執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 景気・企業業績の改善が続くが、トランプ不安の高まりで、日経平均は上値が重い。
  • トランプ政権が議会に提出した予算教書は、弱者切り捨て色が強い。トランプ大統領を支持していた低所得者層の反発が見込まれる。

(1) 資本主義色を強めるトランプ政権 低所得者層の反発が危惧される

先週の日経平均は、1週間で96円上昇し、19,686円となりました。世界景気は順調に回復しているものの、トランプ大統領をめぐる政治不安の高まりから、上値は重く、節目の2万円がなかなか達成できません。

先週も、トランプ不安を高めるイベントがありました。ロシアゲート疑惑は進展がありませんでしたが、23日に議会に提出した2018会計年度(2017年10月―2018年9月)の予算教書が、新たな不安材料となりました。

予算教書から読み取れることは、トランプ政権がいつの間にか「弱者切り捨て」型の資本主義政権に変わりつつあることです。予算教書の柱は、今後10年間で、低所得者向け給付を中心に歳出を3兆6,000億ドル(約400兆円)削減するとともに、法人税の大型減税により、経済成長率を3%に高めることにあります。低所得者向け給付をカットして、法人減税の財源とする政策は、「弱者切り捨て・大企業優遇」の冷徹な資本主義政策と言えます。

トランプ大統領が属する共和党はもともと資本主義色の強い政党です。対する民主党は、共和党と比較すると、やや社会主義的な政策を重視する傾向があります(日本の民進党と比べると米民主党ははるかに資本主義色の強い政党です。米国の共和党との比較で、やや社会主義色があると評しているだけです)。今回の予算教書で、トランプ政権もようやく本来の共和党の姿に戻りつつあるとも言えますが、この予算教書は、共和党主流派もあきれるくらいの露骨な弱者切り捨て策を含みます。

トランプ大統領は、大統領選挙期間中、「米国第一」の経済政策を実施することを訴えつつ、弱者を守ることを重視する「社会主義的」発言を繰り返し、低所得者層からかっさいを浴びていました。貧富の格差を拡大させた民主党オバマ政権を厳しく批判し、「Forgotten people will be forgotten no more 忘れ去られた(見捨てられた)人々に、手をさしのべる」と繰り返し叫んでいました。共和党主流派から警戒されたものの、そのキャッチフレーズが米国の低所得者層から熱く支持されました。それが、大統領選の勝利につながりました。

今回の予算教書は、トランプ大統領の熱い支持者であった低所得者層から見ると、完全に裏切りと映るはずです。

トランプ大統領は、大統領になってから、いつの間にか共和党主流派に取り込まれて、資本主義色を出すようになったのでしょうか?あるいは、もともと、資本主義色の強い考えを持っていたのに、無理して社会主義的発言をしていたのが、化けの皮がはがれつつあるのでしょうか。

今になって振り返ると、トランプ大統領は実業家で、もとから資本主義的な考えが染みついていたのかもしれません。トランプ大統領は、主要閣僚に、米大手証券ゴールドマンサックスの出身者や大富豪を選びました。大手金融機関に厳しい政策をとると思われていたのに、むしろ、規制緩和などで金融機関に有利な政策を打ち出そうとしています。

オバマケア(医療保険改革)代替案も、低所得者が幅広く公的医療保険に加入できるようにするものではありませんでした。弱者を救済するオバマケアの内容を縮小して財政負担を軽くするものでした。国防費を増やし、法人減税をするために、弱者を切り捨てる方針が露骨です。

「米国第一」主義を打ち出すことにおいては、選挙期間中の公約と変わっていません。一方、「弱者を守る」旗印は、今のところ、完全な看板倒れです。トランプ大統領の支持率は、米ギャロップ社によると、既に38%と過去最低に落ち込んでいますが、ここからさらに低下する可能性もあります。

今回の予算教書には、国防費を前年度比10%増の「歴史的な増額」にすることも含まれています。メキシコとの国境に壁を建設する費用も見込まれています。米国第一主義に基づき、対外強硬策を打ち出すことだけは、看板通りと言えます。

ただ、予算の決定権限は議会にあります。大統領が提出した予算教書は、議会に対する提案に過ぎません。議会は上下院とも、共和党が主流派を占めていますが、予算教書を議会がすんなり認めるとは思えません。

あまりに露骨な弱者切り捨て策をそのまま通すと、来年11月に予定されている中間選挙で共和党が敗北する可能性が高まります。歳出カットが認められないと、減税や公共投資の内容も縮小せざるを得なくなります。トランプ大統領の政策実行能力の低下は、支持者のトランプ離れを加速する可能性があります。

(2)日経平均の見通し

景気・企業業績の回復が続き、日経平均の予想PER(株価収益率)は、14倍まで低下しています。ここから、景況が急激に悪化しない限りは、日経平均の下値は堅いと考えています。

一方、トランプ不安を含め、世界に政治不安が広がっている問題は、改善の見通しがありません。日本も森友学園問題・加計学園問題をめぐって政治の混迷が続く可能性もあります。

今週は、トランプ大統領のロシアゲート事件で何らかの進展があるかもしれません。30日以降に、コミー前FBI長官が、議会証言を行う可能性があるからです。ロシアゲート事件の捜査をやめるようにトランプ大統領から圧力がかかったか否かが焦点です。コミー氏の議会証言でロシアゲート疑惑が深まるリスクに注意が必要です。

日経平均は、目先、下値は堅いが上値は重い展開が続くと見ています。