4日の日経平均は52円安の15,676円でした。米雇用統計の発表を5日に控え、為替が1ドル104円台へ小幅円高になったことから、円安を好感して上昇してきた日経平均も、小幅反落となりました。

(1) 安倍改造内閣が発足、株式市場からの注目点

閣僚19名のうち初入閣は8名に留まり、大規模改造とは言えません。安倍首相が「実行実現内閣」と表現する通り、これまでアベノミクスで打ち出してきた基本方針を実行しやすい布陣にしたと考えられます。これまで通り、安倍首相、麻生財務・金融大臣(留任)、甘利経済財政・経済再生大臣(留任)が中心となって、経済政策を決めていくと考えられます。国際比較で高すぎる法人実効税率(東京都で35.64%)の30%以下への引き下げも既定路線です。

今回の人事について、株式市場からの注目度の高いものに絞って、コメントします。

  • 厚生労働大臣に塩崎恭久氏
    注目度が一番高いのが、塩崎厚労相です。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)改革を提唱してきた塩崎氏が厚労相に就任したことで、公的年金のポートフォリオ改革が進む確度が高まったと受けとめられ、株式市場に安心感が広がりました。
    世界最大の公的年金で127兆円(6月末時点)の運用資産を保有するGPIFが、国内債券を40%(6月末で53.36%)に減らし国内株式を20%(6月末で17.26%)に引き上げる方針を打ち出すという予想は、内閣改造前から既に市場に広まっていました。また、外債を15%(6月末で11.06%)、外国株式を20%(同15.54%)に引き上げるという予想も広まっています。月内に出される予定の、GPIFの新しい基本ポートフォリオに注目が集まります。
    なお、GPIFは基本ポートフォリオ変更を先取りして、既にある程度は日本株の買い増しを実行していると予想されます。
  • 自民党幹事長に谷垣禎一氏
    安倍首相と総裁選を争った石破茂氏(元幹事長)は幹事長留任を希望していましたが、新設の地方創生大臣に就任することになりました。代わって、自民党総裁経験者である谷垣氏が幹事長に就任したのは、今回最大のサプライズ人事でした。
    財政再建論者の谷垣氏が幹事長に就任したことで、来年10月に予定されている消費税の再引き上げ(8→10%)が実行される可能性が高まったと市場では受けとめられました。これは、株式市場にとってプラス・マイナス2つの意味があります。プラスは、消費税再引き上げ決定に向けて追加景気対策が打ち出される見通しが強まったこと、マイナスは、来年10月以降に国内景気が悪化する可能性が高まったことです。ただ、これは人事を見て広がった思惑で、実際は7-9月の景気を見て10-12月に税率再引き上げの可否を決定することになります。
    7-9月の景気を今から景気対策によって変えることは不可能ですが、消費増税の判断をする10-12月に景況がどうなるかは重要です。追加対策はいずれにしても打ってくる可能性が高く、短期的には、建設・土木株がさらに買われる材料となります。自民党総務会長に就任した二階氏が、近年国土強靭化を主張してきたことも、追加対策への期待を強めます。
    安倍首相は、日中首脳会談の実現に意欲を示しており、中国との関係改善に努めてきた谷垣氏と二階氏を幹事長と総務会長に起用したことは日中首脳会談実現への布石と見るむきもあります。日中首脳会談が実現すれば、中国でビジネスを展開する日本の中国関連株にプラスの影響が及びます。
  • 地方創生大臣に石破茂氏
    安倍首相は当初防衛・安全保障法制大臣への就任を打診しましたが、石破氏が断ったため一旦人事案が宙に浮きました。組閣人事は首相の専権事項であり首相の打診を断るのは異例ですが、石破氏は、ポスト安倍で首相の座を狙っていると噂される実力者で、自民党の結束を固めるのに欠かせない人物なので、なんとしても閣内に取り込む必要がありました。そこで、安倍首相は、石破氏が防衛の次に強い関心を持っている地方創生大臣をオファーして就任が決まりました。
    来年4月に統一地方選を控え、「景気回復の実感を必ずや全国津々浦々に」と宣言している安倍首相にとって、地方創生は重要課題です。二階総務会長とともに、地方での支持が高い石破氏が地方再生にどう取り組むのか、注目が集まります。地方創生は、従来型の公共投資では達成できず、経済特区を活用した新ビジネス創生が必要と考えられています。ところが、経済特区の実現には、さまざまな規制の壁があり、そこでは監督官庁の抵抗が予想されます。関係官庁の縦割り行政の弊害を打破して、地方創生に必要な規制改革を実現する手腕が、石破氏に期待されます。ただ、経済特区だけでは、短期的な景気押し上げ効果はありません。来年4月の統一地方選への選挙対策として、結局、従来型の公共投資積み増ししかできない可能性もあります。
  • 農林水産大臣に西川公也氏
    TPP参加実現に向けて前面にたって交渉してきた西川氏を起用したことで、TPP参加と農業改革実現への意欲が改めて確認されました。

(2)株式市場への影響

株式市場では、改造内閣が追加経済対策を打ち出すとの期待が強まりました。GPIF改革と追加経済対策への期待で、日本株は当面堅調に推移するでしょう。 内閣改造を実施すると、過去の経験則では、一時的に内閣支持率が回復します。低下が続いていた支持率が一時的でも回復すれば、不発といわれていたアベノミクス3本目の矢、成長戦略が実行しやすくなります。

後から振り返って、アベノミクスで実行したのは金融緩和(1本目の矢)と、公共投資(2本目の矢)だけと言われるのか、長期的に日本経済の足腰を強くする3本目の矢(成長戦略・規制緩和)まで踏み込めるかを、外国人投資家は注視しています。これまで、日本株は、外国人投資家が積極的に買ってこない限り、大きく上昇することはありませんでした。今後、改造内閣が経済の構造改革に真剣に取り組む姿が確認されないと、外国人投資家に早々に失望が広がるリスクもあります。