マーケットは、まったくクリスマスモードになっています。例年、クリスマスの12月25日は日本を除いて世界中で相場が休む日です。また、この日は兵士が休息するため世界中で争いがなくなることから、ピースデー(Peaceday)と呼んだりしています。しかし、今年はクリスマス直前にドイツのベルリンでテロ事件が起こったことから、クリスマスも厳戒態勢となっているため、欧州では安息の日々ではないようです。またクリスマスの25日にはドイツ南部のアウクスブルクで、第二次世界大戦中の空爆で英軍が投下した不発弾処理のため、クリスマスを自宅で過ごそうとしていた住民約5万4,000人が避難を強いられたそうです。不発弾処理を巡る避難では、ドイツでは戦後最大規模だそうです。なんでクリスマスの日に処理をするのか、住民の不満は、テロ事件も含めメルケル首相への不満につながり、メルケル首相の政治的立場はますます不安定になっていきそうです。2017年の欧州の政治リスクを暗示する出来事が続いています。
今年はクリスマスの12月25日が日曜日だったため、欧米では翌日の月曜日26日が振替休日となっています。26日の東京市場はオープンしていましたが、ほとんど値動きもなく(この日でも午前10時前の銀行がその日の仲値を決める公示タイムには動きます)、午後には全く動意のない相場となりました。欧州時間帯には流動性がなくなり、銀行が為替取引の処理が出来なくなるため企業や個人の為替レートの提示をやめることから相場が動かなくなります。今年は日本も23日から3連休となっていたため、クリスマス前から流動性は少なくなり、買いと売りの値幅(スプレッド)は広がり、為替取引をするにはよい環境とはいえません。この薄い為替市場で、もし、マーケットの急変をもたらす事件が発生した場合、流動性が少ないため、通常よりもプライスは飛んでしまい、スプレッドも広がり、保有しているポジションの反対取引も思うようにできない相場環境になってきます。このような環境に対応するためには保有するポジションを減らしたり、なくしたりすることが賢明かもしれません。今年は大統領選挙後、株も金利も為替も大相場になったため、クリスマスから年末年始、場合によってはトランプ大統領が就任する1月20日まで、相場の動きは大きくないかもしれません。
ハッピーホリデーズとメリークリスマス
クリスマスムードに浸っている米国で、トランプ大統領の最近の演説では「皆さん、メリークリスマス。これからは再び、そうやって言えるようになったんだ」と繰り返して発言し、喝采を浴びているようです。なぜ、喝采を浴びているのでしょうか。日本人にはピンとこないかもしれません。
米国では、近年、クリスマスはキリスト教の行事であり、他宗教の人々に対する挨拶としては「メリークリスマス」は適当でないとして、「メリークリスマス(Merry Christmas)」の代わりに「ハッピーホリデーズ(Happy Holidays)」と挨拶するのが定着しています。ハッサクがニューヨークに赴任していた1991年には既に使われていました。初めてのクリスマスカード兼年賀状を作ろうとした時に、支店の米国人に挨拶文として“Merry Christmas' & AHappyNewYear ”にするのかと聞いたところ、“Happy Holidays”を使えばいいとの返答でした。
「なるほど、便利な言葉だ」と思い、Happy Holidays'を使っていたことがあります。
その後、米国人は他宗教や民族に配慮した日常生活を送っているのだと実感させる出来事をいくつか経験しました。ひとつは子供の小学校での行事です。11月のサンクスギビング(感謝祭)では、アメリカに渡ってきたばかりの白人が厳しい冬を越すのが大変だったため、現地人であるインディアンに食糧面で助けられたという歴史的出来事を、劇を通して学ばしていました。教室で行う簡単な劇ですが、親も参観でき、感心した記憶があります。また、学校では12月にはクリスマス行事だけでなく、ユダヤ教のお祭りである「ハヌカ」も全生徒が参加します。「ハヌカ」というお祭りの存在を知ったのも子供を通してでした。住んでいた地区はウォール街に通勤するユダヤ人家族が多く住んでいたため、「クリスマス」を祝わず、「ハヌカ」を祝う家庭が多いことが背景のようです。ある時、近所のユダヤ人らしい人から、「お宅はキリスト教徒か」と尋ねられました。なぜ、聞いてくるのだろうと思いながら「そうではない」と返答すると、「なぜ、キリスト教徒でもないのにクリスマスツリーを飾るのですか」と聞いてきました。「キリスト教徒ではないが、クリスマスツリーのデコレーションがきれいなため飾っています。日本人はきれいなものはきれいと素直に感じるため、多くの日本人は宗教とは関係なく飾っています」と返すと、不満げにそのユダヤ人は帰っていきました。宗教や民族、文化などの多様性に寛容な米国でも、主義に立脚していない行動に対しては厳しい目を向けるのだなと実感しました。
さて、この「ハッピーホリデーズ」という挨拶は、キリスト教右派などが反発してきたという経緯がありますが、人種、宗教など多様性に配慮した挨拶であり、これまで米社会の対立を和らげる役割として定着してきたと思っていました。しかし、トランプ氏が繰り返し「(もううんざりだ)これからはメリークリスマスと言おう」と演説し、喝采を浴びたということは、多くのキリスト教白人がこれまで不満に思っていたということを物語っているのでしょうか。大統領選挙の直後、「米国を一つにする」と呼びかけたトランプ氏ですが、分断をあおる発言をいまだ続けていることには驚きです。「メリークリスマス」というたった一言ですが、米国社会の複雑さを語っている一言です。
新年スタートはダッシュか静観か?!
来年の1月1日は日曜日のため、欧米では1月2日月曜日が振替休日となります。従って、マーケットがオープンするのは1月3日の火曜日からとなります。相場は動いているのですが、日本では多くの企業は4日が仕事始めのため、アジア時間帯は閑散なマーケットが予想されます。流動性が低くなることも予想されるため注意する必要があります。注目されるのは、1月3日の欧米市場(日本時間の夕方から)で、新年スタートということで一斉に相場が動きだすのか、あるいは1月20日の大統領就任まで投資家は動きづらく、相場は利食いや調整の域を出ない動きになるのかどうかです。元日の1月1日には、中国が12月の製造業と非製造業のPMIを発表します。最近上向いてきたPMIに持続性があるのかどうかが注目です。3日の相場をみる時はこの1日の中国PMIの影響にも留意しておく必要があります。
もうひとつ新年の相場に影響するかもしれない要因として原油の動きに注目しています。トランプ氏は、新政権のエネルギー長官に温暖化対策に反対しているテキサス州知事のリック・ペリー氏を指名しました。エネルギー分野の規制緩和は原油や天然ガス、石炭の生産を増やし、その分野の雇用を増やすと同時に、生産増によってエネルギーコストが下がり、海外に流出した米企業の生産拠点を国内に取り戻し、雇用を増やすというトランプ新政権の公約に合致した政策です。政策の目玉として大統領令で就任直後に一気に進む可能性があります。もう既に、規制緩和の期待から米国内の石油掘削リグ稼働数は前週比13基増の523基となり、2015年12月以来の高水準となっているそうです(23日終了週、米石油サービス会社ベーカー・ヒューズ)。OPECの減産が遅々として進まず、米国の原油生産増への期待が高まれば、原油が下がる可能性があります。価格が高止まりしているだけに一気に崩れれば、為替に影響してくることが予想されるため、新年の原油、中東の動きには注目しておく必要があります。そう言えば、昨年も新年早々サウジアラビアがイスラム教シーア派の有力な宗教指導者を処刑し、イランが激しく反発したことから始まりました。
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