22日の日経平均は253円高の20,428円でした。米利上げ懸念、ギリシャのデフォルト懸念など海外に懸念材料があって、輸出株の上値が重くなる中、銀行・保険・医薬品など海外経済の影響を受けにくい銘柄や、インバウンド・マイナンバーなどのテーマ株の値上がりが目立ちました。

さて、今日は、6月末のデフォルト回避に向け、大詰めの協議が続くギリシャについて、考えを述べます。

(1)ギリシャ政府に債権団は最後通牒

ギリシャ政府は6月末に、IMFから受けた16億ユーロの融資を返済する必要がありますが、EUやIMFから支援延長を引き出すことができなければ、デフォルト(債務不履行)となり「ユーロ離脱」を余儀なくされる見込みです。

緊縮財政の放棄を宣言して選挙に勝ったギリシャのチプラス政権は、EUが要求する年金カットなど厳しい緊縮策をそのまま受け入れることができません。だからと言って「ユーロ離脱」に突き進むこともできず、苦しい立場に追い込まれています。煮え切らないギリシャ政府に対して債権団は「緊縮策を受け入れなければデフォルト」と最後通牒を突きつけています。

(2)金融市場は意外と冷静?

こうした環境下、金融市場はデフォルトの可能性をどう見ているのでしょうか。ギリシャ国債の利回りを見る限り、市場は「どうせギリギリで支援延長が引き出される」とタカをくくっているように見えます。

ギリシャ10年国債利回り推移:2008年1月~2015年6月19日

(出所:ブルームバーグより楽天証券経済研究所が作成)

ギリシャ国債のデフォルト不安が最高潮に達していたのは2012年1月です。この時はギリシャ国債が投げ売りされ、利回りは30%を超えていました。今もデフォルト不安が高まりギリシャ国債が売られていますが、利回りはまだ12%までしか上昇していません。

ギリシャの信用不安は、2012年以降、緩和に向かっていました。ギリシャ政府は信用回復に向けた緊縮財政を実施し、EUによる金融支援も続いていました。利回りは昨年一時6%を割るところまで低下しました。

ギリシャは、反緊縮を掲げるチプラス政権が2015年1月に成立するまでは、信用回復に向けた取り組みが着々と進んでいたのです。その成果で、2008年にGDP比で14%を超える経常赤字を抱えていたギリシャは、2013年から経常黒字に転換しています。

ギリシャの経常収支、対名目GDP(%):1990年―2015年

(出所:IMF、2014年までは実績、2015年はIMF予想)

普通に考えると、ギリシャはギリギリまではらはらさせ、「土壇場でなんらかの妥協をして支援延長を引き出す」シナリオに落ち着きます。

(3)不測の事態への備えも必要に

ただし、チプラス政権が態度をはっきりさせないことによって「不測の事態」が発生する可能性も出ています。ギリシャの銀行から、預金流出が止まらなくなっているためです。

ギリシャ国民は銀行にお金を預けていることに不安を感じ始めています。もし、デフォルト→ユーロ離脱となれば、ギリシャは通貨ユーロを使用することができなくなるので、ギリシャの預金はギリシャ通貨「ドラクマ」に交換されることになります。その前に、ギリシャは銀行からの資金流出を抑えるために預金封鎖を実施することになります。「ドラクマ」は対ユーロで急落し、ギリシャにはハイパーインフレーションが起こるでしょう。ギリシャ国民は、預金を引き出すことができない内に、預金価値の激減に見舞われることになります。そうなる前に預金を引き出す動きが静かに進んでいるわけです。このまま預金流出を放置すれば、ギリシャ支援に必要な資金規模はどんどん膨らんでいきます。

(4)EUで孤立するギリシャ

ギリシャを見るEU諸国の目は厳しさを増しています。2012年当時は、EU全体に危機が広がるのを食い止めるため、ギリシャを何としてでも支援してユーロ解体が始まるのを防ぐ強い意思がEUに働いていました。今は「ギリシャ一国ならデフォルトしても問題ない」という開き直りがEUに広がっています。

2012年にはギリシャだけでなく、スペイン・イタリア・アイルランド・ポルトガルなどEUの多重債務国に信用不安が広がっていました。このため、ギリシャを切り捨てると、危機がEU全体に広がる可能性が高かったのです。ところが、欧州の多重債務国はその後、粛々と緊縮財政を続け、信用回復に成果を上げています。そのため「なぜわがままを言い続けるギリシャを支援し続けなければならないのか」という不満がEUに広がっています。

今回は、ギリシャが小手先だけの緊縮策を提示して、支援延長を取り付けようとしても、EUは簡単に妥協しない可能性もあります。ギリシャ・デフォルトのシナリオも、全くないとは言えない状況です。