今日のポイント

  • 世界的な半導体ブームが続いている。増益モメンタムの強い半導体セクターに一定の組み入れを維持したい。ただし、半導体産業は浮き沈みが激しく、突然、ブームが終わることもあり要注意。半導体製造装置の組み入れを徐々に減らし、半導体材料やシステムLSIに乗り換えることも選択肢に。
  • 東芝は投資対象としてのリスクが極めて高い。東芝半導体が売却できないと債務超過が解消できないが、売却が遅れるとフラッシュメモリの不足解消が視野に入り高値売却が困難になるリスクもある。

本レポートでコメントする半導体関連株:過去1年5ヶ月の上昇率を日経平均と比較

コード 銘柄名 製 品 株   価 騰落率
2015年末 2017年5月24日
8035 東京エレクトロン 半導体製造装置 7,322.0 15,700.0 114.4%
3436 SUMCO シリコンウエハ 924.0 1,833.0 98.4%
6857 アドバンテスト 半導体製造装置 1,012.0 1,952.0 92.9%
7735 スクリーンHLDG 半導体製造装置 4,490.0 7,960.0 77.3%
4063 信越化学 シリコンウエハ 6,617.0 9,966.0 50.6%
6702 富士通 半導体(システムLSI) 606.9 811.5 33.7%
6758 ソニー 半導体(画像センサー) 3,002.0 3,998.0 33.2%
6723 ルネサスエレクトロニクス 半導体(システムLSI) 770.0 968.0 25.7%
  日経平均   19,033.71 19,742.98 3.7%
6502 東芝 半導体(フラッシュメモリ) 249.9 251.5 0.6%

(注:楽天証券経済研究所が作成)

(1)半導体の世界的なブ-ムが続いている

今、世界は久々の半導体ブームに沸いています。半導体関連株が、米国でも日本でも軒並み大きく上昇しています。このブームはいつまで続くのでしょうか?4-5年周期で好不況を繰り返す半導体業界ですが、今回は18年ぶりの世界的なブームになりつつあります。

米SOX指数(半導体株価指数)の動き:1997年1月31日―2017年5月23日

(出所:ブルームバーグより楽天証券経済研究所が作成)

半導体ブームの背景については、以下のレポートを参照ください。

(2)半導体株投資の経験則

さて、このブームは一体いつまで続くのでしょうか。私は26歳だった1987年に、投資顧問会社で日本株ファンドマネージャー兼アナリストとなりました。その時、アナリストとして最初に担当したのが、半導体産業でした。

87年は円高不況、半導体不況のさなかでした。87年10月には「ブラックマンデー」と言われる世界的な株の暴落もありました。そして、87年12月、日経平均がブラックマンデー後の安値をつけにいく局面で、半導体製造装置のアドバンテスト株が逆行高を演じていたのを不思議に思ったことを、今でも覚えています。

その後、私は半導体関連のさまざまな企業を取材し、半導体産業の復活は近いと判断し、88年1月には半導体関連株に積極的に買い推奨レポートを書きました。タイミングよく、そこから、半導体産業はブームに向かいました。

それから通算して25年間、私は日本株のファンドマネージャー兼アナリストをやりました。いろいろな業種を担当しましたが、常に半導体業界について、考え続けてきました。

半導体産業は、浮き沈みの激しい産業です。半導体ブームのピークできわめて大きな利益を計上する反面、不況になると大きな赤字を計上することがあります。半導体サイクルのピークとボトムがわかれば、急騰急落する半導体関連株の売買タイミングがわかるので、アナリストは一生懸命分析します。

ところが、その予測は、なかなか当たりません。誰もが強気で半導体は絶好調がいつまでも続くと思っているときに突然ピークアウトし、半導体不況が始まります。もう、半導体産業は永遠に復活しないと思われている、半導体不況の大底から、突然、急回復が始まります。

半導体産業を25年以上見てきたアナリストとして、今の半導体産業の復活は素直にうれしいことです。1-3月も日本製半導体製造装置の受注は大きく伸びており、また、半導体材料であるシリコンウエハも、品不足から値上がりが見込まれる状況です。半導体アナリストから、「半導体のスーパーサイクルが始まった(ブームがかつてない程長期化するという予想)」との声も聞かれるようになりました。

それでも、忘れてはならないのは、誰もがブームが永続すると思っている時に落とし穴が待ち構えていることです。半導体産業の景況は、山の天気のように急変することがあります。上昇が続いている半導体関連株については、選別投資が必要な段階に入っている可能性もあります。

(3)半導体関連株の選別投資

日本の半導体関連株も、過去1年半で、大きく値上がりしています。このレポートの冒頭にある半導体関連株の上昇率一覧表をご覧ください。原子力発電事業などで巨額の損失を計上した東芝を除けば、日経平均を大きく上回るパフォーマンスが出ています。

半導体関連株に弱気になるのは時期尚早と思います。増益モメンタムの強い半導体セクターには、一定の組み入れを保持したいと考えます。それでも私がファンドマネージャーならば、そろそろ少しずつ、セクター内で入れ替えを始めることを考えます。以下の方針で考えます。

半導体製造装置の組み入れを若干減らす→半導体材料などに乗り換える

半導体ブームの初期に株価が上昇する、半導体製造装置株については、少しずつウエイトを落とすことを考えます。半導体製造装置の中でも、前工程に関連する銘柄群(東京エレクトロン、スクリーンHLDGなど)が、最初に組み入れを下げる候補となります。

一方、ブ-ムの後期に業績がよくなる傾向のある、半導体材料(シリコンウエハで世界シェアの高い信越化学やSUMCO)については、引き続き、強気で良いと考えます。

純粋な半導体株の組み入れを若干減らす→半導体もやっているが主力事業ではなく、半導体と無関係の主力事業が好調な株に入れ替える。

画像センサーが好調なソニーや、システムLSIの利益が回復する富士通については、強気の投資判断を継続しています。半導体が好調ですが主力事業ではなく、株式市場では、あまり半導体関連株として見られていません。半導体以外の主力事業が好調であるからことから、ソニーと富士通は、投資魅力が高いと考えています。

変動の激しい半導体メモリ株の組み入れを若干減らす→相対的に変動がマイルドなシステムLSIやアナログ半導体を手がける銘柄に入れ替える。

フラッシュメモリが世界的に不足し、増産投資が活発化しています。10-12月、1-3月に日本の半導体製造装置の受注が急増しているのは、フラッシュメモリの増産対応が影響しています。

フラッシュメモリで世界大手の東芝半導体の利益が急拡大しています。ただし、半導体メモリは汎用品で、増産が続くと、供給過剰になる可能性もあります。東芝は債務超過を解消するために、東芝半導体を売却せざるを得なくなっていますが、過去の経験則では、今が売り時の可能性もあります。

東芝半導体の売却について、業務提携先のウエスタンデジタルが、契約違反と主張して差し止め請求していることが不安材料となっています。東芝が半導体事業を売るのが遅れているうちにフラッシュメモリの不足解消が視野に入り、高値売却が困難になるリスクもあります。