1月20日、トランプ新大統領がついに始動しました。

就任演説では、これまでの歴代大統領の崇高な就任演説とは程遠く、自由主義や民主主義の理念は語らず、「米国第一主義」(“America First”)、「米国製品を買い、米国人を雇う」(“Buy American and Hire American”)と唱え、保護主義色を前面に押し出してきました。大統領に就任すれば、現実的な路線に歩み寄るとの期待は外れ、保護主義色への不安からマーケットは株安、ドル安に反応しました。ドル円は115円台から113円台へと下落しました。

就任日の1月20日、就任初の大統領令に署名したのは、オバマケア(医療保険制度改革法)の見直しでした。そして同じく1月20日には、TPPの離脱とNAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉を表明しました。23日にはTPP離脱の大統領令に署名しました。これによって現在の協定は発行不可能となりました。また、メキシコ大統領、カナダの首相と電話会談し、首脳会談を調整しました。今週27日(金)の英国メイ首相との首脳会談を皮切りに、今後の首脳会談の予定は以下の通りです。メキシコ、カナダとの会談で通商に関するトランプ大統領のスタンスがより明確になり、他国への要求、特に中国や日本に対する要求を探るヒントになるかもしれません。また、保護主義色の強い、強硬な姿勢で臨んだ首脳会談であれば、マーケットは再び弱気になるかもしれません。

トランプ米大統領の今後の首脳会談予定

トランプ政権の顔ぶれ

トランプ新政権の主要ポストの顔ぶれは「大金持ち」「軍人」「白人男性」を重用する傾向がみられます。「史上最も金満な政権」と言われる閣僚の総資産額は100億ドル(約1兆1,300億円)と言われています。また閣僚の女性・非白人男性の割合はオバマ政権発足時の3分の1、歴代政権の中でも低い方です。

閣僚、閣僚級ポストに占める女性、非白人男性の人数と割合(政権発足時)

トランプ大統領は、選挙期間中の過激な発言で米国を真っ二つに割りました。「白人層と非白人層」、「支配層と非支配層」、「富裕層と貧困層」と社会の分断は深まりました。選挙が終わると「米国民の結束」を訴えていますが、史上最大の金満政権でかつ、女性・非白人男性の割合が歴代政権では低いという、まさに米国の分断を象徴したような新政権では「米国民の結束」はなお遠く、今後、トランプ大統領の支持率にどのように影響するのか注目です。その支持率は、既に50%を下回っているという厳しい船出となりました。

最近の歴代大統領の就任直前の支持率と景気の状況

※NYダウ平均は就任前年の12月末、失業率は12月の数字

新政権の経済政策と議会との協調

支持率のこれ以上の低下をストップさせ、高めることが出来るかどうかは、昨年からのトランプラリーを引き起こした経済政策が実際に実現できるかどうかにかかっています。就任日にトランプ大統領は6項目の基本政策(通商、雇用・経済、外交、軍、治安、エネルギー)を発表しました。このうち経済政策は以下の通りとなります。

トランプ政権が就任後発表した経済政策

この基本政策では、新たな雇用創出や4%成長の目標を掲げていますが、「1兆ドルのインフラ投資」は消えています。また法人税の引き下げ幅も、トランプ氏が主張してきた35%から15%への引き下げにも触れていません。いずれも財源などを巡って議会との調整が必要なためと思われます。今回の選挙による議会の勢力図は、下院(定数435、過半数218)では241議席と、野党民主党194議席を大きく上回っています。一方、上院(定数100)では共和党が52議席と過半数51を上回っていますが、無所属2と民主党46を合わせた野党は48議席と僅差となっています。共和党から3人が造反すれば法案は否決される綱渡り状態となっています。

議会との調整が長引けば、具体化が遅れる懸念があり、支持率が低下し、トランプラリーが剥げ落ちる可能性が出てきます。大統領令は執行権があり、法律と同等の力を持ちますが、税財政の決定権は議会にあります。また、上院では、予算など多くの法案は過半数ではなく60票を集めないと成立が難しいと言われています。このように政策実現のためには上下両院で過半数を占める与党・共和党の協力は絶対に不可決ですが、すでに閣僚人事で手間取っており前途は多難な状況となっています。今後は、議会との対応によって相場が動かされるかもしれないため、議会動向にも注目していく必要があります。