「なぜ、うちが電気自動車関連の本命だと皆が言わないのかわからない」5年前、日本電産(6594)の永守社長が言っていたことの意味が今、よくわかりました。

2009年当時、電気自動車関連の本命として注目されていたのは、ジーエス・ユアサコーポレーション(6674)など蓄電池メーカーでした。ジーエス・ユアサ株は、まだ赤字だったリチウムイオン電池事業の将来への期待から株価が急騰しました。ところが、自動車用リチウムイオン電池は技術開発のハードルが高く、いつまでたっても利益が出ませんでした。ジーエス・ユアサ株はその後、暴落しました。

(1)日本電産の車載モーターが本格成長期に

日本電産は、車載(自動車用)モーターの売上・利益が急拡大する段階に入りました。車載事業は、2014年3月期に売上が1,152億円まで拡大しましたが、会社の戦略目標では、2年後(2016年3月期)に3,000億円を目指します。同社の戦略目標では、3,000億円のうち、800億円をM&A(企業買収)によって獲得します。買収が実行できない場合は、売上目標は2,200億円に下がりますが、それでも2014年3月期の売上からみて2倍弱の急成長です。

電気自動車は期待された程には普及しませんでしたが、ハイブリッド車(ガソリンと電気の両方を使って走る自動車)やプラグイン・ハイブリッド車(家庭のコンセントからも充電できるハイブリッド車)が順調に拡大しています。さらに、安全運転支援システムの普及など、自動車に精密モーターや電子部品がたくさん使われるようになったことも追い風です。

車載モーターは、高温や振動に耐えることが必要で開発に困難がともないますが、日本電産はそれをクリアし2016年3月期には車載でも営業利益率10%以上を出すことを視野に入れています。確かに、自動車電装化の本命は、日本電産だったといえると思います。

もちろん、電装品で高い技術を持つデンソー(6902)なども、自動車電装化の追い風を受けます。車載の蓄電池メーカーも、これまでは売上も利益も伸びませんでしたが、今後、成長期を迎える期待は残ります。

自動車の電装化でメリットを受ける参考銘柄

コード 銘柄名 コメント
6594 日本電産 車載モーターが本格成長期に。自動車部品会社を買収し、車載事業の拡大を加速する方針。
6902 デンソー 電装品で世界トップの技術力。元はトヨタ向けが主体であったが、近年はホンダや独フォルクスワーゲンなど非トヨタ向け売上が拡大し、成長をけん引。
6997 日本ケミコン 高速充放電が可能な電気二重層キャパシタを、ハイブリッド車・燃料電池車の蓄電装置の一部として活用する検討が続いている。
7203 トヨタ自動車 ハイブリッド車の主要技術を独占。燃料電池車の開発にも注力。安全運転支援システム(危険を察知したら自動でブレーキがかかる装置など)の開発でも先行。ただし、自動運転車の開発では米グーグル社に遅れをとっている。
6674 ジーエス・ユアサコーポレーション リチウムイオン電池の欠点であった、充放電繰り返しによる劣化を小さくすることに成功。今後、ハイブリッド車向けで、ニッケル水素電池に代わってリチウムイオン電池が採用されることが増えると予想される。

(2)日本電産が発表した今期業績予想はアナリスト予想平均に届かず

22日に日本電産は2014年3月期の決算を発表しました。3期ぶりに最高益を更新し、好調な決算でした。ただし、続く2015年3月期について、会社が発表した予想は市場予想を下回りました。これを受けて23日の日本電産株は前日比50円安い5,850円で寄り付きました。ただし、この日の午前中に開催された決算説明会で、永守社長が将来の成長に強い自信を示したことが好感され、大引けは70円高の5,970円となりました。

日本電産の業績、実績と今来期の予想

(金額単位:億円)

日本電産にとっての成長分野は、車載だけではありません。近年は、家電・産業用にも精密モーターが使われるようになっています。たとえば、昨年夏は、猛暑と電力不足の中で扇風機でも日本電産のDCモーターを使った製品がヒットして話題になりました。日本電産のDCモーターを使っていると、価格は高くなりますが、省電力に効果があり、音が静かになります。

私は、10年以上前から永守社長の話を聞き続けています。永守社長は、常に5~10年先を見据えて話をしています。彼の話はとてもわかりやすく、説得力があります。基本的な成長戦略は以下の通りでそれは長い間変わっていません。

  • 日本電産は小型精密モーターで世界トップの技術力を持つ。
  • 精密モーターが必要とされる分野は、超小型ハイテク品から、中型・大型の産業機械に広がっていく。
  • 精密モーターの需要が大型分野に広がるにしたがって、日本電産のモーターシェアが拡大する。
  • 新分野へビジネスを広げる際、既存の会社を買収することで、市場参入をスピードアップする。

今は、車載・家電用・産業用のモーター分野で、同時に日本電産がシェアを拡大できるタイミングに入っていると考えています。