前回、11月8日の米大統領選挙でトランプ氏が勝利宣言をしたが法的にはまだ次期大統領に確定したわけではなく、次期大統領として正式に決定するのは12月19日の選挙人による投票によって決まるというお話をしました。なぜ12月19日が注目されだしたのかというと、選挙人の中に造反する選挙人が出て来るという噂が流れたからです。一般有権者の投票を裏切って造反者が出るのかというと、過去に9人の造反者が出たことがあるそうです。しかし、ヒラリー氏が逆転するためには一度に37人の選挙人が造反しないと無理であり、現実的には不可能な話ということになります。
トランプ氏の根強い不人気が背景にあるようですが、今度は、3州で選挙の再集計を求める動きが出てきました。これは噂ではなく、実際に起こっている動きです。米国大統領選挙は、いまだごたついている状況です。
ことの発端は、ミシガン大学のコンピューター科学者のグループが、ウィスコンシン、ミシガン、ペンシルべニアの3州で集計結果に不審な傾向があることを発見したことです。科学者グループは電子投票機がハッキングされたり、結果が不正に操作されたりした恐れがあるため、クリントン陣営に再集計を提案しました。
この提案に対して口火を切ったのは、小政党の「緑の党」の候補として米大統領選挙に出馬した女性ジル・スタイン氏。同氏はウィスコンシン州の大統領選の票再集計を求め、州の選管当局は再集計することを決めました。当初、沈黙していたクリントン陣営も開票結果の再集計を確認する作業に参加すると米メディアは報じています。スタイン氏はミシガン州とペンシルべニア州にも再集計を求めています。再集計が州選管当局に認められれば、クリントン陣営も同様の対応をとるようです。クリントン陣営の弁護士は、「ハッキングなどの証拠は見つからないが、手続きの公平性を確認したい」と参加の背景を説明しています。弁護士はハッキングなどの証拠は見つからないと説明していますが、電子投票へのサイバー攻撃は投票日の数日前から行われていたとの話もあり、ロシア政府が関与しているとの見方もあるようです。
これら3州の選挙人数は、ウィスコンシン州10人、ミシガン州16人、ペンシルべニア州20人の合計46人です。また、この3州は2012年の大統領選では民主党が勝利していました。もし、再集計の結果3州ですべてヒラリー勝利となれば、トランプ氏306人vsヒラリー氏232人が、トランプ氏260人vsヒラリー氏278人と逆転し、ヒラリー氏が過半数獲得することになります。
トランプ氏は「結果を尊重されるべきだ」と反発し、クリントン氏に関しても「敗北を認めたスピーチで『結果を受け入れ、未来に目を向けよう』と言った」と批判しています。
過去にもあった再集計闘争、2000年ブッシュvsゴア
この再集計の問題は日程的にいつまで引きずられるのでしょうか。参考になるのが2000年の米大統領選挙です。2000年の大統領選では、共和党のブッシュ氏と民主党のゴア氏が、選挙人25人の大票田のフロリダ州の勝敗にもつれ込むことになりました。その他の州では、ブッシュ氏が246人、ゴア氏が255人の選挙人を獲得していました。その結果、フロリダ州での勝者が過半数の270人以上を得て次期大統領となる形勢となっていました。結果は537票の僅差でブッシュ氏が勝利したため、ゴア氏は手作業の再集計を州選管に求める訴訟を起こしました。しかし、フロリダ州地裁は異議を棄却し、再集計は認められませんでした。これが12月4日のことです。ゴア氏は上訴することも考えましたが、手作業の再集計に1週間以上かかり、連邦法で定められている選挙人の確定期限である12月12日までに再集計をやり直すのは極めて困難との判断をしたため、法廷闘争は時間切れとなり、ブッシュ氏が大統領に就任しました。
当時のことはよく覚えています。米国の大統領選挙が12月に入っても決まらず、こんなにもめるとは思ってもいませんでした。当時のフロリダ州知事がブッシュ氏の弟だったためブッシュ氏に有利な裁判官が任命されたのではないかとの噂が流れたり、フロリダのある地域では黒人の無効票が突出して多く、黒人議員らが抗議デモを起こしたり、騒然とした動きが12月上旬まで続いていました。本当かどうかわかりませんが、後日、票の入った投票箱が体育館の屋根裏から発見されたという話も聞きました。いずれにしろ、今回もかなりもめたとしても12月12日までには決着がつくということになるようです。米メディアも覆される可能性は極めて低いとみているようですが、小さな問題のままか大きな問題に発展していくのか今後も注目していく必要があります。万が一、覆された場合、トランプ効果によって引き起こされた株高、ドル高、金利高は巻き戻されることが予想されるからです。
大統領令
選挙人の造反や選挙の再集計などの話が出ていますが、相場のまさかのリスクシナリオとして頭の片隅に入れておくことに損はないですが、やはりメインシナリオを考えるにあたっては、トランプ次期大統領の政策がどうなり、どの時間スピードで実行されるのかを抑えておくことが重要になります。トランプ次期大統領は、11月21日、政権移行に関する初のビデオ演説で「就任初日に出す大統領令のリスト作りを政権移行チームに指示した」と述べ、「TPPから離脱する意思の通知」は含まれると指示を出す6項目を表明しました。『大統領令』とは、「合衆国憲法で規定された大統領の執行権に基づき、大統領が連邦政府や軍に行う命令」のことです。議会を通さずに発令でき、法律と同等の力を持ち、緊急性の高い問題をはじめ、幅広く使われているようです。すごい権力です。1月20日の就任日にTPP離脱を命令するのは間違いないようです。世界に影響を与えるという観点からは、エネルギー生産規制の廃止命令も重要です。原油増産の話につながるため、いくらOPECが減産合意しても原油上昇の頭を抑える要因になりそうです。就任初日に指示を出す6項目は下表の通りです。今後、これ以外にも増えることも予想され、注目しておく必要があります。
トランプ次期大統領が就任初日に指示を出す6項目
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