15日の日経平均は142円安の16,974円でした。イベント(米FOMC(金融政策決定会合)の結果発表)を控え、1ドル113円台に円高が進んだことから、利益確定売りが出ました。

16日(日本時間では17日午前3時)に、米FOMC結果が発表されました。事前の市場予想通り、利上げはありませんでした。年内の利上げ見通しについて、FOMCメンバーの予想(中央値)も下方修正されました。これまでは0.25%の利上げが年内4回想定されていましたが、2回に減りました。これを受けて、1ドル112円台に円高が進行しました。為替は日本時間で17日午前6時現在1ドル112.57円、同時刻のCME日経平均先物は16,815円です。

(1)米FOMC声明文・イエレン議長の発言から読み取れること

今回、利上げが実施されないことは、事前予想通りでした。ただし、FF金利の2016年末の予想値(FOMCメンバーの予想中央値)が、1.375%から0.875%まで引き下げられたのは、やや意外感がありました。年内の追加利上げ回数が、これまでは4回(利上げ幅合計1%)想定されていましたが、2回(同0.5%)に減少しました(注)。

(注) 現在のFF金利の誘導水準は0.25-0.5%(中央値は0.375%)です。これまで年内1%(0.25%の利上げを4回)の利上げが想定されていましたが、今回のFOMCメンバー予想では0.5%の利上げ(0.25%の利上げを2回)しか想定されていないことになります。

FOMC声明文では、米景気は堅調で、とりわけ労働市場の改善が進んでいるとの認識が示されています。ただし、世界景気の減速や金融市場の状況を考えると、追加利上げの環境が整うのに、やや時間を要するとの解釈につながっています。

これまで市場コンセンサス予想では、年内2~3回の利上げが想定されていましたが、今後、年内利上げ回数は1~2回が市場コンセンサスになると思われます。3月の利上げが見送られた後、6月に利上げが行われるかが、次の焦点でしたが、6月の利上げも難しいという印象につながっています。ちなみに、私の予想では、年内の追加利上げは年末に1回のみです。

これを受けて、為替はやや円高に進みました。ただし、FOMC結果発表後の、米FRB(中央銀行)のイエレン議長の会見で、年内の利上げは可能との見通しを改めて示したことから、大幅な円高進行にはつながっていません。イエレン議長が年内利上げの根拠としているのが、アメリカで足元インフレ率が上昇していることです。

今回のFOMCのメッセージをすべてトータルして見ると、米利上げはやや難しくなったものの、先行き利上げが進むとの見通し自体を否定するものとはなりませんでした。その結果が、1ドル112円台への円高進行となりました。

(2)トランプ旋風も少しずつ影響か

アメリカの大統領予備選挙で、共和党候補者で、人種や宗教への差別発言や、極端な対外強硬論が目立つドナルド・トランプ氏への高い支持率が継続しています。共和党の大統領選候補者が、トランプ氏になる可能性も高まりました。民主党では、クリントン氏が指名に近づいています。大統領選が、クリントン氏とトランプ氏の一騎打ちになる可能性出てきています

トランプ氏が人気を博している背景に、強いアメリカを取り戻すというメッセージを繰り返していることがあります。トランプ氏は、メキシコ・中国・日本などの国々が、米国の雇用を奪っていると非難しています。メキシコとの国境の間に、万里の長城のような壁を築き、不法移民の流入を防ぐと話しています。日本は為替を操作(円安誘導)しているとし、日本の輸出企業を名指しで批判しています。TPPも何も生み出さないとして、反対を表明しています。

トランプ氏の発言は、日本企業が米国で現地生産を拡大し、米国の雇用を拡大している事実を無視しているとの批判はありますが、問題は、為替操作への言及です。こうした発言を繰り返すトランプ氏が人気を博していることが、クリントン氏の発言にも影響を与え始めています。実際、TPPを支持していたクリントン氏は、今のままではTPPに賛成できないと発言を変えています。

今後、日本の円安誘導を容認しないムードが米政界に広がる可能性には注意が必要です。米FRBは独立性を維持しており、今の大統領選のムードから影響を受けているわけではありませんが、まったく影響がないともいえません。利上げはドル高につながり、米輸出企業の競争力をさらに低下させることになります。米大統領選のムードも利上げに逆風になりつつある可能性もあります。

(3)世界に広がる反グローバル主義

最近、世界中の国々に、孤立主義(他国との関係を絶つ)・対外強硬論(他国を非難する)が広がりつつあることに懸念を感じます。アメリカの大統領選でトランプ旋風が吹きやまないのは、米国内に反グローバル主義が広がりつつある兆しと見ることもできます。トランプ氏が大統領にならなかった場合でも、米国内に反グローバル主義が広がりつつあること自体は変わらないので、今後の米国の外交の変化には注意が必要です。

反グローバル主義が人気を博しているのは、米国だけではありません。英国でも、EU(欧州共同体)からの離脱論が人気を博しています。EUから離脱すると、ロンドンの国際金融市場としての価値は低下し、英国経済にマイナスととらえられています。それでも、孤立主義に進みたいというムードがイギリスにも広がっています。ドイツでも、難民受け入れに反対する政党が大躍進しています。世界的に反グローバル政党が力を得つつあることは、注意を要する事態です。