ブリヂストン(証券コード5108)の2月19日の株価は、164円安の3637円。前日引け後に発表した2013年12月決算は2期連続の最高益更新。続く2014年12月期の営業利益(会社予想)も、5%増の4600億円と3期連続の最高益を見込んでいます。増配も発表し、配当利回りは2.19%と魅力的な水準に上昇しました。それでも、なぜ、売られているのでしょうか。

(1)今期業績予想は、市場コンセンサスを下回る

ブリヂストンが発表した今期(2014年)営業利益予想は+5%増の4600億円(表A)。3期連続の最高益を見込みますが、それでも、市場コンセンサス(+9%増益)は下回りました。また、今期の営業増益率+5%が、+50%近い営業増益であった2012年・2013年から、鈍化することも気がかりです。これが、昨日、目先筋がブリヂストンを売ってきた理由かと思います。

(表A)3期連続最高益を見込むブリヂストン

(金額単位:億円)

  2012年12月期 2013年12月期 2014年12月期
  実績 前年比 実績 前年比 会社予想 前年比
売上高 30,397 +0.5% 35,680 +17.4% 38,000 +6.5%
営業利益 2,859 +49.5% 4,381 +53.2% 4,600 +5.0%
純利益 1,716 +66.7% 2,020 +17.7% 2,850 +41.1%

出所:ブリヂストン

私は、ブリヂストンの業績予想は保守的で、今期は営業10%増益まで上ぶれると予想します。会社が前提としている原料価格、販売数量の前提などが保守的と判断しています。

ちなみに、今期純利益の増益率予想が+41.1%と高いですが、これは市場では評価されません。2013年12月期に特別損失▲997億円が発生して純利益の水準が低くなっていたために、今期の増益率が高くなっているだけだからです。前期は、アメリカでの独禁法違反課徴金▲447億円、リコール関連損失▲225億円などがあって、純利益の伸び率が+17.7%と、営業増益率+53.2%を大きく下回っています。ただし、懸案だった損失処理を前期に済ませ、今期に持ち越さなかったことは評価できます。

(2)長期的に安定成長が期待されるブリヂストン

ブリヂストンはタイヤで世界トップ企業です(表B)。日米欧で高いブランド力を持ちます。米ファイアストンを買収し、早くから世界展開を進めた成果が結実しました。

(表B)2012年のタイヤ世界シェア(売上高ベース)

ランキング 社名 世界シェア
ブリヂストン(日) 15.3%
ミシュラン(仏) 14.0%
グッドイヤー(米) 10.1%
コンチネンタル(独) 5.8%
住友ゴム(日) 4.1%
ピレリ(伊) 4.1%

出所:タイヤビジネス誌

タイヤ市場は世界的に成長が続いています。自動車の保有台数の増加にしたがって、近年は新興国での拡大が目立ちます。新車に装着する需要だけでなく、定期的に取り替えが必要になることから、新車販売が落ち込んだ時でも、安定的に成長が続いています。

タイヤ生産は規模のメリットが大きく、先に世界市場を押さえたブリヂストンの優位は簡単には揺らぐとは思えません。タイヤで世界3位の米グッドイヤーは住友ゴムと提携して上位2社に対抗していく戦略をとっていましたが、最近、提携を解消する方針を発表しました。提携解消のダメージは両社にとって大きいと思います。ブリヂストンとミシュラン上位2社の優位性を高めることになると思います。

近年、中国メーカーが低価格タイヤで世界シェアを高めてきていることが上位3社にとって脅威となっていますが、それでも自動車走行の安全にかかわるタイヤについては、価格だけで世界シェアが激変することはないでしょう。ブリヂストン・ブランドは、安全性や耐久性など品質で高い評価を得ており、先進国では高い競争力を有しています。

(3)最高益更新企業を買うというアイディア

株式市場において、成長性を失った企業は、株価が割安でも、放置される傾向があります。安定的に成長性する会社、最高益を更新していく会社に投資することは大切だと思います。

以下、参考としてスクリーニングによって最高益更新中の大型優良株を挙げます。

(スクリーニング条件)

  • 直近決算で連結営業益が最高益を更新する見込み
  • 連結PERが16倍以下
  • 時価総額2兆円以上
  • 営業利益率9%以上

(スクリーニング結果)

証券コード 銘柄名 19日終値 連結PER 営業利益率
2914 JT 3,344円 14.4倍 26.7%
5108 ブリヂストン 3,637円 10.0倍 12.1%
7203 トヨタ自動車 5,910円 9.9倍 9.4%
7270 富士重工 2,783円 9.8倍 13.0%
9022 JR東海 11,565円 9.9倍 27.4%
9433 KDDI 5,758円 15.1倍 15.4%
  • 連結PER・営業利益率は、直近決算における会社予想から計算。ブリヂストンのみ2014年12月期ベース。他は2014年3月期予想。

<参考>ブリヂストンが世界トップ企業になるまでの苦悩

大型買収の正しい評価は、10年20年の長い年月を経てからでないと下せません。投資家やアナリストの評価は往々にして短期的で、大型買収の本質をわかっていないことが多いので要注意です。それをつくづく感じさせられるのが1988年のブリヂストンによる米ファイアストン買収です。世界企業として飛躍した今日のブリヂストンを見れば、この買収は大成功だったと結論づけることができます。ただし、その評価は二転三転しました。

買収直後の1988年~1992年、投資家・アナリストからは「割高な買収」と批判されました。イタリアのピレリ社と買収を競う形になったため、買収価格は当初予定より大幅に高くなりました。それに加え、買収直後に米GMがファイアストンからのタイヤ調達をやめる方針を発表したことや、ファイアストン工場の生産や品質管理に想定以上の問題があることが発覚したことが痛手になりました。ブリヂストンは歯をくいしばってファイアストンの立て直しに邁進しました。その成果でGMへの納入も再開し、ファイアストンは高収益会社に生まれ変わりました。1990年代にはブリヂストンの海外収益の柱として育ち「買収の好事例」としてアナリストから高く評価されました。

2000年に買収の評価が再び暗転しました。アメリカで「ファイアストン製のタイヤを装着したフォード車が横転事故を起こし多数の死傷者が出ている」との報道が出てから、ファイアストン・バッシングが始まったからです。事故原因が特定されていない中で、ブリヂストンはファイアストン製タイヤ1440万本を自主回収しました。フォード社とは事故原因をめぐり訴訟になりました。この影響でブリヂストンは収益が悪化、株価も大きく下がり、「ブリヂストンはとんでもない会社を買収した」と批判されました。フォード車の事故については、最終的に「タイヤだけが原因ではない」との調査結果が出て、フォードとも和解し、ファイアストンは再び立ち直りました。長い苦労を経て、ファイアストンは今、ブリヂストンのグローバル戦略を支える要となっています。

買収で売られる株、買われる株の評価は、短期投資家の視点ではなく、会社とともに生きる超長期投資家の目で見ていかなければならないと、私は痛感しています。