。
図表4:米FF金利先物市場で試算される6月・7月FOMCでの利上げ予想確率
(6)まとめ
国内株式市場は当面、(Ⅰ)G7サミットで各国首脳が議論する「世界景気下支え」を巡る合意、(Ⅱ)同サミットを受けた日本の政府・金融当局による政策発動(アクション)の規模と実効性、(Ⅲ)米景況感の改善を映す米国株堅調とドル高(円安)の持続性、などを見極める動きが主流となりそうです。 リスクシナリオとしては、上記諸条件が市場の期待に沿わず、米国株やドル円相場が一転下落する事態となれば、国内株式(日経平均)も再び下値を探る展開を余儀なくされる可能性があり警戒を要します。
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