執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 6月8日英選挙は波乱材料になる可能性は低いが、リスク材料として留意が必要。
  • 6月8日米国ではコミー前FBI長官の議会証言がある。トランプ大統領を追い詰める証言があると、マーケットに不安が広がる。

(1)今日(6月8日)のイベント:イギリス総選挙とコミー前FBI長官の議会証言

今日は、イギリスおよび米国で、注目イベントがあります。サプライズ(驚き)なしに終わるか、なんらかのサプライズが出るか、注意を要します。

(2)イギリス下院選挙

3年後(2020年5月)に予定されていた英総選挙が3年前倒しされ、今日(6月8日)実施されます。選挙結果は、東京時間で明日(6月9日)に判明する見込みです。

現在、メイ首相が率いる与党・保守党は、下院議席の51%とわずかに過半数を占めるに過ぎません(筆頭野党・労働党が35%、他14%)。EU(欧州共同体)とのブレグジット(英国のEU離脱)条件交渉で、強い交渉力を持つためには、与党が議席を伸ばす必要があるとメイ首相は考え、総選挙の前倒しを決断しました。

保守党は、当初、ブレグジットに反対していましたが、昨年6月の英国民投票でブレグジットが可決されてからは、メイ首相を中心に、EUとの条件交渉を進めているところです。きっぱりとEU離脱に切り替えて、強い姿勢でEUと条件交渉を進めるメイ首相の姿を見て、英国民に、保守党中心にまとまってEUとの交渉を有利に進めたほうが良いとの機運が広がりつつあります。保守党の支持率上昇を見て、メイ首相は、今、総選挙をやれば勝てると踏み、総選挙前倒しの賭けに出たわけです。

これと対照的に、ブレグジットを主導したイギリス独立党は、英国民の支持を失い、地方選挙で大敗するなど、勢力を縮小しています。激しい演説で、英国民をブレグジット賛成に導いたファラージュ前党首が、ブレグジット可決後に「自らの生活を取り戻したい」と述べて党首を辞任したことが、無責任と言われました。

ブレグジット交渉は、大衆を煽るだけの政党ではなく、政策遂行能力の高い保守党メイ首相の元で、行った方が良いとの判断が英国民の間に広がりました。また、第二党の労働党コービ党首にリーダーシップがなく、英国民から人気がないことも、保守党に有利に働いています。保守党が勝利すれば、英国の国益を考えた現実的な条件でのブレグジット実現に進むとの期待が高まります。

当初は、保守党の大勝で終わるとの期待が高かったのですが、選挙直前になって、情勢が変わりました。第2党の労働党の支持率が上昇し、支持率トップの保守党の差が縮まってきました。6月4-6日にオピニウムが実施した世論調査では、保守党の支持率43%、労働党の支持率36%と、差が縮まってきています。

最近、ロンドンでISテロが数多く起こっていますが、保守党が警察官の数を減らすなど、テロ対策を怠ったことが原因との見方が広がり、保守党に逆風となっています。

万一、第二党の労働党が勝ち、保守党が既存議席(51%)より議席を減らして、過半数を割るようなことがあると、英国経済の先行きに不安が広がり、英ポンド安が進むと考えられます。英ポンドが大きく売られると、円高(ドル安)が進みやすくなり、日本株が売られる要因となります。

保守党が大勝すれば、英ポンド・英国株が買われる要因となり、日本でも、円安株高が進みやすくなります。保守党が小幅に議席を伸ばす場合は、株式市場への影響は中立となると思います。

(3)英経済への不安を示す英通貨ポンドの値動き

英ポンド(対米ドル)の値動きに、英経済への不安の変化が読み取れます。不安が広がると、英ポンドが下がり、不安が減ると上昇します。

英ポンド(対米ドル)の動き:2016年1月―2017年6月7日

(注:楽天証券経済研究所が作成)

昨年6月にブレグジットが英国民投票で可決されてからの流れを、グラフ中の①―③に沿って説明すると、以下の通りです。

  • 2016年6月:ブレグジット可決で、英経済への不安が高まり、英ポンドが急落。
  • 2016年7-12月:ハード・ブレグジット(英国とEUがともに大きなダメージを受けるブレグジット)への不安から、英ポンドが下落。
  • 2017年1-6月:メイ首相への期待から英ポンドが上昇。英国に有利な条件でのブレグジットを実現する期待。

今日行われる英選挙で、保守党が大勝すれば、メイ首相の政策実行能力が拡大することから、英ポンドはさらに上昇すると、予想されます。保守党がまさかの敗北を喫すると、英経済への悲観が広がり、英ポンドが売られると考えられます。

(4)米国では、コミー氏が議会証言

米国では、トランプ大統領の支持率低下が続き、トランプ大統領の政策実行能力が低下する懸念が出ています。トランプ政策の下で、予定されている大型減税や公共投資の実行可能性が減ります。

ロシアゲート疑惑の広がりに加え、温暖化ガス削減の国際合意であるパリ協定からの離脱を表明するに至り、共和党議員に「トランプ離れ」が広がりつつあります。コミー前FBI議長の証言で、トランプ大統領が追い詰められると、さらに大統領が孤立し、政策実行力がさらに低下すると懸念されています。その場合、ドル安(円高)が進み、日本株が売られる可能性があります。