18日(金)、日経平均は、154円安の15,215円となりました。17日(木)に東ウクライナでマレーシア航空機が撃墜されたニュースを受けて1ドル101円台の前半に円高が進んだことが嫌気されました。

(1) マレーシア機墜落問題で、ロシアへの責任追及が始まるが、原因究明は容易でない

マレーシア機の撃墜に親ロシア派武装勢力の関与が疑われています。誤射とはいえ、民間機が撃墜されて多数の旅客が犠牲になった問題を国際社会は看過できません。まずは原因究明を急ぐことになります。ところが、親ロ派武装勢力は原因究明に協力的でないばかりか、証拠隠滅をはかっている可能性もあります。

一部では、親ロ派勢力に武器を渡していたのがロシア軍であると言われています。国際社会は、親ロ派を通じて戦闘行為に加担していたロシアの責任を追及することになります。ロシアに対して、追加の経済制裁が課せられる可能性もあります。

マレーシア機撃墜をめぐりロシアと欧米の対立の溝はさらに深まりそうです。

(2) それでも、世界景気を腰折れさせる要因にはならない

マレーシア機撃墜は重大な政治問題を巻き起こしていますが、それでも、現時点で、世界景気を腰折れさせる事態に発展するとは考えられません。それには、3つの理由があります。

対ロシア経済制裁について欧米諸国の足並みが揃わない

ロシアへの追加制裁は、経済に深刻な影響を与えない形式的なものとなるでしょう。ロシアに本格的な経済制裁を課すことにはドイツが賛成しません。ドイツは国内で使用する天然ガスの約8割をロシアに依存している上に、ロシアに工業製品をたくさん輸出しているからです。ロシアとの貿易が途絶えると、ドイツも経済的に大きなダメージを受けます。他の欧州諸国も、何らかの形でダメージを受けます。ロシアへの経済制裁は、する側も無傷ではいられないのです。

米国も、ロシアへの本格的な制裁には積極的ではありません。米国は現在、東アジアでの中国の脅威や、中東でのイスラム過激派勢力の台頭にどう対処するかで手一杯で、ウクライナ問題に積極的に関与する余裕がないからです。米国は、まずはウクライナでの即時停戦をロシアに求めていくという形で関与していくことになるでしょう。

我が国もロシアへの制裁に現時点では積極的ではありません。安倍内閣はプーチン大統領との対話を続けると表明しています。ロシア産の安いガスの輸入を実現しながら、北方領土返還への道筋をつけることが、安倍内閣の基本戦略だったからです。

世界的に原油需給がひっ迫する可能性は低い

ロシアに追加の経済制裁が実行され、ロシア産原油の供給が減ると、世界的に原油価格が高騰する原因となります。

折しも、イスラエル軍がパレスチナのガザ地区へ侵攻を始め、イラクでは過激派勢力が樹立した「イスラム国」が支配地域を拡大するなど、中東でも地政学リスクが高まりつつあります。

ロシアとイラクの原油供給が同時に大きく減少すれば、一時的に原油価格が高騰する可能性が高まります。原油急騰は世界景気を腰折れさせる要因になります。

ところが、現時点では、世界的に原油供給は余力があり、ロシアやイラクの供給がある程度減っても、すぐに原油価格が高騰するとは考えられません。米国でシェールガス・シェールオイルの増産が進み、米国の輸入が減っていることも影響しています。

米ソ冷戦が復活するリスクは現時点では低い

ウクライナ問題がさらにこじれて、かつての米ソ冷戦に近い状態が復活すれば、世界景気に深刻な影響を与えます。ただし、そのリスクは、現時点で低いと考えられます。

ロシアは今、米国とケンカしたいと思っていないし、米国も、中東の地政学リスクや中国の海洋進出にどう対処するかが重要な今、あえてロシアとの対立を深めようとしないからです。

もし、ロシアと中国が急接近して、日米欧に対抗する勢力になると脅威ですが、そのリスクも現時点では低いと考えられます。中ロは表面友好を装っていますが、日中以上に深刻な領土問題をかかえているからです。

また、ウクライナ紛争に関して、中国がロシアを支援することはありえません。中国は、国内でウイグル族やチベット族の独立運動に手を焼いているからです。ロシア系民族がウクライナから独立することを支援することは、少数民族を抑え込んでいる中国にはできません。

(3) 日本株は買い増しの好機

今週の日本株は、上昇が予想されます。先週、マレーシア機への墜落で下がった分は、取り戻すのではないでしょうか。

日本株投資にとって今、重要なことは、今期(2015年3月期)の業績の方向性を見極めることです。これから始まる4-6月期の決算発表に注目が集まっています。4-6月期は4月1日から消費税が引き上げられたにもかかわらず、景気は懸念された程落ち込んでいません。企業業績は、概ね会社計画を上回って推移していると予想されます。

18日(金)は、日経平均が154円下がる中、安川電機(6506)が4.8%、富士通(6702)が1.8%上昇しました。安川電機は、3月20日決算で、4-6月決算発表の第1号です。4-6月の純利益が前年同期比32%増の44億円となり、9月中間決算の純利益予想を65億円→80億円に上方修正したことが好感されました。富士通は、半導体生産からの撤退を発表しましたが、構造改革で収益力の改善が進むことが好感されました。

(4) 世界中で既存の国境線を否定する動きが増えていることは、長期的には重大なリスク材料

現時点では中東やウクライナの紛争が世界景気を腰折れさせる要因にはならないと判断しています。しかし、既存の国境線を否定する動きが世界中に拡散していることは、予断を許しません。

地政学リスクが日本株に与える影響について、考え方を変えなければならない時が来れば、毎日のレポートの中で、お伝えします。現時点では、世界景気の回復と日本株の上昇をストップさせる事態に発展することはないと判断しています。

地政学リスクにより、ドルが買われるようになれば、要注意です。昔は、「有事のドル買い」といって、地政学リスクの上昇時には、軍事力の強いアメリカの通貨が買われるのが常でした。ところが、今は、「有事の円買い」といって、ドルが売られて円が買われます。現時点では、世界規模の戦闘が起こる可能性は低いと考えられているわけです。