29日15時に新日鐵住金(5401)とJFE HLDG(5411)が、9月中間決算を発表するとともに、今期(2016年3月期)の業績予想を下方修正しました。アナリストのコンセンサス予想を大幅に下回る利益水準に落ち込む予想を出してきており、本日、両社の株価は下落する可能性が高いと考えられます。
(1)新日鐵住金(5401)が発表した上期実績と通期業績予想の修正
- 上半期(2015年4~9月)実績
(金額単位:億円)
売上高 前年比 経常利益 前年比 7月29日時点の会社予想 25,000 ▲10% 1,500 ▲15% 10月29日発表した実績 25,075 ▲10% 1,298 ▲26% 売上高は、7月29日時点の会社予想通りに着地しましたが、連結経常利益が、会社予想を大きく下ブレました。
- 通期(2016年3月期)の業績予想
(金額単位:億円)
経常利益 前年比 7月29日時点の会社予想 3,700 ▲18% 市場予想(注) 3,471 ▲23% 10月21日の観測記事(注) 3,000 ▲34% 10月29日発表の会社予想 2,500 ▲45% 新日鐵住金(5401)が発表した今期経常利益の修正予想は前年比▲45%の2500億円で、事前の市場予想や観測記事の予想をさらに下回るものでした。したがって、今回の修正予想はネガティブ・サプライズ(低すぎて驚き)と取られる可能性があります。
(2)利益の実態は数字に表れているほど、悪化していないと考えます
今期、新日鐵住金(5401)の鉄鋼事業利益が大きく落ち込む理由を、同社の決算説明会を聞いた上で、私なりに整理してみました。細かい要因は割愛し、大きな要因だけ挙げると、3つあると思います。
- 鉄鋼国際市況の下落
中国が国内で大量に余った鉄鋼製品を処分するために安値で輸出ドライブをかけました。その影響で、鉄鋼の国際市況が予想以上に大きく下がりました。このため日本メーカーは輸出採算が悪化しました。
ただし、安値の中国品は日本へはほとんど入ってこないので、国内の鉄鋼市況は、国際市況ほどは下がっていません。
なお、中国メーカーもほとんどが赤字になる水準まで汎用品の市況は下がっており、このままでは来年にかけて中国メーカーからもかなり破綻が出ると考えられます。もしそうなると、生産に歯止めがかかり、鉄鋼市況の反発につながります。
- 在庫評価損の影響
鉄鋼石や石炭などの原料価格も予想以上に大きく下がりました。これは、業績を押し上げる要因です。ところが、今期は価格下落前の高値で仕入れた原料在庫が残っているために、計算上、在庫評価損(キャリーオーバー)が発生します。そのため、今期は原料安メリットがフルには出ません。
会社側の説明によると、在庫評価損(キャリーオーバー)の影響がなければ上半期の経常利益は前年比▲9%の1608億円となっていた模様です。通期の経常利益も、在庫評価損の影響を除けば、前年比▲32%の3060億円となる見込みです。
在庫評価損は、原料価格の下げがあまりに急だったために一時的に発生するもので、来期以降、原料価格が落ち着けば、発生しなくなります。
- 国内で自動車生産の回復が遅れていた影響
自動車生産の回復が遅れ、国内の薄板3品の在庫水準が高くなったため、高炉各社は上半期、減産を実施しました。その影響で、上半期の業績が計画を下ぶれました。下半期は、国内の自動車生産は増加に向かい、公共投資も増えると考えられますので、徐々に生産を通常水準に戻すことができると予想されます。
今期は、②の在庫評価損を含め、一時的な要因で利益がかなり落ち込みます。一時的要因を除けば、実態利益の落ち込み幅は縮小します。
(3)日本の高炉各社が技術力で差別化する力を持っていることへの評価は変わらず
新日鐵住金(5401)、JFE HLDG(5411)の2社は、自動車用の高級鋼板などで、明確に差別化した技術力を持ちます。したがって、中国メーカーが建設資材などで無謀な増産をしても、直接の影響は受けにくいといえます。
今期は、①原料在庫に在庫評価損が発生する、②国内の自動車生産回復が遅れる、③高炉改修にコストがかかるなど、一時的要因が重なり、利益が予想以上に落ち込みますが、中長期的に利益水準を回復させる力はあると判断しています。短期的にはさらに株価が下がるかもしれませんが、長期的には買い場と私は判断しています。
(4)JFE HLDG(5411)が発表した上期実績と通期業績予想の修正
変動要因の説明は、新日鐵住金(5401)とかなりの部分が共通なので、割愛します。
- 上半期(2015年4~9月)実績
(金額単位:億円)
売上高 前年比 経常利益 前年比 7月30日時点の会社予想 18,000 ▲3% 500 ▲46% 10月29日発表した実績 17,132 ▲7% 483 ▲47% - 通期(2016年3月期)の業績予想
(金額単位:億円)
経常利益 前年比 7月30日時点の会社予想 2,000 ▲13% 市場予想(注) 1,684 ▲27% 10月29日発表の会社予想 1,000 ▲57%
(5)電炉株の方が、今期の利益の落ち込みは相対的に小さくなる見込み
鉄スクラップを原料として、電気炉で主に建設資材を作る企業を電炉メーカーといいます。東京製鉄(5423)・共英製鋼(5440)が、代表的な電炉メーカーです。
電炉の今期利益は、高炉ほど落ち込まない見込みです。建設資材は、ほとんど中国品が流入してこない国内向けだからです。鉄スクラップ価格が大きく下がり、電力料金も今期は下がっている地域が多いため、原料安メリットを受けます。高炉ほど大きな在庫評価損は発生しません。
したがって、短期的には電炉株の方が、株価が相対的に堅調かもしれません。ただし、長期的には、技術力で明確な差別化のできている高炉メーカーのほうが、投資先として有望だと思います。
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