1日の東京市場で、北海道電力(前日比91円安の781円)を始め、電力株が軒並み大きく値下がりしました。「北海道電力が債務超過となるのを回避するために政策投資銀行が優先株500億円を引き受けて資本支援する」と日本経済新聞で報道があり、電力会社の財務内容悪化に改めて注目が集まりました。北海道電力は「当社から優先株への出資を要請した事実はない」と報道を否定しましたが、財務的に苦しくなってきている事実は変わりません。

原発停止で火力発電の燃料輸入費がかさみ、電力各社は赤字が続いています。株式市場には、「原発再稼動さえ認められれば、電力各社の経営は正常化する」との期待があるようですが、私はその見方に懐疑的です。私は、たとえ原発の再稼動があっても、電力各社の損益や財務が抜本的に改善することはないと考えています。

(1)電力9社は投資対象としてリスクが高い

原発事業を行ってきた電力9社(東京電力・関西電力・中部電力・九州電力・中国電力・四国電力・北陸電力・東北電力・北海道電力)への投資は、リスクが高いと判断されます。それは、核燃料サイクル事業が実行可能か否か、現時点でわからないままだからです。
(注)沖縄電力は原発を保有していません。電源開発は原発の建設を始めていますが、未完成です。

核燃料サイクルを実施することを前提とすると、使用済み核燃料はプルサーマル発電や高速増殖炉で新たに発電を行うための「資源」となります。しかし、核燃料サイクルは実行不可能と判断される場合、使用済み核燃料は、最終処分に莫大なコストがかかる「核のゴミ」となります。

今の日本は、技術的にまったく完成のメドがたっていない核燃料サイクル事業をやることを前提に原発事業を推進しています。つまり、使用済み核燃料が資源となることを前提にしているわけです。原発再稼働で、電力会社の損益が改善すると考えられているのは、核燃料サイクル実現を前提に、損益計算書を作るからです。

ところが、最近になって核燃料サイクルは実行不可能との見方が強まってきています。もし、政府が「核燃料サイクルを実施しない」と判断を変える場合、国内に積み上がった使用済み核燃料は「資源」から「ゴミ」に変わります。その最終処分コストは、非常に大きくなる可能性があります。

(2)核燃料サイクルを実施しない場合に生じる問題

核燃料サイクル事業が技術的に不可能と結論が出る場合は、核燃料の単純廃棄を前提に原発事業の損益を計算し直さなければなりません。その場合には、以下のような問題が発生します(表A)。

(表A)核燃料サイクルをやめる場合に生じる問題

1. 最終処分場の確保 使用済核燃料は全国の原発と青森県六ケ所村の再処理工場のプールに既に1万7000トン保管されています。最終処分場が決まらないと、仮に原発が再稼働になっても、6年で一時保管用のプールは満杯になります。佐賀の玄海原発のように、再稼働しても2年で満杯になる所もあります。
2. 最終処分コストの確定 これまでは核燃料サイクル事業を行うことを前提に、原発のバックエンド・コスト(発電後にかかる費用)計算が行われてきました。単純廃棄を前提に、バックエンド・コストの再計算が必要になります。
3. プルトニウム処理 日本には高速増殖炉で使用することを前提に蓄積してきたプルトニウムが44トンもあります。プルトニウムは核兵器の原料となるため、米国は各国が平和利用(発電)以外の目的で大量のプルトニウムを持つことを、認めていません。日本は、核兵器を持たない国で唯一、平和利用を前提にプルトニウムを持つことを認められている国ですが、核燃料サイクル事業を断念するならばプルトニウムの保有は認められなくなる可能性が高いと考えられます。

中でも、もっとも難しい問題が、使用済核燃料の最終処分場確保です。核燃料サイクルを断念して単純廃棄を決めた国でも、処分場確保に目処を付けたのはまだフィンランド・スウェーデンのみです。米国は核燃料リサイクルを実施しない方針で、最終処分場を探していますが、まだ最終決定していません。ネバダ州ヤッカマウンテンを最終処分場に選択したが白紙撤回されました。ウラン産出の多いモンゴルの砂漠を処分場にする計画もあったが住民の反対で撤回されています。

プルトニウムの処理も難しい問題です。核拡散防止条約で、核兵器の保有は米国、ロシア、イギリス、フランス、中国の5か国にしか認められていません。同時に、原発の使用済燃料の再処理も、原則この5カ国にしか認められないはずでした。それは再処理で出てくるプルトニウムを使って核兵器を作ることができるからです。日本は平和利用を前提に、交渉の末、再処理を行ってプルトニウムを保有する権利を認められた経緯があります。

日本の再処理計画は1988年に発効した日米原子力協定(有効期間30年)を前提としています。この協定によって日本は核兵器を持たない国で唯一、プルトニウムの製造を含む、核燃料の再処理が認められています。核燃料の再処理は、まさに核兵器を製造するプロセスに直結しており、当初は米国でも日本にそれを認めることを反対する空気が強かったのです。日本は、世界で唯一の核兵器被爆国として「核の平和利用への道筋をつける」と強い決意をもって交渉に臨み、やっと認められた経緯があります。

ところが、その後、日本で核燃料の再処理もプルトニウムを使う発電も、相次ぐトラブルでいまだに始められない状況にあります。平和利用が実現しないままに日本に大量のプルトニウムが蓄積していく状況に、米国は懸念を示し始めています。

このような状況で、原発事業を保有している電力会社に投資するのは、リスクが高いと言わざるを得ません。