9月3日、アメリカのルイジアナ州連邦地方裁判所で、武田薬品工業(4502)に対して60億ドル(約6,300億円)の賠償判決が出ました。

(1)4月の陪審員評決をそのまま認める判決で、株価には織り込み済み

これは、武田薬品工業(4502)がアメリカで2兆円以上販売した糖尿病治療薬「アクトス」について、膀胱がんにかかる可能性が高まる副作用リスクを意図的に隠していたと損害賠償を求められている裁判の話です。4月にルイジアナ州陪審で賠償金額60億ドルの評決が出ていました。金額があまりに大き過ぎるので、この評決が伝わった4月8日に武田薬品工業(4502)の株価は▲5.1%下落しました。ルイジアナ地裁は9月3日、陪審評決通り、60億ドルの賠償金額そのままで判決を出しました。この判決が伝わった9月4日の武田株は▲1.3%下落しました。

 

武田薬品工業(4502)日足  2014年4月1日~9月8日

(注:楽天証券経済研究所が作成)

9月4日の株価下落率があまり大きくなかったのは、以下の理由によります。

  • 4月に陪審員評決が出た時点で、一旦株価に織り込み済みとなっていたこと
  • まだ確定判決ではなく、先行き減額が予想されること

武田薬品工業(4502)に非があるか否かは私にはわかりません。仮に非があったとしても、60億ドルの賠償金額は、過去の類似事例と比較して大き過ぎます。これはまだ地裁判決であり、そのまま確定するわけではありません。武田薬品工業(4502)は、再審理の請求・控訴を含め、あらゆる法的手段を使って争う方針を表明しています。賠償金額は大幅に減額される可能性が高いと同社は予想しています。

  • 武田薬品工業(4502)の財務は堅固で、仮に60億ドルの賠償金を支払ったとしても財務上の問題は発生しないこと

武田薬品工業(4502)はキャッシュフローが潤沢で、海外で大型M&Aを繰り返してきたにもかかわらず、ネットキャッシュ(実質無借金)に近い好財務を維持しています。

(2)なぜ、賠償金額がここまで大きくなったか

地裁とは言え、ここまで巨額の賠償判決が出たのは武田薬品工業(4502)の「証拠開示(ディスカバリー)制度」への対応が不十分だったことが原因です。アメリカの裁判でディスカバリー制度に基づいて提示が求められる資料は莫大です。武田薬品工業(4502)は、この制度で求められる資料の一部を保持していませんでした。特に問題とされたのは、関係者のメールに削除されたものがあったことです。原告団は「証拠隠蔽」と武田薬品を追及し、その結果、懲罰を含めて60億ドルの巨額賠償が命じられました。

多くの日本企業はアメリカのディスカバリー制度を十分には理解していません。莫大な提出資料に不備があると、それだけで裁判は不利になります。証拠が欠けているだけで原告弁護士が「証拠隠滅」と叫んで裁判を有利に展開するのはアメリカでは常識です。アメリカでビジネスを行う日本企業は、訴訟の可能性が生じた時点で、即座に関係者のメールをすべて保持する義務を負います。関係者の範囲が特定できない場合は、社内メールのほとんど全てを保存せざるを得なくなります。

(3)武田薬品工業(4502)の現時点での投資の考え方

金額の大きい賠償がからむ係争が完了していませんので、積極的に買い増しはしにくいところです。ただし、配当利回りが高く、財務内容は堅固なので、分散投資の一環として長期保有するのは、問題ないと考えます。

(注:楽天証券スーパースクリーナーより作成)

コード 銘柄名 8日株価 配当利回り
4502 武田薬品工業 4,732.5円 3.81%
4523 エーザイ 4,253.5円 3.53%
4568 第一三共 1,850.5円 3.24%
4508 田辺三菱製薬 1,565.0円 2.58%
4540 ツムラ 2,598.0円 2.46%

(参考)好配当利回りの医薬品株