12日の日経平均は、一時18,000台に乗せましたが、引けは、前日比327円高の17,979円でした。一時1ドル120円台まで円安が進んだことが好感されました。今後、日本の景気・企業業績の回復色が少しずつ強まっていくと判断していますので、引き続き、日本株は買い場と判断しています。
ただし、日本時間で13日午前7時30分に、1ドル119.10円まで円高が進んでおり、今日の日経平均は上値が重くなる可能性があります。
さて、今日は、10日・12日と2営業日続けて大幅高となったファナック(6954)株についてコメントします。
(1)ファナック(6954)が、米投資ファンド「サード・ポイント」の株取得ニュースで急騰
米サード・ポイントがファナック株を取得し、自社株買いを求めていることが、同社が投資家向けに出した書簡で明らかになりました。この話が一部報道で市場に伝わったのは10日で、この日、ファナック株は720円(3.6%)高の20,755円と上昇しました。 サード・ポイントによる株取得の話は、11日(祭日)の日本経済新聞朝刊でも報道されました。これを受けて12日、ファナック株は1,290円(6.2%)高の22,045円と続伸しました。
日本経済新聞の報道によると、「サード・ポイントは、昨年10~12月期にファナック株を購入したと表明しているが、株数は明らかにしていない。同社は書簡でファナックについて、「株主価値のために何もしない不合理な資本構造を持つ」と指摘、1兆円規模の手元資金を有効活用するため、定期的な自社株買いをするよう求めた」。
(2)サード・ポイントの主張は妥当
サード・ポイントの話を聞いて「またぞろ、グリーディーな(欲深い)ファンドが株主権を振りかざして、日本企業に不当な要求を突きつけるようになった」と感じた人がいたかもしれません。2005年ころ、「村上ファンド」など短期的な利益をねらって会社を食い物にするような要求を繰り返したファンドが多かったことは、まだ記憶に新しいところです。
ただし、あの頃の投資ファンドのグリーディーな要求と、今回のサード・ポイントの要求は、まったく質の異なるものです。今回のサード・ポイントの主張は、きわめて妥当と考えられます。ファナックに対して、日本中の多くの機関投資家が感じていたことを、サード・ポイントは代弁しているに過ぎません。
昨年末時点のバランスシートを見ると、ファナックは、8,236億円の現預金を保有していることがわかります。総資産1兆3,439円の61%が現預金という極端なバランスシートです。借入金はなく、自己資本比率は89%です。
借金の返済を終えた日本企業が、株主への利益配分を強化するために増配や自社株買いを行うようになってきた今日、8,236億円ものキャッシュをただ寝かせているファナックの存在は、目立ちます。
(3)ファナックは二つの顔を持つ
ファナックは、産業ロボットで世界トップの、日本が誇る高収益ロボット企業です。技術力を磨くことに固執し、常に世界トップの技術力を維持してきた経営力は敬服に値します。
ところが、そのファナックにはもう1つの顔があります。「IR(株主との対話)が良くない企業」と言われることがあるのです。機関投資家向けアンケートで、IRのいい会社と悪い会社のランキングをとると、悪い方の上位に出てくることがあるからです。
ファナックは創業以来、「製造業は技術を磨くことに邁進し、金融テクニックに走ってはならない」を社是としてきたと言われています。1980年代後半、バブル景気のとき、日本企業は一斉に特定金銭信託(特金)を使って財テクに乗り出しました。その頃、ファナックは社是を守り、財テクに手を出しませんでした。当時「財テクをやらない企業はバカだ」とファナックを名指しで批判する識者もいました。それでも、ファナックは頑なに社是を守り通しました。後から、株は大暴落し、財テクに手を出した企業は損失を出しました。そういうことがあってから、ファナックは一層「金融テクニックに走らない」ことを厳格に守るようになりました。
ただし、1990年代以降、それが段々エスカレートしていきました。企業努力の甲斐あって、ファナックのバランスシートには保有キャッシュが増えていきました。ところが、「金融テクニックに走らない」ことがエスカレートし、莫大なキャッシュの有効活用を考えることや、株主と対話して株主がファナック株を買いたくなるようなIRをすることも、避けるようになりました。
「積み上がっていくキャッシュをどうするか」問われると、ファナックは「技術的に魅力的な企業の大型買収を行う機会が訪れたら使う」と答えていました。「それで、有望な企業は見つかりましたか」と問うと、「いまだに見つかりません」と答えています。その問答が長く続きました。
2000年代に入って、日本企業のIRが軒並み大きく改善すると、ファナックのIR嫌いは殊更に目立ってきました。さらに、積みあがったキャッシュも目立ちました。それでも、日本の機関投資家がファナックに自社株買いを要求することは、ほとんどありませんでした。ファナックは技術に生きることを徹底し、それに成功していることに一目置かれていたからです。
今回、米サード・ポイントがファナックに自社株買いの要求を出しましたが、これは株主としてごく普通の意見と言えます。株主は、会社の業績が悪化する時、株価が下落するリスクを常に抱えています。会社が破綻すれば、価値がゼロになるリスクもあります。リスクに見合った株主配分が得られなければ、喜んで株主になる投資家は誰もいなくなってしまいます。
借金が多い会社が配当を増やさずに借金返済を優先するのは、十分に納得できることですが、ファナックくらいキャッシュが積みあがって、なお株主還元に積極姿勢を見せないのは、やや極端といえます。
ただ、ごく直近で、ファナックのIRに変わる兆しが出ているとの声はあります。時代の流れを反映し、ファナックもIR充実の必要性や、株主還元の増額を検討する必要があることを理解してきたとも取れます。米サード・ポイントの要求にどうこたえるか、注目されます。
(4)自社株買い実施企業に注目
株主配分を強化する一環で、自社株買いを積極化する企業が増えてきています。自社株買いを実施する企業の株は堅調に推移することが多く、注目できます。
<参考>過去1ヶ月に上限100億円以上の自社株買いを発表した企業
(金額単位:億円)
発表日 | コード | 銘柄名 | 金額上限 |
---|---|---|---|
2月5日 | 2914 | 日本たばこ産業 | 1,000 |
1月28日 | 4901 | 富士フイルムHLDG | 500 |
2月2日 | 4503 | アステラス製薬 | 300 |
1月30日 | 7741 | HOYA | 300 |
1月29日 | 8604 | 野村HLDG | 300 |
1月22日 | 6594 | 日本電産 | 240 |
1月29日 | 8309 | 三井住友トラストHLDG | 200 |
2月10日 | 8252 | 丸井グループ | 150 |
1月30日 | 4626 | 太陽HLDG | 101 |
2月6日 | 6326 | クボタ | 100 |
2月4日 | 8332 | 横浜銀行 | 100 |
1月30日 | 6370 | 栗田工業 | 100 |
1月28日 | 8219 | 青山商事 | 100 |
が注目できます。同社は、IRが良く、株主還元に積極的であることで有名です。日本たばこ産業(2914)上の表では、配当利回りが3%と高いうえに、上限1,000億円の自社株買いを発表した
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