27日の日経平均は34円高の14,636円。日本の景気・企業業績の拡大が続くので、今は日本株を買い増す好機との判断を継続します。

ただ、リスク要因がまったくないわけではありません。今日は、リスク要因の1つ、ウクライナ問題の考え方を解説します。

(1) デフォルト寸前の状況にあるウクライナ

ウクライナ大統領選で、親欧米路線を掲げる元外相のポロシェンコ氏の当選が確定しました。新大統領は、欧米から経済支援を受けながらウクライナ経済の立て直しにとりかかることになりますが、前途は厳しいと言わざるを得ません。最大の問題は、ウクライナが巨額の対外負債をかかえ、デフォルト寸前の状態にあることです。もしデフォルトになると、世界の金融市場を揺るがす問題となります。日本への直接の影響は限定的でも、世界的にリスク・オフ・ムードが広がると、日本株が売られる要因となります。

ウクライナ政府の発表によると、ウクライナの昨年末時点の対外負債(国の負債と民間の負債の合計)は1,400億ドル(約14兆円)に膨らんでいます。そのうち半分弱(約660億ドル)は、今年10月までに返済が訪れます。ところが、ウクライナの支払い余力を示す外貨準備高は150億ドルしかありません。すぐに数百億ドル(数兆円)の金融支援を受けなければ、デフォルトの危機が迫ります。

親欧米政権の誕生によって、これまでウクライナに金融支援を続けてきたロシアからの支援は見込みにくくなります。ロシアからの支援が減る分、EUやIMFからの支援でカバーしなければなりません。EUやIMFは、既に支援を実施する意思を示していますが、支援の条件として、緊縮財政など大胆な経済改革の実施を挙げています。

(2) 負債削減にむけた改革断行は困難を伴う

ウクライナが経常収支の赤字を削減していくためには、大規模な構造改革が必要になります。社会保障や補助金の削減、公務員の人件費削減、公共料金引き上げなどの実施が不可欠です。こうした改革を急激に実施すると、社会不安が高まります。政権が安定しない中での改革を断行するには困難が伴います。

(3) ロシアへの依存を断ち切るのも困難

ウクライナは、ロシアからパイプラインで天然ガスの供給を受けています。ロシアとの交渉に失敗すると、そのガス供給が停止されます。資金繰りに苦しむウクライナでは、天然ガスの代金未払いが増加しており、このままではロシアは天然ガスの供給を停止すると通告してきています。

ただし、ロシアがウクライナへのガス輸送を完全にストップすることは考えにくいと思います。なぜならば、ウクライナのパイプラインは、ロシアから欧州諸国へガスを輸出するための重要ルートだからです。ロシアは、ウクライナへのガス供給を停止すると宣言しても、欧州へのガス輸出を続けるためには、どうしてもウクライナを通るパイプラインにガスを流さなければなりません。ウクライナがそのガスを抜き取ることは起こり得るでしょう。ロシアはその問題をわかっています。ロシアは、ウクライナが抜き取ったガスに対する未払い金の請求を続けていくことになります。

仮に欧米からの金融支援でロシアからのガス購入を続けられるようになっても、ウクライナがロシアから経済的に自立することはできません。対外負債の多くをロシアから受けているからです。政治的に独立しても、経済的なロシア依存を断ち切るのは困難な状況です。

(4) クリミアと東ウクライナのロシア系住民の処遇も難しい問題

クリミアは既に不当にロシアに編入されています。ウクライナ政府はロシアに返還を請求していく方針ですが、クリミアはロシア系住民の比率が高く、実現は困難と言わざるを得ません。さらに東ウクライナのドネツクでは、ロシア系住民による独立運動が行われています。ロシア政府は東ウクライナ編入の意思はないと表明しているが、情勢次第で豹変しないとも限りません。

ロシア政府は、親欧米政権の誕生したウクライナと「対話の準備がある」と表明しています。ガス供給などの経済支援と引き換えに、クリミア編入の承認や東ウクライナのロシア系住民による自治権の拡大を要求してくる可能性が高く、ウクライナにとって難しい交渉となります。

ロイター通信の報道によると、新大統領の就任会見から1時間もしないうちに、ウクライナ軍が東部ドネツクの親ロシア派が占拠する国際空港を空爆し、奪還しました。
同通信によると、「ポロシェンコ氏は会見で親ロシア派勢力の指導者らをソマリアの海賊と同じだと非難し、テロリストとの交渉はしないと断言しました。一方でロシア系住民の言語を保護する権利と、ウクライナにとどまりたいと思っている住民の自治を認めるとしています。また、ロシアのプーチン大統領との会談を向こう3週間以内に予定していると明かしました。さらに、ウクライナを腐敗させてきたロシアのガスへの依存を断ち切ると公言しています」

果たして、ポロシェンコ氏の考え通り、ウクライナを立て直せるのか?今後、ウクライナ発で、世界の金融市場に波乱が生じる可能性も、まだ残っていると考えられます。