8日の日経平均は、433円安の17,427円でしたが、物色動向に、これまでになかった変化が見られています。医薬品・食品・小売・サービス・電鉄などの内需ディフェンシブ株に大きく値下がりするものが目立つ一方、鉄鋼・非鉄など景気敏感株(中国関連株)には上昇する銘柄が見られました。この現象は、リーマンショック直後の2009年1―2月にも見られました。リスク・オフ相場からリスク・オン相場に戻る初期シグナルの可能性もあります。

(1)9月8日の物色動向

 

9月8日上昇率上位10銘柄(東証一部、時価総額1兆円以上)

 

コード 銘柄名 事業内容 株価上昇率(%)
5401 新日鐵住金 鉄鋼 3.1
5411 ジェイエフイーHLDG 鉄鋼 1.9
7201 日産自動車 自動車 1.2
5020 JX HLDG 石油精製 1.2
7011 三菱重工業 機械 1.1
8308 りそなHLDG 銀行 0.7
8002 丸紅 商社 0.5
6902 デンソー 自動車部品 0.3
5802 住友電気工業 非鉄電線 0.2
6501 日立製作所 電機 0.2
 

9月8日下落率上位10銘柄(東証一部、時価総額1兆円以上)

 

コード 銘柄名 事業内容 株価下落率(%)
4507 塩野義製薬 医薬品 ▲ 8.8
4528 小野薬品工業 医薬品 ▲ 8.5
6869 シスメックス ヘルスケア ▲ 7.2
2269 明治HLDG 食品 ▲ 7.0
4307 野村総合研究所 情報通信 ▲ 6.3
4519 中外製薬 医薬品 ▲ 6.3
4568 第一三共 医薬品 ▲ 5.9
4151 協和発酵キリン 医薬品 ▲ 5.4
4523 エーザイ 医薬品 ▲ 5.3
2802 味の素 食品 ▲ 5.1

上昇率・下落率上位をご覧いただくとわかる通り、昨日はディフェンシブ株が急落する中で、景気敏感株の一角が買われました。一部の機関投資家が、景気敏感株を「売られ過ぎ」と判断して買い増しする一方、これまでの値下がり率が相対的に小さいディフェンシブ株を売った可能性があります。

(2)2009年1-2月の経験

2008年9月15日にアメリカの大手証券「リーマン・ブラザーズ」が破綻したのをきっかけに、世界景気が急激に悪化しました。「需要消滅」といわれ、世界中の購買活動が一時的に停止し、世界同時不況に陥りました。あまりに世界景気の落ち込みが急でしたので、「100年に一度の世界不況」と言われました。世界中で株が暴落しましたが、景気敏感株の下落率が大きく、ディフェンシブ株の下落率は相対的に小さい状態でした。

物色動向に変化が起こったのが、2009年の大発会(1月4日)からです。日経平均の下落は続いていましたが、下落率が大きかったのは、それまで相対的に値持ちの良かったディフェンシブ株で、景気敏感株は、逆に上昇を始めていました。

 

 

リーマンショック後の日経平均:2008年8月1日―2009年7月31日

私はこの時、ファンドマネージャーでした。この時、考えたこと、やったことを良く覚えています。2009年1-2月は、自動車などの景気敏感株を買い、JRなどのディフェンシブ株を売却しました。株式市場では、1月から自動車株が反発、JR株が急落し始めていました。

2009年1-3月は、リーマンショック後、世界景気が一番落ち込んだ時でした。世界景気が回復を始めたのは2009年4月からです。世界景気が悪化する中で、私がなぜ、景気敏感株を買ってディフェンシブ株を売ったか、この時、考えたのは以下のことです。

「世界景気は確かに後退局面に入った・・・ただし、『100年に1度の大不況』ではない・・・よくある普通の世界不況といえる・・・『100年に1度の大不況』を織り込んで売られた景気敏感株は売られ過ぎ」

景気敏感株を買うための資金を作るために、JRなど、それまでの値持ちの良かったディフェンシブ株を売る必要がありました。結果的に、景気敏感株を買いながら、ディフェンシブ株を売る投資行動となりました。

(3)もし今の世界景気への悲観が行き過ぎならば、景気敏感株を買ってよい

2009年1-2月の経験を、今に当てはめると、どういうことが言えるでしょうか。今、中国景気への不安が広がり、新興国・資源国全体の景気悪化が懸念されるようになっています。日本や欧州の景気にもかげりが見られます。中国発の景気への不安が世界中に拡散している状態です。もし、このまま日本も含め世界的に景気後退が始まるのならば、まだ日本株を買い始めるのは早いことになります。

ただし、もし世界景気が減速するものの、世界不況に入るわけでなければ、日本株は既に売られ過ぎで、買いに入るべきと考えます。売られ過ぎの景気敏感株に投資妙味が大きい株がたくさんあります。

鍵を握るのは、米景気だと思います。今のところ、米国は好調を保っています。米景気が好調で、中国景気の落ち込みがさほど大きくなければ、世界景気は減速しつつも成長を続けることが可能かもしれません。

現時点で、まだ確信的に投資判断を述べることができませんが、私がファンドマネージャーであれば、ここからは、ディフェンシブ株を少しずつ売却し、割安な景気敏感株を少しずつ買っていく投資行動を取ると思います。