6日の日経平均は525円安の16,883円と急落しました。

  • 原油急落が産油国や原油関連企業にダメージを与える不安、
  • ギリシャが緊縮財政を放棄してユーロから離脱する不安、
  • 5日のNYダウが原油関連株中心に331ドル安と急落したこと、
  • 為替が一時1ドル118円台まで円高になったこと、

が嫌気されました。

ここは、日本株の買い場と判断します。ただし、6日にニューヨ-クの原油先物が1バレル47.93ドルまでさらに大きく下がったことを嫌気し、6日のNYダウは130ドル安と続落し、CME日経平均先物(円建)は一時16,715円まで下がりました。今日の日経平均は続落して始まる見込みです。なお、為替は、7日の日本時間午前6時現在1ドル118.58円です。

(1)下げ止まらない原油価格

<NY原油先物価格WTI期近:2014年4月~2015年1月5日>

(注:楽天証券経済研究所が作成)

米国が非在来型原油(シェールオイル)の大増産に動いていることが、原油価格急落の最大の原因です。さらにOPECの盟主であるサウジアラビアが減産せず原油下落を放置していることが、下げに拍車をかけています。

サウジは、原油価格が下がることによって米国のシェールオイル採掘業者が採算割れとなり、増産に歯止めがかかることを狙っていると言われています。

確かに長い目で見れば、サウジの狙い通り、原油下落で高コストのシェール油田は生産を停止せざるを得なくなるでしょう。ただし、それには時間がかかります。生産を開始したばかりの油田は、たとえ原油価格が採算割れまで下がっても、すぐに生産を停止するわけにはいきません。米国産原油は、原則、米国内で消費されるため、輸送コストをあまりかけずに販売できるメリットもあります。

米国のシェールオイル生産コストは場所により差が大きく、1バレル40~80ドルと幅広く分布しています。原油急落によって既にコストの高い一部の採掘業者には財務への不安が生じています。一方、今の原油価格でも採算が取れ増産余地のある業者もあります。米国のシェールオイル供給がはっきりと減少に転じるには、かなり時間がかかる見込みです。

(2)「逆オイル・ショック」の懸念

今年の世界経済は、原油急落によって大きな影響を受けそうです。原油急落は、最終的には世界景気拡大に寄与すると思います。ただし、短期的には、原油急落によって世界景気がかえって悪化する可能性があります。原油価格の下げが速すぎる場合は、プラス効果よりもマイナス効果の方が先に顕在化するからです。

長い目で見れば、日米欧先進国は、原油下落の恩恵を受けます。世界中の天然資源を大量消費してきた中国やインドも、エネルギー輸入コストが低下する恩恵を受けます。

ただし、原油急落のピッチが速すぎるので、先進国でもメリットよりデメリットが先に出る可能性があります。アメリカでは、シェールオイル・ガス採掘業者の財務悪化が問題となりそうです。中国でも、石炭など資源開発業者に悪影響が及びます。

原油下落の恩恵が大きい日本でも、すぐにはメリットが出ません。日本には原油の戦略備蓄があるからです。原油価格が高い間に輸入した高値在庫が一巡するまで、原油下落の恩恵は出ません。

一方、ロシア、ナイジェリア、ベネズエラ・中東産油国など、原油やガスの輸出に依存してきた国には、ダメージが及びます。ベネズエラは財政悪化で信用不安が発生する可能性があります。

原油だけでなく、石炭や鉄鉱石など資源全般に下落が波及しているため、ブラジル・オーストラリアなど資源に依存してきた国は、全般に景気が悪化する見込みです。

<参考>逆オイル・ショックとは

「逆オイル・ショック」は、1986~87年頃の世界経済を表す言葉として使われたのが最初です。1970年代は原油価格が急騰して世界不況になりました。これが「オイル・ショック」です。1980年代は一転して原油価格が急落しました。ただし、原油下落の恩恵はすぐには顕在化しませんでした。一方、オイルダラーが減少し、中東からのプラント受注が大きく減少するなど、中東ビジネスが急速に悪化しました。原油急落でかえって世界景気が悪化したという意味で、1987年頃に「逆オイル・ショック」といる言葉が使われました。

ただし、後から振り返ると、逆オイル・ショックは一時的でした。1988年以降は、原油下落の恩恵で先進国の景気が改善しました。特に、日本はバブル景気と言われる内需急拡大期に入りました。当時、日本のバブル景気を生んだのは、「原油安・円高・金利低下のトリプル・メリット」といわれました。

(3)ギリシャ問題について、過度な悲観は不要と考えます

原油急落と並んで、世界の金融市場を不安に陥れているのが、ギリシャの政治情勢です。ギリシャでは、これまで緊縮財政を続けてきた与党ND(新民主主義党)への国民の不満が高まり、反緊縮財政派の野党Syliza(急進左派連合)の支持率が高まっています。1月25日に実施されるギリシャの議会選挙では、Sylizaが最大政党となる可能性が高いです。

Sylizaが政権をとって緊縮財政を放棄すると、ギリシャはEUに留まることが認められなくなると考えられています。そうなると、再びギリシャのソブリン(国家)債務の不安が高まる可能性があります。

ただし、以下の2つの理由から、ギリシャ問題が世界景気を悪化させる可能性は低いと考えています。

  • ソブリン(国家)債務不安の再燃がギリシャだけに留まるならば、世界への影響は限定的。2009~10年のように、ギリシャの不安がスペインやイタリアに飛び火すると、世界の金融市場に大きな動揺が広がるが、現時点で、その可能性は低いと考えています。
  • ギリシャ総選挙でギリシャ与党NDが予想以上に健闘する可能性も残されています。NDは「与党敗北ならEU離脱になる」と訴えて選挙戦に臨みます。緊縮財政に強い不満を持つギリシャ国民も、EU離脱が争点になると政権転換に慎重になる可能性もあります。また、予想通り、野党Sylizaが勝っても、EU離脱を避けるために妥協して、一気に緊縮財政を放棄することは断念する可能性もあります。

(4)日本株は、買い場と判断します

2015年に日本の景気・企業業績が回復に向かい、日経平均が年末20,000円に達するとの見方は変わりません。日経平均が大きく下げている今は、日本株の買い場と判断します。

日経平均は年初から急落しましたが、昨年半ばから始まっている上昇トレンドは崩れていないと考えています。

(日経平均週足:2013年1月~2015年1月6日)

(注:楽天証券経済研究所が作成)