7日の日経平均は前日比34円高の15,749円でした。1ドル109円を割れ、一時108.78円まで円高が進んだのを受けて、下落する場面もありましたが、円高の影響を受けにくい内需株に買いが入り、小反発で引けました。

ただし、その後、さらに円高が進んでいます。7日の日本時間22時35分には1ドル107.92円まで円高が進みました。8日の日本時間午前7時には、1ドル108.26円となっています。7日のCME日経平均先物(6月限)は15,445円に下がりました。今日の日経平均も大きく下がりそうです。

今日は、ここまで円高が進んできた背景の説明と、今後の為替の動きについての考え方を書きます。

(1) 為替ディーラーの間で日銀の為替介入があるかないかが話題に

米FRBが利上げを見送った3月15日から円高トライが始まりました。FOMCメンバーによる年内の利上げ回数予測が4回(1%)から2回(0.5%)に下がったことが材料視され、為替ディーラーは、当分米利上げは難しいと踏んで、円の上値を試す動きに出ました。円ロング(買いポジション)を膨らませ、円高で稼ごうと虎視眈々と狙い始めました。

ドル円為替レートの動き:2016年1月1日―4月7日(日本時間22時35分まで)

そんな円ロング筋が一番気にしていたのが、日銀による円売り介入です。過去、円が急激に上昇した時、しばしば日銀は円売り介入を行ってきました。介入直後に、短期的に1~2円も円安に飛ぶことがあり、円ロング筋に日銀は怖い存在です。近年、日銀による為替介入は行われていませんが、いつまた介入が復活するかビクビクしているところでした。

(2)日銀が為替介入しないことを確認しつつ、円買い圧力を強めた投機筋

ただし、日銀が今、露骨に為替介入しにくい状態にあることを、円ロング筋は見透かしてもいました。2月のG20では、日本を名指しすることはありませんでしたが、「通貨安競争は望ましくない」と暗に日本や欧州の通貨安政策を批判する議論が行われました。

米国は、公式に日本の為替政策を批判してはいませんが、大統領選の予備選挙で、共和党候補のドナルド・トランプ氏が、日本を為替操作国として強く非難しています。トランプ氏の人気を意識して、民主党の有力候補のクリントン氏も、日本の為替操作を批判する発言をし始めています。そんな中、日銀が円売り介入をやれば、トランプ氏の思うツボです。「貿易で米国の雇用を奪っている日本をたたく」とさらに発言をエスカレートさせることになるでしょう。

(3)日銀はレート・チェックの奇手で、円買いをけん制

日銀は、マイナス金利まで導入したのに、円高が進んでいくことを、苦々しく思っていると思われます。3月17日にはレート・チェック【注】で、投機筋をけん制する手段に出ました。

【注】レート・チェック:日銀が、民間銀行の為替部門担当者に、為替レートの水準がいくらか問い合わせるとともに、為替市場の状況をヒアリングすること。かつて、日銀が為替介入を積極的にやっていた時、介入を行う前にレート・チェックを行うことが多かった。その頃の連想から、レート・チェックが入ったとの噂が広がると、円ロング・ポジションを閉じるディーラーが増える。

日銀は、為替介入をする予定がないのに、わざとレート・チェックだけする奇手で、3月17日は、1ドル110.62円まで進んでいた円高を食い止めました。その後、米要人から利上げに前向きな発言が出たこともあって、3月後半に1ドル114円の手前まで円安に戻すことができました。しかし、その後、米FRBイエレン議長から「利上げに慎重」とのハト派発言が出て、再び、円高を試す動きが出ました。為替介入にびくびくしながら、円を買っていく動きが続きました。

(4)安倍発言でさらに円高に

そのような中、5日には訪米中の安倍首相が、米国ウォール・ストリート・ジャーナル紙のインタビューに答えて、「恣意的な為替市場への介入は慎まなければならない」と話したとの報道が出ました。この報道をきっかけに、さらに円高が進みました。

こうして円高が加速するに至り、今度は、政府筋から円高けん制発言が出始めました。菅官房長官は7日午前の会見で、円高が加速していることに対し、「場合によっては必要な措置を取りたい」と介入を辞さない姿勢を示しました。財務省幹部も、足元の円高水準は一方に偏った動きだとし、必要な措置を取る可能性を示唆しています。

ところが投機筋は、日銀も政府筋も、口先介入だけと踏んで、今のところ、円の上値を試す動きをやめていません。

(5)米FRBによる6月利上げの思惑が広がれば円安に

日銀が円売り介入を実行すれば、一時的に円安に戻るでしょう。ただし、介入がなければ、4月中は、円高圧力が続く可能性もあります。

為替のトレンドが変わるためには、米FRBによる利上げの話しが蒸し返す必要があります。米コア・インフレ率が2%台に高止まりし、米景気が堅調を維持すれば、いずれ6月利上げの思惑が出る可能性があります。5月には、6月米利上げの思惑が広がって、円安になることを想定しています。

当分、為替介入の有無と、米利上げ思惑の復活があるかないか、慎重に見極める必要があります。円安に大きく反転する局面があれば、そこで、日経平均も反発すると思います。予断を持たず、為替の動きをしっかりチェックしていこうと思います。