執筆:香川睦

今日のポイント

  • トランプ大統領の政権運営を巡る不確実性が燻るなか、日米株式は底堅く推移。国内市場では日本版「配当貴族指数」の優勢が目立つ。連続増配や安定配当に確実性。
  • 米国市場では、長期の視野で「配当貴族指数」の総収益が市場平均を大きく上回ってきた。連続増配を維持する「株主重視」の経営姿勢が市場で評価されてきたと言える。
  • 日本版「配当貴族指数」の上位銘柄群、配当利回りをチェックした。米国でみられた「配当貴族銘柄に対する長期物色」が日本市場でも繰り返される可能性が高いと考える。

(1)優勢を鮮明にする日本の「配当貴族指数」

トランプ大統領の政権運営と為替動向を巡る不確実性が株価の上値を抑えるものの、米国株式の堅調と国内の業績拡大期待を背景に、国内株価も底堅く推移しています。目先は、来週実施されるコミー元FBI(連邦捜査局)長官による議会証言や、追加利上げ観測が根強い6月FOMC(米連邦公開市場委員会、14-15日)を前にした米雇用統計(5月分/6月2日発表)が市場の動意に繋がりそうです。こうしたなか、日本市場では「配当貴族指数」(S&P/JPX配当貴族指数)の優勢が目立ち、2013年初来の高値を更新(図表1)。同指数は、「過去10年以上連続して増配、または安定配当を維持している銘柄」で構成される指数です。同指数の銘柄は、2008年以降の金融危機に端を発する景気後退で減配しなかった経緯があり、安定した財務基盤、業績、積極的な株主還元姿勢があると考えられます。

図表1:日本版「配当貴族指数」の推移(1)

図表2:日本版「配当貴族指数」の推移(2)

(注:「配当貴族指数」=S&P/JPX配当貴族指数、S&Pダウ・ジョーンズ社と日本取引所グループによる共同開発)
(出所: Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(5月25日))

(2)米国市場で起きた物色は日本でも起きる?

米国市場では、「S&P500配当貴族指数(S&P500 Dividend Aristocrats Index)」の長期的な優勢が注目されてきました。同指数は、「S&P500指数構成銘柄のうち、25年以上連続して増配してきた銘柄群(40~50銘柄程度)」から構成されています。図表2でみるとおり、米・配当貴族指数の今世紀(2000年初=100)以降の総収益(トータルリターン=値上り益+配当)は、市場平均(S&P500指数)より極めて優勢に推移してきたことが知られています。米国の投資家が、「増配を続けている企業」を「株主を重視した経営を実践している企業」と評価してきた結果と考えられます。景気の好・不調はもとより、トランプ大統領の統治能力や景気対策を巡る不確実性に拠らず、どのような経済環境であっても配当を増やし続けてきた実績は、今後も注目され続けそうです。そして、「株主を意識した経営」が問われ始めた日本市場でも、こうした「株主重視銘柄」への物色が徐々に強まっていくと思います。

図表3:米国の配当貴族指数と市場平均(S&P500指数)の推移

(注:「米・配当貴族指数」=S&P500 Dividend Aristocrats Index、総収益指数の相対推移を表示した。)
(出所: Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(5月23日))

(3)日本版「配当貴族指数」の上位構成銘柄(参考情報)

米国の「配当貴族指数」(25年以上連続して増配してきた銘柄)に該当する国内銘柄は、連続増配を27年続けてきた花王(4452)しかありません(2017年5月現在)。参考までに、日本の「配当貴族指数」(TOPIX構成銘柄のうち、過去10年以上連続して増配、または安定配当を維持している銘柄群で構成される配当利回り加重平均指数)の上位銘柄を図表4に一覧しました。これら銘柄群の特徴としては、内外の景気サイクルや為替動向から比較的影響を受けにくい「ディフェンシブセクター(安定成長業種)」が多いことが挙げられます。また、同指数の配当利回り平均は2.6%とTOPIX(市場平均)の配当利回り平均(2.1%)よりも0.5%程度高いことがわかります。配当貴族指数の自己資本(株主資本)利益率は比較的高く、業績も底堅いことで、今後も「増配」の持続が期待できそうです。外部環境要因として、当面も欧米政治、地政学的リスク、為替を巡る不安が燻ると見込まれるなか、「株式投資の原点である配当の安定と増加を中長期の視野で期待する投資」として注目されそうです。

図表4:S&P/JPX配当貴族指数の上位構成銘柄(参考情報)

(出所: 予想値はBloomberg集計による市場予想平均、Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(5月25日))

なお、個別銘柄への投資に伴うリスクを回避したい(銘柄リスクを分散したい)投資家には、配当貴族指数に連動を目指すインデックスファンド(指数連動型ファンド)を活用する方法もあります。公募投信としては「SMT日本株配当貴族インデックス・オープン」(運用会社:三井住友トラストAM)があり、ETF(上場投信)については「One ETF 高配当日本株」(1494)(運用会社:アセットマネジメントOne)が今週23日に東証に新規上場されました。どちらのファンドも、配当貴族指数に連動する投資成果を目指す、「わかりやすくて低コストのファンド」ですので注目していきたいと思います。