政府は3日、電力改革の仕上げとなる電気事業法などの改正案を閣議決定しました。改正案が今国会で成立すれば、電力小売りは来年4月から完全自由化されます。また、2020年には、大手電力会社から送配電部門を分離する「発送電分離」が行われます。

今日は、電力自由化について考えていることを述べます。

(1)2016年4月から電力小売り自由化へ

先週、東京ビッグサイトで開催された「電力自由化EXPO」「エコハウス&エコビルディングEXPO」を視察してきました。電力小売りの完全自由化が来年4月から始まる見通しとなったことを映し、電力小売り事業の拡大や参入を目指す事業者による活発な商談が行われているのを見ました。電力自由化が一歩一歩着実に進んでいる印象を受けました。

企業や工場(高圧部門)だけが受けている小売り自由化の恩恵を、来年以降、個人(低圧部門)でも受けられるようになる見込みです。個人もどこから電力を買うか選べる時代になるわけです。多様な小売り業者が提供する料金メニューを比較することで、電力料金を下げる余地も出てきます。

ガス小売りも2017年に自由化される見込みなので、電力・ガスをセットで1つの業者から買うことで、セット割引を受ける余地も生まれます。セット割引はいまや通信や放送など、あらゆる分野に広がっています。多様なセット販売のメニューに電力も加わってくることになります。

また、多少料金が高くても再生エネルギー発電を応援したいと考える人は、太陽光や風力発電業者から電気を買うという選択も可能になる見込みです。

(2)電力自由化の全体像

小売り自由化は、電力自由化の全体像の一部にしか過ぎません。電力自由化は、以下の3段階で進行中です。

  • 発電事業への参入自由化

    1995年から、独立発電業者(IPP)による卸電力供給が認められるようになりました。ただし、独立発電業者は、既存の電力会社に競争力で劣るため、今日まで発電シェアは大きくは伸びていません。既存の電力会社は、発送電をトータルで支配していること、規模の経済が働くことから、これまで独立発電業者に大きくシェアを奪われることはありませんでした。

  • 電力小売り事業への参入自由化

    2000年に2,000キロワット以上で受電する大口需要家への電力販売が自由化されました。2005年には50キロワット以上で受電する需要家に自由化範囲が広がりました。2016年から個人(低圧部門)まで含めてすべて自由化される見込みです。

  • 発送電分離

    既存の電力会社を、発電会社・送配電会社・小売り会社に分割します。具体的な中身はこれから議論が始まりますが、発電事業・小売事業では競争を促進し、送配電事業は独占を強めることが理想的と考えられます。

送配電事業は、広い地域をまとめて1社でやらないと効率が上がりません。送配電は、東日本・西日本の2社に集約して独占を強めた方が良いと考えています。巨大な送配電独占企業を作ると同時に、送配電網の安価な料金での外部開放を義務付けるのです。それが、競争力のある新規発電業者や、新規参入の小売業者を活性化する鍵になると思います。

通信事業では、短距離電話網をNTT東日本・NTT西日本の2社が独占しています。独占させないと、効率的な電話網の管理はできません。ただし、その短距離電話網を利用しないことには、いかなる携帯電話会社も、インターネット・サービス事業も全国規模のサービスを実現できません。安価な料金での短距離電話網の外部開放がNTTに義務付けられているおかげで、日本では多様な通信・ネットサービスが発展しました。

(3)発電部門の効率化が鍵

電力自由化が進むとかえって個人向けの電力料金は上昇すると、イギリスなどの事例を引き合いに出して語る人も居ます。確かに、発電部門の効率化が進まず、小売りだけ自由化しても、料金低下は期待できません。発電部門の効率向上と、小売りの自由化が同時に進むことが重要です。

私は、日本の発電コストはこれから自由化によってさらに大きく下げる余地があると考えています。その恩恵が、自由化後に、国際的に割高な個人部門の電力料金にも及ぶことを期待しています。なお、原発だけは、今後、発電コストが大幅に上昇することが予想されます。原発以外のあらゆる発電手段のコストを大幅に低下させていくことが鍵となります。

電力自由化が、いかに発送電の効率化につながるかが重要です。日本の送電システムは世界でも稀に見る高効率で、送電ロスは5%程度と低く、ここからさらなる改善する余地は小さいかもしれません。鍵は、発電事業がどこまで効率を上げられるかにあります。現時点では、机上の空論ですが、自由化が完成した後には、以下のようにさまざまな低コスト発電のアイディアが実現するかもしれません。

  • サハリン(ロシア)からパイプラインを敷設して安価なガスを大量導入し、低価格のガス発電を始める。
  • 大容量で高性能の蓄電池を使い、安価な夜間電力を大量に買い集めて、価格の高い昼に売る。
  • グリッドパリティ(既存の電力会社の発電コストと同等レベル)まで発電コストを下げたメガソーラーを過疎地域で大規模展開して高い収益を上げる。大規模農業と同時に展開して地方創生につなげる案もある。
  • 日本に豊富にある良質な地熱資源を活用した低コスト発電を日本の主要電源の1つに育てる。

上記のアイディアは自由化だけで実現するものではありません。ロシアとの政治交渉や、大規模蓄電池の技術向上、グリッドパリティ実現など、さまざまな技術革新が必要です。

私は、先週、東京ビッグサイトで開催された二次電池・太陽電池展などを視察して、技術革新が速いことに驚きを感じました。現時点では机上の空論としか思われないことでも、電力自由化が完成する2020年ころには、実現が視野に入るかもしれません。

(4)アベノミクス3本目の矢へ期待

アベノミクスの3本目の矢、成長戦略の効果が出るのが遅いことを批判的に語る人もいますが、やや近視眼的と思います。1本目の矢(金融緩和)、2本目の矢(公共投資)は、やればすぐ目に見える効果が現れます。ところが、3本目の矢の柱となる「規制緩和」には、やってすぐ効果が出るものはほとんどありません。すぐに効果はなくとも、長期的に日本経済の足腰を強くするのが3本目の矢だと思います。成長戦略を発表した直後に日経平均が下がると「市場は成長戦略を失望した」のように解説する風潮がありますが、それはあまりに近視眼的と思います。

農業強化、地方創生、電力自由化、水素社会実現などに必要な規制緩和は、足取りは遅いように見えますが、少しずつ前に進んでいると思います。