先週の日経平均は、ギリシャショックと中国ショックを受けて急落しました。1週間で759円下がって19,779円となりました。

今週の日経平均は、反発が見込まれます。①ギリシャが新たに提出した緊縮策を受けてEUがギリシャ支援延長に前向きになっていること、②中国政府の強引な市場介入によってとりあえず上海株価指数が反発したことが、好感されそうです。7月10日のシカゴ日経平均先物(円建て)は、20,085円(日経平均10日終値対比で+306円)まで上昇しています。

ただし、仮にギリシャの支援延長が決まっても、問題の解決ではなく、先延ばしにすぎません。これからも、ギリシャ問題は世界の金融市場の火種として残ります。また、中国政府が上海株式市場に強引な介入をやった後遺症も長引きそうです。日経平均は週初に反発した後、再び上値が重くなる可能性もあります。

(1)ギリシャ・中国ショックで急落した日経平均は、ギリシャ・中国ショックの緩和で一旦反発へ

日経平均株価の動き:2015年2月2日~7月10日

(2)ギリシャ発のサプライズ(驚き)が、先週は2つも飛び出す

先週、ギリシャ発で、2つのサプライズがありました。

  • 7月5日実施の国民投票結果
    EUが要求する緊縮策が、反対61.31%・賛成38.69%と、大差で否決されました。事前の世論調査などから可決が予想されていただけに、否決は世界中に衝撃をもたらしました。この結果から、ギリシャ国債デフォルト、ギリシャのユーロ離脱の可能性が高まったと判断され、世界的に株が売られました。
  • ギリシャ政府が7月9日に提出した新提案
    ギリシャ政府は、9日にEUが求める年金カットや増税を受け入れる新提案をEUに提出しました。国民投票でEU案を否決したのにもかかわらず、EUの要求をほぼ丸呑みするような緊縮案をギリシャが出してきたことに驚きが広がりました。

EUの債権団は6月25日に、ギリシャに対する緊急援助策を4ヶ月延長するための条件として、増税や年金カットを含む緊縮策を提案しました。ギリシャ政府は、それに回答せず一方的に交渉を打ち切り、国民投票を実施すると宣言しました。チプラス首相は国民に「ギリシャの誇りを守るために否決に投票を」と呼びかけ、バルファキス前財務相は、「(EUの要求する緊縮策は)テロリズムだ」とまで発言しました。そして、国民投票では、大差で緊縮策が否決されました。

ここまでの流れから、「EUのギリシャ支援停止、ギリシャのデフォルト、ユーロ離脱は避けられない」というムードが広がりました。そうした中で、ギリシャは再び世界を驚かせました。9日にEU案をほとんど丸呑みするような緊縮案を、チプラス政権が提出してきたことです。

ギリシャは、3年の金融支援延長と債務減免を求めており、ギリシャの要求がすんなり受け入れられるか、予断を許しません。それでも、唐突にギリシャ政府が緊縮を受け入れる姿勢を示したことは、金融市場にとって、大きなサプライズとなりました。

(3)チプラス首相の二枚舌に振り回されて、ギリシャ国債利回りは急騰後に急落

ギリシャ10年国債利回りの推移:2015年5月1日~7月10日

ギリシャ発の2つのサプライズによって、ギリシャ国債は先週前半に売り込まれた(利回り急上昇)後、週末に急激に買い戻されました(利回りは急落)。チプラス首相の態度から、先週前半は、ギリシャ国債デフォルトは避けられないと受け止められ、先週末には、急きょデフォルトが避けられるかもしれないと期待が復活しました。

今になって思えば、国民投票実施はポーズに過ぎず、チプラス首相は国民投票実施前にEUの緊縮策を受け入れる気持ちを固めていたと考えられます。チプラス首相は、自分がギリシャのデフォルトとEU離脱の引き金をひく覚悟ができていなかったのでしょう。国民投票実施直前に「(EUが支援延長に応じるならば)国民投票を実施しないで緊縮を受け入れる用意がある」と発言して驚かれました。ただし、その直後に、国民投票実施に向けてギリシャ国民に向けて「ギリシャ人の誇りを守るために否決に投票を」と訴えていました。どちらが本音かわからず、チプラス首相の二枚舌にEUは不信感を強めていました。

EU案を大差で否決した国民投票の結果に、一番驚いたのは、ひょっとしてチプラス首相だったのではないかと勘ぐりたくなります。国民投票で緊縮受け入れ可決を引き出し「戦いに敗れたので潔く緊縮を受け入れる」とするシナリオを描いていたのでないでしょうか?チプラス首相は、EU案否決の国民投票結果が出た直後に、まず、緊縮拒否の強行発言でEU債権団から不評を買い続けていたバルファキス財務相を辞任に追いやりました。そして、9日にサプライズとなる緊縮案をEUに提案したのでした。

(4)ギリシャの支援延長がすんなり決まるか、予断を許さない

EU債権団も、ギリシャのデフォルト・EU離脱の引き金をひきたくないと思っています。問題を先送りできればしたいと思っているところに、サプライズとなるギリシャ新提案が出てきたので、「渡りに船」とギリシャ支援延長に動きたいはずです。ただし、それには、3つの障害があります。

  • ギリシャ国民の反応
    国民投票で緊縮を否決したにもかかわらず、EU案に近い緊縮を打ち出したチプラス首相に、ギリシャ国内から強い非難の声があがる可能性があります。
  • ドイツ国民の反応
    EUやドイツを非難する発言を繰り返してきたギリシャ政府への反感がドイツ国内で高まっています。ギリシャが要求する3年の支援延長や債務カットに対して、ドイツを中心に反対論が出る可能性もあります。
  • 他のEU諸国の反応
    厳しい緊縮に耐えながら債務返済を続けている他のEUの過重債務国から、ギリシャ特別扱いへの反感が強まる可能性があります。放置すると、これらのEU諸国に反緊縮が広がるリスクもあります。

ギリシャ国債のデフォルト回避に向けて大詰めとなるギリシャとEU債権団の交渉では、さらに紆余曲折があるでしょう。ただし、それでも最低数ヶ月の支援延長は決まり、目先の国債デフォルトは回避される可能性が高いと、私は予想しています。

(5)上海株もまだ波乱含み

先週は、中国からも2つのサプライズがありました。1つは、中国政府が次々と株価対策を打ち出しているのに、上海株が下げ止まらずに、予想を超える暴落となったこと。2つ目は、中国政府が世界中をあきれさせる強引な株式市場介入を行って、先週末に上海株が急反発したことです。上海株は目先、下げ止まるでしょうが、今後まだ乱高下が続く可能性があります。

上海総合株価指数:2015年1月5日~7月10日

(6)日経平均は波乱の中でも、2万円台回復に向かうと予想

ギリシャと中国発のサプライズは、今週も続きそうです。日経平均は目先、乱高下が予想されます。それでも、日本企業の業績回復を織り込みつつ、いずれ日経平均は2万円台を回復すると予想しています。