19日の日経平均は245円高の15,361円。久々に出来高も増加し、市場は活況を呈しています。政府が早ければ24日にも発表する成長戦略への期待が上昇の背景にあります。法人実効税率の引き下げ、水素エネルギー活用社会の実現、インフラ輸出加速、ロボット技術活用支援などが盛り込まれる可能性があります。

(1)水素エネルギー活用が政府の成長戦略に

経済産業省の有識者会議は19日、水素活用社会の実現に向けた工程表をまとめました。水素エネルギーを使って走る燃料電池車、家庭用燃料電池「エネファーム」の普及促進が柱となります。さらに、2030年に向けて、水素発電所の実用化も視野に入れています。この工程表に沿って、水素社会実現を目指すことが、政府の成長戦略に盛り込まれる見込みです。

この工程表には、日本にとって重要な3つの戦略が含まれていると考えます。

  • 次世代自動車の本命と考えられている「燃料電池車」で日本が主導権を取れるように政府が後押しする方針を明確にしたこと。
  • 水素活用によって、日本の省エネ技術をさらに前進させること。化石燃料への依存を減らすことで、近年赤字が定着している日本の貿易収支改善に寄与することが期待される。
  • 最終的に、化石燃料に頼らない水素を活用したエネルギー循環社会を実現すること。

上記の③は、まだ100年以上先の遠い夢かもしれません。ただし、化石燃料への依存を少なくし、持続可能なエネルギー循環社会を実現することは、いつかはやらなければならないことです。

石油危機が起こって「石油資源があと30年で枯渇する」と言われた1970年代に、代替エネルギーとして、水素エネルギーか原子力の活用を促進する必要があると言われました。さまざまな議論がされたのち、日本は原子力の推進を選びました。その後の必死の努力で、日本は原子力の平和利用でフランスとならび世界トップクラスに立ちました。

ただし、残念ながら、原子力の選択は正しくなかったようです。原子力への期待が低下した今、日本は改めて水素エネルギーの活用でも、世界をリードしていく覚悟が必要です。現時点で、日本は水素エネルギーの活用技術でも、世界のトップクラスにあります。政府が水素産業の発展支援に明確にコミットすることで、その道筋はさらに明確になると考えます。

水素活用の循環社会を作るためには、2つのステップが必要です。

<第1ステップ>
化石燃料からつくられる水素を活用するインフラ整備を行うこと。

<第2ステップ>
太陽光・風力など再生エネルギーから作られる「グリーン水素」を活用する社会を実現すること。

今回の工程表では、まず<第1ステップ>から取り組むことになります。

(2)水素関連の参考銘柄

水素活用が、日本にとっても人類にとっても重要なテーマであるだけに、株式市場でも折に触れて水素技術を持つ銘柄を、「水素社会」関連株として買い上げる動きが出ます。

ただし、水素産業は、まだ本格的な成長期には入っていません。先行投資が重く、利益を上げることができない状態が続く「黎明期」にあることを理解しておく必要があります。水素輸送網や、水素ステーションの構築も、当初は赤字事業となるでしょう。燃料電池車も、自動車メーカーにとって赤字事業となるでしょう。黒字化して利益を稼ぐようになるまでに相当な年数がかかる見込みです。

水素事業しかやっていない銘柄へ投資するのは、リスクが高いので、できれば水素事業以外で十分な利益をあげている銘柄から、投資対象を選んだ方が望ましいと考えます。

参考銘柄として、以下の6銘柄を挙げます。

  • トヨタ自動車(7203):2014年末にも燃料電池車を発売する予定。当初の販売価格はまだ決まっていませんが、700万円程度になると考えられています。政府は、これに200万円以上の補助金をつけ、実質500万円程度で購入できるようにすることを検討しています。
  • 本田技研工業(7267):2015年にも燃料電池車を発売する予定です。
  • 新日鐵住金(5401):製鉄プロセスで出る副生水素をエネルギーとして活用する実験を行っています。
  • JX HLDG(5020):水素ステーションを作っています。
  • 川崎重工業(7012):圧縮水素を流通させる技術を持ちます。水素運搬船・水素運搬車・水素貯蔵タンクを手掛けています。新興国に豊富に存在する褐炭(低品質の石炭)から取り出した水素を、日本に持ち込む計画を進めています。水素発電の技術開発も行っています。
  • 千代田化工建設(6366):有機ハイドライトを使い、水素を常温・常圧のまま運ぶ技術を持ちます。この方法によって、水素の長距離輸送、長期間保存が可能になります。将来、再生エネルギーで作った水素を運搬・貯蔵するのに活用される期待があります。ただし、千代田化工建設については、現在、イラク国内で激化する戦闘によって、イラクで実施しているプラント建設が被害を受ける可能性には、注意が必要です。