19日の日経平均は、前日比598円高の16,874円でした。18日の急落(572円安)を1日で取り戻しました。2日間の日経平均の急落急騰に一番大きな影響を与えたのが、原油価格をめぐる思惑です。

17日のドーハ産油国会議で原油増産凍結の合意ができず、原油急落必至と考えられたことから、18日の日経平均は急落しました。ところが、18日の米国市場で、WTI原油先物が急落後に持ち直したことを好感し、19日の日経平均は急騰しました。

なぜ、原油をめぐる思惑が、これほど日本株に大きな影響を及ぼすのでしょうか?原油は果たして下がるのか上がるのか、今日は、考えていることを書きます。

WTI原油先物(期近)の動き:2014年4月1日―2016年4月18日

(出所:シェールオイル生産コストは楽天証券経済研究所の推定)

(1)日本企業の業績は、原油が上がれば上がったほうが良くなる

日本は、原油などの資源は、輸入に頼っています。資源価格下落は、日本の景気・企業業績にとって、長期的な視点にたてば追い風です。ところが、今期(2017年3月期)の企業業績に限定すると、話が逆になります。資源価格が上がれば上がるほど、業績は改善します。下がってしまうと、今期業績に下押し圧力がかかります。

前期(2016年3月期)もそうです。資源価格が期末にかけて急落したことが、1-3月期の企業業績を大幅に悪化させました。1-3月は、資源権益の減損(大手総合商社)、資源国ビジネスの悪化(造船重機・鉱山機械・海運など)、輸入資源の在庫評価損(石油・鉄鋼・非鉄など)が、日本企業の業績を悪化させました。

資源価格の上昇が続けば、4月以降はそうした損失がなくなります。石油精製・鉄鋼では、高値在庫がなくなることで、原料安メリットが得られるようになります。

(2)「世界景気敏感株」である日本株は原油上昇で買われ、原油下落で売られる

今の世界経済には、資源安ショックの影響で、下方圧力がかかっています。原油の上昇が続くと、世界経済が好転する期待が高まります。原油が反落すると、世界経済への不安が再燃します。世界の金融市場も、原油価格に神経質に反応します。

資源価格上昇で連鎖する「リスク・オン」

  • ブラジル・ロシアなどの資源国の景気が回復する
  • ブラジル・レアル、南アフリカ・ランドなど、高金利通貨が買われる
  • 資源関連ファイナンスの信用不安が後退し、ハイイールド債が買われる
  • 米国の石油産業(シェ-ル・オイル等)の業績が改善し、米国景気が改善する
  • 産油国が世界の金融資産の売却をやめる
  • 世界的に株が上昇する
  • 世界景気敏感株である日本株に外国人の買いが入る

資源価格下落で連鎖する「リスク・オフ」

  • ブラジル・ロシアなどの資源国の景気が悪化する
  • ブラジル・レアル、南アフリカ・ランドなど、高金利通貨が売られ、円高になる
  • 資源関連ファイナンスの信用不安が高まり、ハイイールド債が売られる
  • 米国の石油産業(シェ-ル・オイル等)の業況が悪化し、米景気も軟化する
  • 産油国が石油収入の減少を補うために世界の金融資産を売却する
  • 世界的に株が下落する
  • 世界景気敏感株である日本株に外国人の売りが入る

外国人投資家から見て、日本株は、製造業・輸出産業の構成比が高い、「世界景気敏感株」です。原油先物が下がると、外国人が日本株を売り、原油先物が上がると、外国人が日本株を買う傾向があります。

原油先物の上昇下落に反応して、日本株が上昇下落する流れがしばらく続きそうです。

(3)原油価格は下がるのか?

簡単に要旨を紹介します。

コモディティ市場には、「原油暴落説」が根強く残っています。その根拠は、いろいろありますが、以下の4点に絞られます。

  • 中国景気減速で、中国需要が減少する懸念がある。
  • 米国シェールオイルは生産コストが高いのでいずれ生産が減ると予想されながら、なかなか減少に向かわない。
  • 中東原油の増産圧力続く、ドーハの産油国会議で「増産凍結」を合意することは困難。6月のOPEC総会でも、増産凍結の合意は困難。
  • 原油在庫は世界的に高水準のまま。

(4)原油価格は上がるのか?

一方、原油価格は反発基調を維持するとの見方もあります。世界的な供給過剰が徐々に解消に向かうことが、理由です。

米国で、供給が減少し、需要が増加する影響が大きいと考えられています。中国の原油需要は減少する懸念もありますが、米国需要の大幅拡大で世界需要は増加する見通しです。米国では、エネルギー需要が拡大しています。小型車の売れ行きが不振で、アメリカ人の大好きなパワフルな大型車がよく売れています。

米国のシェールオイル生産は、既存の大型油井が増産したために、これまでなかなか減少しませんでした。ところが、新規開発が大幅に減少しているので、その効果で、今後ようやく米国の原油生産が減少に向かう見通しです。

結論として、目先、原油下落のリスクが高まっているものの、深押しとはならず、年後半には強含むと考えられます。

原油暴落説がささやかれる中で、案の定、ドーハ会議では合意ができませんでした。イランが会議に参加せず、イランと敵対関係にあるサウジアラビアは「イランだけに漁夫の利を得させない」と、増産凍結合意に加わることを拒否しました。

「原油急落必至」と考えられる中、18日には、クウェートで大規模ストがあり、同国産油量が減少するとのニュースが飛び込みました。それを受けて、原油は下げ幅を縮小しました。

原油先物は、目先の材料に反応して、短期的に上がったり下がったりしていますが、最終的には世界的な供給過剰がどうなるかによって、動く方向が決まるはずです。

原油をめぐる目先の材料と、世界的な原油需給の変化を、これからも良く見ていく必要があります。日本株の上昇下落に大きく影響するので、本欄でも継続してこのテーマを取り上げます。