執筆:窪田真之

今日のポイント

  • ロシアゲート疑惑の捜査に、モラー特別検察官が任命されたことを受け、先週は、円高株安が進んだ。
  • 景気・企業業績の改善が続いているが、ロシア疑惑の材料待ちで、目先日経平均は上値が重くなりそう。

(1) ロシアゲート疑惑で円高・株安進む

先週の日経平均は、1週間で293円下落し、19,590円となりました。大統領の弾劾・罷免にまで発展する可能性のあるロシアゲート疑惑【注】の発生を受け、リスク・オフの円高が進み、日経平均が売られました。

【注】ロシアゲート疑惑

トランプ大統領が、ロシアと結託し、昨年の大統領選に影響を与えたという疑惑。昨年の大統領選直前にヒラリー・クリントン候補に不利な情報がばらまかれたが、それがロシアによるハッキングによるとの疑いがある。さらにトランプ大統領がロシアと結託しロシアを動かしたという疑惑がある。

大統領選に敗れたヒラリー・クリントン候補には、国務長官時代に、外国政府から献金を受けて、便宜をはかった疑いがかかっていた。クリントン候補は、国務長官時代に、公務で私用メールを使っていた問題があり、その私用メールを徹底的に調べることで、外国政府との癒着が判明する可能性があると、当時考えられていた。その私用メール調査を、コミー前FBI長官のもとで、FBIが捜査していた。コミー前長官は、昨年7月6日に一旦「メール疑惑は捜査の結果、訴追に相当しない」と捜査打ち切りを発表した。

ところが、その後、何者かによってクリントン候補の私用メ-ルが大量にばらまかれる事態が起こった。それを受け、コミー氏は大統領選まで2週間を切った10月28日、クリントン候補の私用メールの捜査再開を議会に通知した。そして、大統領選の2日前の11月6日に、「すべてのメールを調べて問題なく、訴追を求めない方針に変更なし」と捜査終了を明らかにした。選挙直前の捜査再開と、不可解な捜査終了発表が、選挙でクリントン候補に不利に働いたとの見方がある。

今回のロシア疑惑は、ニクソン大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件並みの重大事件に発展する可能性があるという意味で、ロシアゲート疑惑と呼ばれている。

(2)政治不安で乱高下するドル円為替レート

政治不安に反応して、ドル円為替レートが動き、日経平均が動く流れが続いています。特に、トランプ大統領に対する期待あるいは不安が、影響するケースが目立っています。

以下に、昨年11月以降の、ドル円為替の動きを挙げ、トランプ期待・不安がどう影響したか説明します。

トランプ期待/不安に反応して動くドル円為替レート:2016年11月1日―2017年5月19日

(注:楽天証券経済研究所が作成)

昨年11-12月

トランプ・ラリーで、円安・株高が進みました。当時は、トランプ政権への期待一色でした。

今年の1月

一転してトランプ不安が広がり、円高株安が進みました。ツイッターでの情報発信・記者会見・就任演説・大統領令の乱発が、ネガティブに捉えられました。

2月

再び、トランプ期待が広がり、円安が進みました。大型減税の示唆、日米首脳会談、議会演説などがポジティブに捉えられました。

3月―4月前半

再び、トランプ不安が広がり、円高が進みました。オバマケア代替法案の撤回、支持率の急低下、対外強硬策の打ち出しがネガティブに捉えられました。

4月後半―5月前半

仏大統領選の結果や、北朝鮮包囲網(米国・中国・ロシアが連携)の強化を受け、政治不安が緩和し、円安が進みました。6月のFOMC(米金融政策決定会合)で利上げが見込まれるようになったことも、円安進行に寄与しました。

5月15-19日

ロシアゲート疑惑を受けて、円高が進みました。

(3)今週は、ロシアゲート疑惑が重しとなり、日経平均は上値の重い展開か

日経平均週足:2016年1月4日―2017年5月19日

(注:楽天証券マーケットスピードより作成)

過去1年半の日経平均の動きを見ると、世界経済の動向に加え、世界の政治不安が大きな影響を与えていることがわかります。2016年前半は、世界景気が悪化する中、政治不安が高まり、円高が進み、日経平均は大幅に下落しました。

2016年後半は、世界景気が回復する中、政治不安が緩和し、円安が進み、日経平均が急騰しました。2017年に入ってからは、好材料(世界景気は回復が継続)と、悪材料(政治不安がどんどん高まっている)の綱引きとなっています。政治不安が高まると円高株安、政治不安が緩和すると円安株高になる流れが続いています。

これからロシア疑惑が深まるようだと、さらなる円高株安につながります。ロシア疑惑が解消に向かえば、円安株高に反転するでしょう。今週は、ロシア疑惑の進展を待ち、上値が重い展開となるでしょう。

次の材料としては、29日以降に予定されているコミー前FBI長官の、議会証言があります。トランプ大統領から、ロシア疑惑の捜査をやめるよう、圧力がかかったか否かが問われています。トランプ大統領を追い詰めるような話が出ると、不安が高まります。