日経平均は2万円近くまで戻りましたが、3メガ銀行株(菱UFJ FG(8306)・三井住友FG(8316)・みずほFG(8411))の戻りは、日経平均と比べると鈍くなっています。今日は、その理由をご説明します。なお、3メガ銀行株が、割安な好配当利回り株として、長期投資に適しているとの私の考え方は変わりません。

(1)今年前半、好調だった3メガ銀行株も、8月以降はさえない動きに

今年前半、3メガ銀行株の上昇率が高く、注目されました。

3メガ銀行の今年前半の株価推移、日経平均との比較:
2015年1月5日―8月3日

(注:1月5日の値を100として指数化、楽天証券経済研究所が作成)

ところが、8月以降は、さえない動きとなっています。日経平均に比べて、急落後の戻りが鈍くなっています。

3メガ銀行の過去4ヶ月の株価推移、日経平均との比較:
2015年8月3日―12月2日

(注:8月3日の値を100として指数化、楽天証券経済研究所が作成)

(2)今年前半の株価が好調だった理由

以下の3点が評価されたと考えています。

  • 3メガ銀行の収益力の高さが見直されました。海外事業の成長性が評価されました。
    2015年3月期決算で、3メガ銀行の高い収益力が改めて見直されました。国内事業の利益は頭打ちですが、海外で利益が成長しています。
  • 三菱UFJ FG(8306):純利益が1兆337億円で前年比5%増加して最高益を更新
  • 三井住友FG(8316):純利益が7,536億円で、前年比10%の減益
  • みずほFG(8411):純利益が6,119億円で、前年比11%の減益
  • 財務内容が改善、増配や自社株買いに積極的になってきたことが評価されました。
    大手銀行は、1990年代~2010年頃まで、不良債権処理、および、海外での銀行自己資本規制(BIS規制)の強化に対応するために、自己資本の拡大に注力していました。大型増資を実施しました。自己資本を減らすことにつながる、増配や自社株買いには、消極的でした。ところが、近年は、財務内容が改善し、キャッシュフローに余裕が出てきたことから、一転して増配や自社株買いを積極的に行うようになりました。
  • 持ち合い株の売却をさらに進めると表明していることも評価されました。自社株買いをさらに増やせると期待されました。
    大手銀行は、持ち合い株(銀行が保有する取引先などの株式)を大量に保有していますが、その売却をさらに進めていく方針を表明していることも、好感されました。売却資金を使って自社株買いをさらに積極的に行っていくことができるようになると、投資家から期待されました。
  • 株価が割安であることにも注目が集まりました。
    配当利回りが高いことが見直されました。PER(株価収益率)・PBR(株価純資産倍率)などの株価指標で見ても、割安であることが注目されました。12月2日時点で見ても、引き続き、株価指標から見ると割安株であることは変わりません。

3メガ銀行の株価バリュエーション:2015年12月2日時点

(金額単位:円)

コード 銘柄名 2日株価 PER:倍 配当利回り PBR:倍 最低投資金額
8306 三菱UFJ FG 808.6 12 2.2% 0.7 80,860
8316 三井住友FG 4,796.0 9 3.1% 0.7 479,600
8411 みずほFG 252.0 10 3.0% 0.8 25,200

(注:楽天証券経済研究所が作成)

(3)8月以降、株価がさえない理由

3つの理由があると考えています。

  • 内外で銀行自己資本規制強化の動きが出ていること。また、持ち合い株式の売却が期待よりも遅いこと。その結果、自社株買いへの期待がやや低下した。
    一番影響が大きかったのは、内外で銀行自己資本規制が強化される流れが出ていることです。銀行自己資本規制とは、金融危機が発生した時に資本不足におちいらないように、通常時の自己資本をさらに積み増すことを、銀行に求めるものです。
    自己資本の拡大が必要になると、増配や自社株買いなどの、株主還元を積極的に行いにくくなるとの思惑を生じました。3メガ銀行は、自己資本規制強化の流れに対応して、今年も劣後債発行などにより、自己資本を増やしています。
    ただし、三菱UFJ FG(8306)は、11月13日に上限1,000億円の自社株買いも発表しており、株主還元に引き続き積極姿勢を示しています。3メガ銀行の自己資本は厚くなってきており、規制強化の影響はさほど大きくないと考えています。
  • 長期金利が低下。国内の預貸金利ざやがさらに縮小する懸念が生じる。
    今年前半は、長期金利が反発しつつあったので、銀行業にとって追い風で、銀行株の上昇に寄与しました。ところが、今年後半には、再び、長期金利が低下に転じ、銀行株が売られる要因となりました。最近は長期金利の上昇局面で、銀行株は上昇しやすく、低下局面では銀行株は下落しやすい傾向が出ています。
    長期金利が低下すると、国内で預貸金利ザヤが一段と縮小する懸念が生じます。3メガ銀行にとっても、長期金利の低下はマイナスです。ただし、3メガ銀行については、海外事業や多角化事業で利益を拡大させ、国内の利ザヤ低下を補っていくことができると、考えています。
     

    2015年の長期金利推移(10年もの新発国債利回り)

  • 日本郵政グループ3社のIPO(新規上場)に応募するための換金売りもあった。
    11月4日、日本郵政(6178)・ゆうちょ銀行(7182)・かんぽ生命(7181)の3社が東証一部に新規上場しました。その際、公募売り出しで市場から約1兆4,000億円の資金を吸収しました。一部の投資家は、郵政グループ3社の株を買う資金を作るために、日本の大手銀行を売却した可能性があります。

(4)皆様のご質問に、なるべくたくさんお答えする方針です。

今日のレポートは、読者からいただいたご質問「最近、メガ銀行の株の動きが良くないが、銀行株の現状をレビューしてほしい」にお答えするために、書きました。

コメント欄にお書きいただいた、すべてのご質問・コメントに私は目を通しています。ご質問にはなるべくたくさんお答えしようと努力しています。ただ、調査時間の制約から、お答えできない質問が多くなってしまっていて、申し訳ありません。