ソチ五輪開催前に起こっていれば、日本も五輪参加が危ぶまれるところでした。ウクライナ南部のクリミヤ半島へロシアが軍事介入を決定した事実は重い。1980年のモスクワ五輪は、前年に旧ソ連がアフガニスタンに軍事介入したことへの反発から日本・アメリカなど世界50ヶ国あまりが参加ボイコットしました。その二の舞となるところでした。

(1)クリミヤ半島はロシア軍の支配下に

ロシアは公式に認めていませんが、ウクライナにロシアが軍事介入したのはほぼ確実です。1853年~1856年に行われたクリミヤ戦争(旧ロシア帝国と、イギリス・フランス・オスマントルコ連合軍との戦い)の再来を思わせる事態に、緊張が走りました。歴史的に、クリミヤは南下政策を取るロシアと、欧州諸国の間に紛争が絶えなかった地域です。国際金融市場では、円がリスク・オフの買いで1ドル101円台に上昇しており、週明けの日本株は下げて始まる可能性が高いと考えられます。

日本時間3日朝6時時点では、戦闘行為は起こっていない模様です。ロシア軍は、ウクライナ内のクリミヤ自治共和国を、戦闘行為を伴わずに掌握した模様です。クリミヤはロシアの介入を求めるロシア系住民が多く、ウクライナ軍も特に抵抗することなく、ロシアに投降したと推測できます。

アメリカや欧州諸国はこれに反発を強めており、6月にソチで開催される予定のG8準備会合への参加を見送る方針を出しています。ロシアへの経済制裁実施も検討されている模様です。

欧米諸国・ロシア双方とも、かつての米ソ冷戦に近い深刻な対立が再現することは回避したいと考えているはずです。それでも、ロシアは、歴史的に重いクリミヤ半島をめぐる勢力争いに、引くに引けない事態に陥っている可能性があり、事態が早期に解決に向かう可能性は低いと考えられます。

(2)ロシアが軍事介入を決断した背景

ロシア側に引くに引けない事情があったのは確かです。

  • クリミヤ半島にロシア系住民が多く、ウクライナ西部ではロシアの介入を求めるロシア系住民によるデモが起こっていること
  • エネルギー供給を通じて、旧ソ連邦諸国を経済的に支配する戦略が通じなくなってきていること
  • ウクライナは、ロシアから欧州へ天然ガスを輸出する重要なパイプラインが通っていること
  • 中国が、現時点ではウクライナ問題についてロシアを批判する立場と一線を画していること。

アメリカのシェールガス革命の影響がここにも間接的に及んでいるのでしょうか。アメリカ国内に安価なシェールガスが大量に産出するようになり、アメリカは中東から天然ガスを買う量を減らしました。中東で余ったガスは、欧州に流れ込んでいます。そのため欧州は、ロシアからガスを買う量を減らし、国際的に天然ガス価格が下がる要因となっています。

石油・ガス供給を通じて、旧ソ連邦諸国を支配するロシアの戦略が機能しにくくなってきた背景となっています。影響力の低下の中で、ウクライナでは親ロ政権が崩壊し、親欧米政権が成立する情勢となりました。ロシアはなし崩し的にロシアの影響力が低下していく事態を看過できなくなった模様です。

(3)今後の情勢展開は予断を許さない

ウクライナをめぐる事態が長期化するのは、ほぼ確実です。事態が短期的に改善に向かうことは想定できません。かつて、国際緊張が高まった時にはドルが買われる「有事のドル買い」が定着していた時代もありました。今は、アメリカの指導力が低下したこともあり、「有事のドル買い」反応はまだ起きていません。ドル円に限っていえば「リスク・オフの円買い」(株などのリスク資産が下がる事態が起こったとき、国際的なマネーが避難通貨として円を買うこと)で、円が上昇しやすくなっています。ドルが下落(円が上昇)すれば、連動する形で日本株が下がる事態となります。

欧米諸国も、ロシアもこれ以上の事態の悪化を望んではいないはずですが、双方とも振り上げた拳の下ろしどころが見えない中で、短期的にはマネー市場で積極的にリスクを取る向きは減少しそうです。

(4)ウクライナ債務危機に対する支援問題もメドがたたなくなった

ウクライナ問題は、当初、アルゼンチンと同じ、債務不履行が懸念される新興国問題の1つとの位置づけでした。親欧米政権が成立して、IMFなどによる支援が取り付けられる方向で検討が進んでいましたが、これで、支援のメドが立ちにくくなりました。ウクライナ問題をきっかけに、新興国の債務問題に改めてスポットが当たる可能性もあります。

(5)今週は、アメリカで重要な経済発表が多い

毎月、第一週目は、アメリカで重要な指標が発表されます。今週の特に注目度が高いのは、今晩(3月3日)発表される2月の米ISM製造業景況指数と、3月7日発表予定の2月の米雇用統計です。大雪の影響で2月の米経済も停滞しており、弱めの指数が出やすくなっています。

ただし、弱めの数字が出ても、事前コンセンサス通りならば、市場への影響は限定的になるでしょう。市場予想を超える弱い数字が出て、「アメリカは金融緩和縮小を一時見合わせざるを得ない」と思われれば、ドル安(円高)が進んで日本株が下げる要因となります。
逆に、強い数字が出ると、大雪後にアメリカ経済が力強く回復する期待が高まります。すると、米国株・ドルが買われやすくなります。どちらが出るか、数字が出る前に、決め打ちするのは難しいところです。

(6)下がれば買いの投資判断継続

私は、一時的な不安で、日本株が売られれば「買い」との判断を継続します。ウクライナ情勢は新たな悪材料として、続く見込みですが、世界経済を崩壊させる事態に発展する可能性は低いと考えているからです。米景気も基調は強いと判断しています。 今年後半には、ドル高(円安)が進み、日本の景気・企業業績の回復が続くとの判断を継続します。