執筆:香川睦

今日のポイント

  • TOPIXをS&P500で割り込んだ相対指数で「日本株の米国株に対する勢い」がわかる。4月以降の外部環境改善とドル円上昇で「日本株のモメンタム改善」が鮮明となってきた。
  • 株価指数ベースの「12ヵ月先EPS予想平均」を日米で比較すると、どちらも最高益を更新する見込み。ただ、日本株の方が業績改善の勢いが強く、相対的な割安感もある。
  • 日経平均の2万円は通過点?米ダウ平均と為替のシナリオ別に年内の日経平均レンジを占う。「ベストシナリオ」で2万2千円、「リスクシナリオ」で1万8千円割れが浮上してくる。

(1)日米株式市場に「モメンタムの逆転」がみられる

今週は、地政学リスクの緩和と日米金利差拡大で、為替市場は約2ヶ月ぶりの円安・ドル高が進みました(11日の東京市場では114円台前半で推移)。年初から4月まで懸念された「円高不安」からの脱却を追い風に、好決算企業を中心に業績見通しの改善や上振れを期待する買いが広がり、日経平均は2万円の大台を伺う動きとなっています。日本株の米国株に対するモメンタム(勢い)を示す相対指数(TOPIX÷S&P500指数)をみると、ドル円との相関が強いことがわかります(図表1)。実際、4月下旬から為替が円安方向に転換するなか、同相対指数は50日移動平均線を上抜ける動きを示しており、中期的な視点でみた「日米株式のモメンタム逆転」が鮮明となっています。

図表1:日本株の米国株に対する相対推移

(出所: Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(5月11日))

(2)日本株の業績改善期待と割安感に注目

日本株が米国株に対して優勢に転じた要因として、為替の円安転換をカタリスト(契機)にした業績改善期待と相対的割安感が挙げられます。日本株(TOPIX)と米国株(S&P500指数)それぞれの指数ベースの業績見通しについて、12ヵ月先EPS(1株当り利益)予想(市場予想平均)を4週移動平均したグラフを図表2に示しました。重要な点は、米国市場も日本市場も業績(EPS)は史上最高益を更新する見通しとなっており、足元の株式市場堅調が「業績期待相場」である背景がわかります。注目したい点は、世界景気回復を背景とした外需(輸出)拡大と円安で、TOPIXのEPS改善見通しが足元で米国より勢いがあることです。一方、米国の予想PER(株価収益率)がおよそ18倍であるのに対し、TOPIXの予想PERは14.4倍に留まっています。外部環境が悪化し、為替が円高となる場面では、株式リスクプレミアムが上昇してPERを押し下げる現象がみられますが、4月下旬以降はPER拡大を促す投資環境改善がみてとれます。業績見通し改善を加味した割安感では日本株に分があり、当面は日本株が優勢を維持する素地があると考えられます。

図表2:TOPIXとS&P500指数ベースの12ヵ月先EPS予想平均

(注:12ヵ月先EPS予想平均=12 months forward looking EPS(Bloomberg集計による市場予想平均)の4週移動平均(出所: Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(5月5日))

(3)米国株と為替のシナリオ別に日経平均の水準を占う

視点を変えて、年内の株価の上値目途と下値目途を日経平均ベースで試算してみます。前提として、「円換算ダウ平均」(ダウ平均×ドル円)と日経平均の相関性が極めて高かった過去の教訓を前提にしたいと思います。2010年以降の市場実績をもとに、円換算ダウ平均と日経平均の関係を回帰分析(「Y=aX+b」を導き出す統計処理)すると、「日経平均=円換算ダウ平均×0.0078+1,976円」(中心線)と算出できます。参考までに、ダウ平均と為替のシナリオ別に日経平均の年内レンジを占う一覧表を図表3に示しました。先ずは、米国株(ダウ平均)の先行きを考えます。米景気回復を反映した業績の伸びに概ね沿うリターンが見込めるなら、ダウ平均は年内に21,500ドル程度までは上昇する可能性があると考えます。この水準は、2017年の暦年騰落率として+8.8%を示現するものです。ただ、欧米の政治リスクや地政学リスクの再燃を想定するなら、ダウ平均の下値目途として19,500ドル程度も想定しておきたいとお思います。為替相場については、昨年末からのドル円下落(円高)がいったん一巡したと想定。米FRB(連邦準備制度理事会)は今年あと2回政策金利を引き上げるとみられており、市場はいずれ量的緩和(FRBのバランスシート)縮小も視野に入れると思われます。こうした場合、日米債券金利差は緩やかに拡大すると考えられ、ドル円の年内レンジは105円~120円程度を想定したいと思います。上記した回帰式にもとづく「ベストシナリオ」(米ダウ平均が21,500ドル、ドル円が120円)が示現すれば、日経平均は22,000円超がイメージできます。一方、リスクが再び悲観される事態に陥れば、投資家がリスクオフ(回避)に押されて株売り・円買い(ドル売り)に出る可能性もあります。こうした「リスクシナリオ」(ダウ平均は19,500ドル、ドル円は105円まで下落)となれば、日経平均の下値目途として18,000円割れも想定せざるを得ません。

図表3:米国株と為替のシナリオ別-日経平均のレンジ予想

(注:米ダウ平均=米ダウ工業株30種平均指数(Dow Jones Industrial Average Index) 、日経平均の参考目標値= (米ダウ平均×ドル円)×0.0078+1976円<2010年以降の回帰分析(中心線)>、上記した日経平均水準は2010年以降の市場実績にもとづく回帰分析で試算した参考値で、投資成果を保証するものではありません)(出所: Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成)

上記した試算は、簡便な回帰分析にもとづく参考情報であり、実際の相場には「オーバーシュート(買われ過ぎ)」や「アンダーシュート(売られ過ぎ)」があり得ることに留意ください。

中期的な方向感として「ベストシナリオ」(米国株堅調+円安)に近い見方をされるなら、年後半に向けた株式への投資姿勢は「押し目買い」を重視したいと思います。米国株の上値余地が小さくとも、ドル円が上昇する分で「日経平均の上値余地は拡大する」という現象もあり得るでしょう。逆に、「リスクシナリオ」(米国株軟調+円高)に近い相場観なら、株価が上昇する局面では「利益確定売り」を先行させる投資戦略が有効と思われます。