9日の日経平均は86円安の15,216円でした。日経平均は、15,000~15,500円で、膠着感が出ています。

(1)日本株を買っているのは、相変わらず、外国人と信託銀行

10日に東京証券取引所が発表した7月第1週(6月30日―7月4日)の主体別売買動向によると、外国人投資家が2,870億円、信託銀行が832億円の買い越しでした。信託銀行の買いは、公的年金の買いと推定されます。

5~6月の日本株は、外国人と信託銀行の買いによって上昇したと言えます。東証の統計では、5-6月に外国人投資家は4,730億円、信託銀行は9,445億円日本株を買い越しています。

<参考>

年金は信託銀行にファンドを設定した上で株式投資を行うので、「年金の買い」は東証の統計上、「信託銀行の買い」になります。年金には公的年金と企業年金がありますが、今、日本株を買っているのは公的年金と推定されます。なぜならば、企業年金は運用を縮小しているところが多いからです。

(2)世界最大の年金GPIF

公的年金で最近、しばしば話題になるのは、3月末で126兆円と世界最大の運用資産を持つGPIF(年金積立金管理運用 独立行政法人)です。国内債券中心に運用をしてきましたが、運用改革委員会から国内債券の組み入れ比率を下げて、日本株や海外資産への投資を増やす提言が出ています。アベノミクスの成長戦略にも、GPIFの運用改革が挙げられています。内外投資家から、GPIFの買いで日本株が上昇するとの思惑を生じています。

(3)GPIFの基本ポートフォリオと実際のポートフォリオ

GPIFは、以下の通り、運用の基本ポートフォリオを公表しています。

<基本ポートフォリオ>

国内債券60%、国内株式12%、外国債券11%、外国株式12%、短期資産5%

ただし、運用資産の価格は常に変動するので、資産構成を常に基本ポートフォリオに一致させておくことは実質不可能です。価格が上昇する資産の組み入れは拡大し、価格が下落する資産の組み入れは減少します。GPIFの公表資料によると、今年3月末での資産構成は以下の通りです。

<3月末のGPIFのポートフォリオ>

国内債券55.43%、国内株式16.47%、外国債券11.06%、外国株式15.59%、短期資産1.46%

国内株式・外国株式の組み入れ比率は、3月末では、基本ポートフォリオを大きく上回っていることがわかります。株価の上昇によって組み入れ比率が上がった面もありますが、それだけではありません。

(4)GPIFは前倒しで日本株の組み入れを増やしている

GPIFは、3月に国内債券を売って、日本株・外国債券・外国株を買う入れ替えを実施しています。同社資料によると以下の通り入れ替えを実施しています。

<GPIFの3月の資産配分変更>

国内債券1兆1,928億円の資金回収、日本株2,504億円・外国債券1,671億円・外国株2,325億円の資金配分

GPIFの運用改革では、日本株の組み入れ比率(基本ポートフォリオ)を、12%から18~20%へ引き上げることが検討されています。ただし、GPIFは前倒しで日本株の組み入れを上げてきていることがわかります。

(5)5月~6月に日本株を買った公的年金はどこか?

現時点では、わかりません。公的年金には、GPIFのほかにも、いろいろな基金があります。全般的に、国内債券の組み入れが高いので、GPIFにならって国内債券の比率を下げて、日本株などを買い増ししている可能性はあります。

(6)年金の売買情報の伝わり方は、往々にして紛らわしい

公的年金の運用改革の話が進んでいます。一般の投資家は、改革が決定すれば新規に公的年金の買いが始まると、イメージしているかもしれません。ところが、現実には、公的年金は前倒しで日本株を買っています。そして、公的年金の日本株組み入れ比率は、前倒しで基本ポートフォリオを大きく上回っています。

今後も、公的年金の買いは続き、日本株を上昇させる方向に働く可能性があります。ただし、実際に運用改革が決定したときには、既に組み入れはほとんど終わっていて、そこからの新規の買いは少ないこともあり得ることを頭の隅に入れておいた方がいいかもしれません。

<重要な注意事項>

公的年金の今後の売買についての話は、すべて筆者の推定で、実際には異なる結果になることもあります。