2月9日の日経平均は918円安の16,085円でした。一時1ドル114.21円まで円高が進んだことが、嫌気されました。9日は、日本の長期金利(新発10年もの国債利回り)が、ついに▲0.0227%とマイナスになったことが話題になりました。日本でマイナス金利が広がっているのに円高(ドル安)が進むのは、ドル金利の先高感が低下しつつあることが原因と考えられます。

米FRBが3月だけでなく、6月以降も追加利上げを見送るとの予想が広がれば、1ドル110円に向けて円高が進む可能性も否定できません。今日は、「ドル円為替レートの適正水準」について考え方を書きます。

(1)日本の長期金利はマイナスまで下がったが、それでも日米長期金利差は広がっていない

米FRB(中央銀行)は、昨年12月に利上げを実施しました。一方、日銀は1月にマイナス金利導入に踏み切りました。これを受けて日本の長期金利は急低下し、10年金利までマイナス圏に突入しました。

日米で金融政策の方向が異なるので、日米長期金利差が拡大しているイメージをお持ちの方もいるかもしれません。事実は異なります。アメリカは利上げを実施しましたが、それでも米長期金利は低下が続いています。その結果、日本の長期金利がマイナスになっても、日米長期金利差は、拡大しなくなっています。

日米長期金利の推移:2011年9月26日-2016年2月9日

日米長期金利差と、ドル円為替レートの推移:2011年9月26日-2016年2月9日

2013年は、日米長期金利差の拡大を受けて、円安(ドル高)が進みました。ところが、2014年以降は、日米長期金利差が縮小する中で、さらなる円安が進みました。2014年以降は、米利上げで将来ドル長期金利が上昇する期待を織り込みながら、円安(ドル高)が進んでいたと解釈することができます。

ところが、最近になって、アメリカが追加利上げを実施するのは困難な情勢になってきています。それが、最近、為替が円高(ドル安)に転じている理由と考えられます。

アメリカが今年、複数回にわたって利上げを実施すれば、米長期金利にも上昇圧力がかかる可能性がありますが、米景気がやや減速しつつあること、資源価格の急落によって米国でもインフレ率低下が進んでいること、米利上げが世界の金融市場を不安定にするリスクが高まっていることを考えると、米FRBが追加利上げをするのは困難な状況と言えます。私は、今年は、年末に1回だけ米FRBが利上げを行うと予測しています。

(2)購買力平価から見ると、ドル円為替レートの適正水準は当面1ドル110-120円

ドル円為替レートは、長期的に購買力平価(企業物価ベース)を中心に±20%の範囲で動いています。現在、購買力平価(企業物価ベース)は1ドル約100円です。購買力平価から判断すると、1ドル110円まで円高が進んでも不思議ではありません。

ただし、購買力平価は短期的な為替レート変動の目標値となるものではありません。あくまでも長期的な為替変動を考える上での参考値にしかすぎません。円安・円高のトレンドを決めるのが、日米金融政策という状況に変化はありません。

購買力平価および日米金融政策の方向性の差を考慮すると、当面のドル円為替レートの適正水準は、1ドル110-120円と考えることができます。米FRBが今年まったく追加利上げを実施できない場合には、1ドル110円を目指す展開となることが予想されます。米FRBが年内に2~3回の利上げを実施するケースでは、為替は1ドル120円を目指すことになると考えられます。

ドル円為替レート:購買力平価(企業物価ベース)と実際の為替レート推移:2007年1月~2016年2月9日

出所:購買力平価(企業物価)は公益財団法人国際通貨研究所

【参考】ドル円為替レートを変動させる要因(需給分析)

ドル円為替レートを動かすマネーには、以下の3種類があります。

  • 短期投資マネーの動き

日米短期金利差・日米金融政策の方向性の差・中央銀行による為替介入その他各種材料に反応して動きます。

  • 長期投資マネー(証券投資・M&A・直接投資)の動き

日米長期金利差(債券投資に影響)・日米企業業績のモメンタム差(株式投資に影響)、M&A(日本企業の海外企業買収、海外企業の日本企業買収)、海外直接投資(日本企業が海外で工場を建設)などに対応して動きます。

  • 貿易・サービス収支によるお金の流れ、他

為替レート変動を決めるのに一番影響が大きいのは、①短期マネーの動きです。ついで、②長期投資マネーの動きも大きく影響します。③貿易・サービス収支が為替を動かすことはほとんどありません。貿易による資金移動よりも、短・長期の投資マネーの動きの方が、規模もスピードもはるかに大きいからです。