9日の日経平均は109円高の16,216円でした。為替が1ドル107円台後半へやや円安に動いたことから、日経平均に買い戻しが入りました。円高で売られ円安で買い戻される為替連動相場が続いています。
この日、麻生財務相が、為替市場での急激な円高に対して「当然介入の用意がある」と語ったことが話題になりました。米国が4月下旬に日本を為替操作国として監視リストに入れたため、日銀は円売り介入をできないという見方が広がり、円高に拍車がかかりましたが、麻生財務相はその見方を否定しました。
10日の日本時間午前6時30分現在、為替は1ドル108.40円です。麻生発言が単なる口先介入なのか、本当に介入を実施するのか、見極められていない状態ですが、為替はやや円安に動きました。9日のCME日経平均先物(6月限)は16,275円となりました。
今日は、サービス化社会への対応力を反映し、二極化するPER(株価収益率)について、考えていることを書きます。
(1)二極化するPER(株価収益率)、製造業が低く、非製造業が高い
東証株価指数(TOPIX)の平均PER【注】は、現在、15.5倍です。10年前には20倍以上ありましたが、その後、低下が続いています。その頃と比較して、日本株はPERで見て割安になったといえます。
【注】PERとは
PERは、株価の割安度を示すもっとも代表的な株価指標です。ピー・イー・アールまたはパーと呼びます。株価が1株当たり利益の何倍まで買われているか、を示しています。倍率が高いほど株価は割高、倍率が低いほど株価は割安と判断されます。
ただ、個別銘柄を見ると、PERは二極化していることがわかります。製造業のPERが低く、非製造業のPERが高いことが、わかります。製造業は、利益が不安定なので、PERで高い水準まで買われにくくなっています。たとえば、自動車株がそうです。現在、高い利益をあげていても、リーマンショックのような不況があると、赤字に転落する可能性があります。世界経済に不安要因が増える中、日本の自動車株はPER10倍前後に据え置かれ、株価の上値は重くなっています。
製造業と同様に、金融業もPERが低くなっています。マイナス金利時代を迎え、製造業と同様に、利益が不安定化するとの懸念が出ているためです。
一方、サービス・情報通信など、非製造業は好調です。円高や世界景気悪化の影響を受けにくく、安定的に需要が伸びる恩恵を受けています。収益基盤が安定している非製造業はPERで高く評価される傾向があります。
PERの低い製造業・金融業、PERの高い情報通信・サービス・小売業:5月9日時点
コード | 銘柄名 | 業種 | 連結予想PER:倍 |
---|---|---|---|
5108 | ブリヂストン | ゴム | 10 |
6471 | 日本精工 | 機械 | 8 |
6501 | 日立製作所 | 電機 | 10 |
7203 | トヨタ自動車 | 自動車 | 8 |
8306 | 三菱UFJ FG | 銀行 | 7 |
コード | 銘柄名 | 業種 | 連結予想PER:倍 |
---|---|---|---|
4307 | 野村総合研究所 | 情報通信 | 21 |
4661 | オリエンタルランド | サービス | 32 |
7453 | 良品計画 | 小売り | 28 |
9613 | エヌ・ティ・ティ・データ | 情報通信 | 28 |
9735 | セコム | サービス | 23 |
(2)21世紀に入り、製造業で成長するビジネスモデルが崩壊
20世紀は、モノの豊かさを求めて人類が努力した時代でした。当時は、モノの大量生産技術を開発した製造業に投資すると、高い投資成果が得られました。ところが、21世紀に入り、状況は変わりました。モノは人気が出て一時的に不足しても、すぐ大量供給されて、価格が急落するようになりました。
中国・韓国・台湾企業などアジア企業が、製造業で成長するビジネスモデルを壊してしまいました。欧米では、競争激化で産業全体に利益率が低下すると、生産を減らすのが普通です。ところが、アジアの製造業は違います。全社が赤字になってもシェア競争を優先し、生産を減らさない企業がたくさん出ました。その結果、「製造業では利益を上げられない」というイメージが世界中に広がりました。
(3)サービス化社会を迎え、非製造業が安定成長
モノが供給過剰になる中、良質なサービスは供給不足が続いています。先日、「保育園落ちた、日本死ね」という女性からのネット投稿が話題になりましたが、共働き世帯に対する保育サービスは完全な供給不足です。保育に限らず、医療・介護・教育・防犯・警備・トラック運転士・熟練建設工など、良質なサービスが不足している分野はたくさんあります。サービスは、モノのように工場で大量生産することができないからです。供給を10倍にするためには、投入する人材を10倍にしないとならないような分野が数多く残っているからです。
供給が需要に追いついていないことから、サービス産業は、安定的に成長が続いています。ところが、この分野では、なかなか上場企業が現れにくいのも事実です。供給を10倍にするために、人材を10倍投入しないとならないサービス業は、上場企業となりにくいのです。いまだに、サービス産業は、無数の中小企業によって構成されている状況です。
なんらかの仕組みを作って、良質なサービスの大量供給に成功した企業は、サービス産業で成長企業となります。オリエンタルランド(4661)は、東京ディズニーリゾートを通じて、付加価値の高いレジャーの大量供給を実現したので、安定成長企業となりました。セコム(9735)は機械警備によって、警備サービスの大量供給に成功しました。今、ドローンを警備に活用したり、介護ロボットの開発に注力するなど、さらにサービスの量産技術に磨きをかけようと努力しています。
ITサービスは、いずれも、サービスの大量生産に道をつけるものです。Eコマースは、リアル店舗を作るコストを省き、ネットを通じて、小売サービスの量産を可能にしたものです。情報通信・サービス業に、PERが高い銘柄が多いのは、景気変動の影響を受けにくい安定成長の仕組みを作ったことに対する評価と言えます。
(4)米国も日本も製造業が不振、非製造業が好調
米国では、製造業不振が長引いています。ただし、米経済では30~40年前から製造業の空洞化が進んでおり、製造業への依存が低くなっています。IT・サービス・消費関連産業の成長が続いているので、肌感覚で見た米経済は好調です。
一方、日本は製造業王国です。円高や世界経済の減速によって製造業の業績が悪化しているため、日本全体の景況が悪化しています。ただし、その日本でも非製造業は好調です。日本で、製造業のPERが低く、非製造業のPERが高いのは、一時的な景況の差を表しているだけではなく、日本も、米国と同様の、サービス化社会を迎えつつあることを株式市場が織り込みつつあると見ています。
米国ISM製造業・非製造業景況指数の推移
大企業の製造業・非製造業DIの推移
(5)稼ぐ製造業のビジネスモデルは、どのようなものか?
「これはサービスです」は、日本語では「無料です」を意味します。昔、日本にはモノを売るためにサービスをただで提供する慣行があったので、そういう言葉が生まれました。ところが、今の企業には、正反対の行動が広がっています。「アフターサービスで稼ぐために、ハードは赤字で売る」ビジネスモデルが広がっています。アフターサービスは、消耗品の販売、メンテナンス、システム化、カスタム対応、エンジニアリングなど、さまざまな分野に広がっています。
たとえば、日本の機械産業は、汎用機械では利益を得にくくなっています。顧客別のシステム対応・カスタム化が利益を上げる鍵となっています。大量生産できる汎用品は低収益で、少量多品種の特注品が利益の柱となることが多くなりました。メンテナンスや交換部品の提供も、安定収益として重要になってきています。
電機産業も同じです。汎用品の量産競争になりがちな、民生電機分野(テレビや音響機器など)で日本企業は競争力を失いました。メンテナンス・システム化・カスタム対応が重要な産業用電機で、日本企業の競争力が維持されています。
PCやメインフレームは、今や完全に汎用品となりました。NEC(6701)でも富士通(6702)でも、ITサービスで稼ぐためにコンピュータ(ハード)は低収益で続ける時代になっています。OA機器(プリンターなど)も、ハードでは利益がほとんど出ず、消耗品(インクなど)で稼ぐビジネスモデルが定着しています。
製造業では、製造を外部委託して、生産管理・商品開発・販売企画だけを行う「ファブレス」企業も好調です。キーエンス(6861)は、ファブレス製造業の強みを生かし、安定的に高収益をあげています。製造小売業と言われる良品計画(7453)やファーストリテイリング(9983)も、ファブレス製造業と同様の強みを持ちます。
(6)モノを使ってサービスを大量生産する方法
日本はロボット王国です。これまで産業用ロボットで成長してきました。産業用ロボットは、カスタム対応が大切なので、これからも成長が続くと考えられます。ただし、モノが余剰、サービスが不足する世紀に入り、より重要性が高まっているのが、サービスロボットの実用化です。
医療・介護・警備・清掃・危険箇所での作業・受付・コンサルティングなどに使われるロボットの開発が進んでいます。サービスロボットは人間の姿をしているイメージがあるが、人間の形である必然性はありません。将来的には、するべき仕事に合理的な姿になると考えられます。どんなものにも、IOT(インターネット接続)とAI(人口知能)の機能をつければ、それはロボットになります。自己学習機能を持つAI(DEEP LEARNING)機能をつければ「人間的」と思われている仕事の能力もかなり向上します。
製造業が強い日本は、製造業の復権にロボットを活用していくことになるでしょう。今、ロボットで、ハードを作ることが重要と思われているが、将来的にはロボットに組み込むプロブラムが重要と考えが変わるでしょう。将来的には、ロボットもPCのように汎用化し、中に組み込むシステムの開発が重要という時代になるかもしれません。
(7)投資銘柄選別で考えるべきこと
割安株投資が好きな人は、ついPERの低い製造業や金融業ばかりに投資しがちです。一方、成長株投資が好きな人は、ついPERの高い非製造業や小型成長株ばかりに投資しがちです。私は、両方に分散投資する必要があると考えています。
PERの低い製造業からは、サービス化社会への対応力をつけつつある銘柄を選ぶべきです。一方、安定的に成長する非製造業では、株価が急激に上がった銘柄ではなく、まだ成長を十分に評価されていない銘柄を選んでいくことが必要と考えています。
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