原油急落が、世界の株式市場に大きな影響を与えています。今日は、原油下落が運輸産業に与える影響を解説します。

(1)原油下落メリットは幅広い産業に及ぶ

株式市場が原油安メリット株として認識するのは、原油安によって直接受ける恩恵が大きい企業です。運輸産業は、原油が下がることで燃料コストが下がるので、直接恩恵を受けます。

間接的なメリットまで含めると、原油安の恩恵は幅広い産業に及びます。たとえば、消費者は石油関連製品の価格が下がることで、恩恵を受けます。したがって、消費者に販売を行う小売業も、間接的にメリットを受けると言えます。ただし、原油下落メリットのほとんどは消費者に取られ、小売業が受けるメリットは、限定的です。したがって、株式市場で、原油安メリット株として小売株が買われることはありません。

(2)空運業界への影響

空運株は、11月までは円安による航空燃料費の上昇が重荷と考えられ、株価は低迷していました。12月になって原油安メリット株として急きょ動意づきました。航空燃料の価格低下を材料に欧米で空運株が上昇し、その流れを受けて日本航空(9201)、ANA HLDG(9202)、スターフライヤー(9206)にも買いが向かいました。

 

空運株の動き、日経平均との比較:2014年10月31日-12月17日

(注)10月31日を100として指数化、楽天証券経済研究所が作成

ただし、日本航空とANAは上昇の勢いが続かず、上値は重くなっています。航空業界が抱える構造問題が意識されているためと考えられます。航空業界は、LCC(格安航空会社)参入による料金低下が進んでいるため、業績低迷が長期化しています。

欧米でも航空業界は、LCC参入で業績は低迷しています。アメリカでは、過去に多くの航空会社が経営破たんに至りました。

日本では、日本航空が一度経営破たんしてから再生しました。新規参入組でもAIR DOは前身の航空会社が2002年に経営破たんしてから、ANAの支援を受けて再生しました。直近では、スカイマーク(9204)の経営建て直しが必要となり、日本航空またはANAが提携によって支援する方針となっています。

今の業界環境では、原油安メリットだけに注目して空運株を買いあがっていくのは難しいと考えています。また、競争的環境のもとでは、燃料安の効果は、いずれ航空運賃低下によって相殺される可能性もあります。

空運株は、短期的な投資対象として面白い局面にありますが、長期投資対象とするには、不透明要因が多過ぎると考えています。

(3)海運業界への影響

海運業界は、バンカーオイル(船舶燃料)の価格低下で恩恵を受けます。私は、海運株は投資の好機と判断しています。

 

海運株の動き、日経平均との比較:2014年10月31日-12月17日

(注)10月31日を100として指数化、楽天証券経済研究所が作成

私は、燃料価格の低下メリットだけで海運株に注目しているわけではありません。世界的な船舶の供給過剰が少しずつ解消しつつあることに注目しています。まず、定期船事業の収益改善がはっきりしてきています。定期船事業の収益改善が大きい日本郵船(9101)や川崎汽船(9107)に私は注目しています。

ただし、1つ気をつけなければならないことがあります。原油を含め、世界的に資源価格が下がっている影響で、不定期船の市況低迷が長引きそうなことです。鉄鋼石・石炭などを運ぶバラ積み船は、需要回復が鈍いままです。不定期船事業の収益が一段と悪化しないか、注意を払う必要があります。

商船三井(9104)は不定期船事業の影響が大きいので、投資タイミングはまだ先にした方がいいかもしれません。

(4)陸運業界への影響

原油下落が陸運業界に与える影響は、空運・海運業界ほど大きくはありません。トラック輸送の場合、コストに占める比率が高いのは人件費です。傭車費(トラックを借りてくる費用)も大きいですが、燃料費の占める割合は、相対的に小さいです。

原油安が、トラック業界にプラスであることは間違いありませんが、トラック株が原油安メリット株として大きく動く可能性は低いと考えます。