28日の日経平均は、78円高の20,551円でした。ついに、10営業日連続の上昇となりました。一時1ドル124円台まで円安が進んだことを受けて、円安メリット株である自動車・タイヤ株が買われました。また、大手銀行や大手損保株の値上がりも目立ちました。3メガ銀行や大手損保では、海外事業の利益拡大が続いています。円安によって海外事業の利益がさらに膨らむ期待が生じました。

今日は、昨日に引き続き、日本株および世界の株式市場に潜むリスクについて、書きます。

(1)メインシナリオでは、日本株急落のリスクは低い

日本の景気は、これから回復色が強まると考えています。原油安・円安の恩恵が日本企業の業績を押し上げます。原油安の恩恵で、日本の貿易収支は、黒字転換が見えています。日本経済は、原油安という大きなボーナスをもらった状態です。

円安による、業績の押し上げ効果も期待できます。たとえば、トヨタ自動車(7203)は1ドル115円を前提に今期(2016年3月期)の業績予想をたてて公表していますが、1ドルにつき1円円安になると、年間で500億円利益が上ぶれします。仮に、現時点の為替レート(1ドル124円)が1年間続くと仮定すると、トヨタ自動車(7203)の利益は、4,500億円も上ぶれすることになります。円安は内需にも好影響を及ぼしています。インバウンド(訪日外国人の買い物)需要の拡大、設備投資の国内回帰などの、好影響が出ています。

内需・外需そろって回復トレンドに入っていることから、バランスの取れた景気回復になりそうです。消費・設備投資の回復が見込まれることに加え、輸出増加と輸入減少が、これから日本のGDPをさらに拡大させる要因となりそうです。

日本企業が、増配や自社株買いなど株主への利益配分に積極的になりつつあることも、株価の上昇に寄与しています。

(2)年初に想定していたリスクは、徐々に低下してきている

年初のレポートに記載した2015年のリスク要因

  • 米金利上昇リスクは徐々に低下している

    年初時点で、日本および世界の株式市場にとって最大のリスクは、アメリカの利上げと考えていました。イエレン米FRB議長の発言を追う限り、利上げは年内に実施されると思われます。ただし、利上げはあっても、1回か2回で打ち止めになり、FFレートは最大でも0.25~0.5%しか上昇しないという考えが最近、広がってきました。「FFレートが1~2年で1~2%上がる」という予想は少なくなりました。利上げがあれば一時的に世界の株が調整するかもしれませんが、調整幅は当初懸念されていた程は大きくならないと考えられます。

  • 逆オイルショックの懸念は残っている

    ブラジル・ロシア・中東などの景気が予想以上に悪化して、世界景気に悪影響を及ぼすリスクには引き続き警戒が必要です。ただし、一時1バレル45ドルまで下落したWTI原油先物が足元60ドル前後まで反発しており、ひところより懸念は緩和しています。

  • 欧州リスクもやや低下

    原油価格下落の恩恵で、ドイツ景気は底入れしており、欧州のデフレリスクは、やや緩和しています。ギリシャのEU離脱、デフォルト(債務不履行)リスクは、いまだにくすぶり続けています。ただし、ギリシャが最悪、デフォルトになっても、世界の金融市場を混乱におとしいれるインパクトはないと考えられるようになりました。ギリシャ・リスクが、対外債務の多いイタリアやスペインに波及すると世界の金融市場を混乱に陥れますが、その懸念は薄れています。今のところ、ギリシャだけの問題であるので、大きな波乱要因にはならないと考えられます。

  • 中国リスクは警戒をゆるめられないが、すぐに中国景気が悪化するリスクは低下

    中国経済はさまざまな構造問題をかかえています。過剰生産・過剰投資体質は変わっていません。不動産価格が下落して、不良債権問題が広がるリスクもあります。ただし、すぐ中国バブルが崩壊するリスクは低下しています。世界中の資源を爆食してきた中国にとって、資源価格の急落は大きなメリットになるからです。中国経済も日本経済と同様、今年は資源安で大きなボーナスをもらった状態です。

  • 地政学リスク

    中東の地政学リスクは高いままです。ただし、世界の原油生産に占める中東のシェアが低下した今日、中東の地政学リスクが、原油価格の高騰に結びつくことは少なくなりました。原油価格への影響が小さくなったことで、中東の政変が世界景気に与える影響は低下しています。

    ウクライナをめぐる欧米諸国とロシアの対立も未解決ですが、地域紛争にとどまっており、世界経済全体に与える影響は、いまのところ大きくはないと考えられます。

(3)好事魔多し

何もかも順調に見える時ほど、突発的に起こる悪材料に警戒が必要なこともあります。多くの人が気付いていない、想定外の事件が起こった時に、株は急落します。私が予想していないことで、もし起これば、日経平均が急落する事態をいろいろ想定してみました。

  • 「米景気急失速→NYダウ急落→急激な円高へ反転」リスク

    想定はしていませんが、ないとは言い切れません。ドル高がボディーブローのように米景気および企業業績に悪影響を及ぼし始めています。1-3月の米景気は急失速したものの、4月から回復すると見込まれています。期待通りに回復しないと失望が広がります。

    NYダウはPERで約19.5倍とやや割高な水準にあります。米企業業績のモメンタムがさらに悪化する中で、米FRBが利上げの方針を変えなければ、NYダウ急落のリスクが高まります。そうなると、世界的に株が売られ、為替市場では、リスクオフの円買いが進むことになります。

  • 東アジアの地政学リスク

    中国・ベトナム・フィリピンが領有権をめぐって対立する南沙諸島で中国が一方的に埋め立て工事を進めていることに対し、米国が態度を硬化させています。米中は、互いに一線を超えないように反発しあっていますが、南沙諸島で米中間に不測の事態が起こると、簡単に修復できない溝ができる可能性があります。日本は、米国との同盟関係を強化しようとしているので、そうなると日中関係も、一気に悪化する懸念があります。

  • 安倍内閣の支持率急低下リスク

    安倍内閣の支持率が急低下し、アベノミクスで予定していた経済の構造改革実行がむずかしくなると、外国人が失望して日本株を売ってくる可能性があります。