先週の日経平均は前週比▲699円の16,819円でした。米景気に減速感が強まり、1ドル116円台まで円高(ドル安)が進んだことが嫌気されました。先週末のCME日経平均先物(3月限)は、16,560円(日経平均終値対比▲259円)まで下がっており、今週も下値波乱が続きそうです。日銀のマイナス金利導入にリフレ(インフレ期待を高める)効果はなく、かえってデフレマインドを深めた結果となりました。発表中の10-12月期決算で、決算発表と同時に通期(2016年3月期)業績見通しを下方修正して売られる銘柄が多いことも、警戒感を強める要因となっています。

(1)先週、円高(ドル安)が進んだ理由

2つの理由があります。

  • マイナス金利適用となる当座預金が10兆円のみと判明したこと
    1月29日にマイナス金利導入が発表された直後は、金融機関が日銀に預けている当座預金260兆円のうちのかなりの部分が流出するイメージが広がり、円安が進みました。ところが、日銀が2月3日にマイナス金利が適用されるのは当面10兆円のみと発表すると、実際に動くお金は少ないことがわかり、円高に反転しました。
  • 米景気減速を示す指標の発表が続く
    先週、発表になったISM製造業景況指数は予想通り低調で、さらに非製造業景況指数も低下しました。先週末に発表された1月の雇用総計は、「非農業部門雇用者増加数」が予想以上に低下し、ネガティブでした。アメリカの追加利上げが遠のく見通しが広がり、ドル安(円高)が進みました。

(2)マイナス金利導入の影響を受ける当座預金は10兆円と少ない

1月29日、日銀は、「金融機関が日銀に新規預ける当座預金に▲0.1%の金利を適用」と発表しました。日銀にお金を預けると0.1%の金利をもらえていたのが、逆に0.1%の金利を取られることになりました。黒田日銀総裁は記者会見で、「必要となれば、さらに金利を引き下げる(マイナス幅を拡大する)」と述べ、マイナス金利を浸透させる強い意思を示しました。これを受けて、金融市場では、金融機関が日銀に預けている当座預金(約260兆円)のかなりの部分が日銀から流出し、金融市場に流れ込むというイメージを持ちました。行き場を失ったお金が、金利の高い外貨にも流入するという連想から、円安が進みました。ただ、この時点では、マイナス金利が適用される当座預金が具体的にいくらになるか、明確にはわかりませんでした。

日銀が2月3日に出した追加の説明資料で、以下の点が明らかになりました。

  • 金融機関がこれまで日銀に預けていた当座預金のうち約210兆円には、これまで通り+0.1%の金利をつける。つまり、260兆円の当座預金ほとんど(210兆円)に対して、これまで通り、0.1%の金利を支払うわけで、この210兆円はこれからも、そのまま日銀に滞留すると思われる。
  • マイナス金利を適用するのは当面10兆円のみ。先行き、30兆円まで拡大する可能性はある。
  • 残りの40兆円(準備預金)については、これまで通り、金利は0.0%とする。

日銀は、1年間に国債の保有高を80兆円増やす「量的金融緩和」を継続中です。つまり、日銀は、毎年80兆円以上(注)の国債を、金融機関から買い取り続ける必要があります。

(注)日銀は、毎年、80兆円に、保有国債のうち償還を迎える金額分の国債を金融機関から買い取ることによって、国債の保有高を80兆円増加させます。

放っておくと、日銀に預け入れられる当座預金は、年80兆円のペ-スで増加していくことになります。増加分すべてにマイナス金利を適用するならば、マイナス金利が適用される当座預金は1年後に80兆円以上に増える可能性があります。ところが、日銀は、当面、マイナス金利を適用する当座預金は10兆~30兆円の範囲で調整するとしています。

ということは、日銀から流出してくるお金もその範囲に留まる可能性があります。年80兆円の金融資産を買い取っても、その大部分が、そのまま日銀に滞留する現状は、すぐには変わらないことがわかり、為替市場で、円高が進みました。

日銀のマイナス金利導入で、長期金利は大きく低下しました。9年までの年限の国債はすべてマイナス金利になりました。10年国債の利回りは先週末で0.02%まで低下しました。金融機関が日銀に追加で預ける当座預金に▲0.1%の金利が適用されるため、金融機関は、プラスの利回りが出る国債を簡単には日銀に売らなくなります。日銀は、年間80兆円国債の残高を増やす必要があるので、何が何でも、金融機関から国債を買い上げなくてはなりません。10年国債利回りまで、利回りがマイナスになるところまで値を釣り上げないと、日銀は国債を買い集めることができなくなる可能性があります。

日銀のマイナス金利導入で、株高と円安を進めることはできませんでしたが、唯一、長期金利だけは大きく低下させることができました。

(3)米景気に減速感が強まりました

先週発表された1月のISM製造業指数は、4カ月連続で、景況判断の分かれ目である50を割り込みました。製造業の不振が続いていることが確認されました。非製造業は好調でしたが、1月の非製造業景況指数は、予想以上の低下となりました。非製造業にも、ややブレーキがかかっていることが確認されました。

米ISM製造業・非製造業景況指数の推移:2014年1月~2016年1月

(出所:米ISM供給管理公社より楽天証券経済研究所が作成)

米国では何十年も前から製造業の空洞化(アジアや中南米への工場移転)が進んでおり、米経済は、サービス業やIT産業を中心に成長する構造に転換しています。したがって、製造業が弱くても、米景気はこれまで非製造業の活況を受けて、好調でした。ところが、原油急落で石油産業が悪化している影響を受けて、足元は非製造業にもやや減速感が出てきています。

アメリカの雇用は、非製造業の好調を受けて、改善が続いていました。ただし、1月の非農業部門雇用者増加数は、予想以上に減少しました。雇用にも短期的な調整色が出ている可能性があります。

米雇用統計(非農業者部門の雇用者増加数):2014年1月―2016年1月

(出所:米労働省)

米雇用統計では、非農業者部門の雇用増加数が、もっとも注目されています。アメリカの短期的な景況変化をもっとも良く表しているからです。米企業は、景況が悪化すると、簡単にレイオフ(人員削減)を実施し、景況が良くなるとすぐに人を増やします。その行動結果が、この統計に表れます。前月比の増加数20万人を上回ると、景気好調と判断されます。

2014年以降は、概ね好調が続いているのですが、時々、短期的に増加数が20万人を下回る時があります。2014年1-3月、2015年1-3月は記録的な大寒波の影響で景況が悪化しました。天候の影響が、すぐ雇用に表れるわけです。

2015年8月からは、原油急落の影響やドル高の影響もあった、雇用者増加数が20万人に届かなくなりました。2015年10-12月は、再度、好調に戻りましたが、暖冬の影響で建設工事が予想以上に進んだ効果があったと考えられます。2016年1月には再度、20万人を割り込む、さしもの米景気も短期的にやや調整色が出ている可能性があります。

米雇用統計(完全失業率):2014年1月~2016年1月

(出所:米労働省)

完全失業率を見ると、少し違った絵が見えてきます。完全失業率は短期的な景況変化ではなく、長期的な米景気の変化を表しています。1月も、前月比で0.1ポイント低下して、4.9%となりました。

長期トレンドで見た米景気は、好調を維持しているものの、短期的に原油急落やドル高が進んだ影響を受けて、足元はやや調整色が出ていると解釈すべきと思います。

米国在住アナリストによると、サービス産業や消費関連産業の景況は、かつて経験したことのない程、良い状態だそうです。私は、米国内で安価なシェール・ガス・オイルが大量に生産できるようになった「シェール革命」の効果が持続していると判断しています。