9月20-21日のFOMCでFRBは利上げ見送りを決定しました。FOMC後の記者会見で、イエレン議長は大多数の参加者は年内利上げを支持していると述べました。また、その後の28日の米下院の議会証言では、改めて年内利上げを示唆しました。但し、先行きの利上げ判断は、失業率と物価の2つの指標が左右することも示唆しています。雇用情勢は改善途上にあるため「失業率が下がらず、物価上昇率も高まっていない」と指摘し、更なる進展の余地があると述べています。

年内のFOMCは11月1~2日、12月13~14日と後2回開催されます。それまでに雇用統計の発表は11月と12月の2回あります。また物価の発表も2回あります。7-9月期GDPの発表は10月の終わりに速報が流れ、11月の終わりには改定値が発表されます。これらをすべてクリアして、12月のFOMCを迎えるということになるのですが、果たして思惑通りに進むかどうかが注目ポイントとなります。

そして仮に、12月に利上げをしても、その後、つまり2017年にかけて継続的な利上げがなければ、ドル高を後押しする要因とはなり得ません。なぜなら年内の利上げは、要因としてはかなり織り込まれているからです。12月までに発表される指標が2017年も利上げが続くと想起させる内容でなければ、12月利上げに伴うドル高は単発に終わる可能性があります。

FF金利(政策金利)見通し

それでは2017年以降の利上げについてFRBはどのように見ているのでしょうか。参考になるのが、9月のFOMC開催時に発表されたFRBの金利・経済見通しです。この見通しによって、FRBは利上げペースをどのように予想しているのか、また経済成長率(GDP)や失業率、物価見通しをどのように見ているのかがわかります。また、四半期毎に発表されているため時系列に追っていけば、時が経つにつれて見通しが強気になっているのか、弱気になっているのかその方向性を探るヒントにもなります。下表は、「フェデラルファンド(FF)金利見通しの中央値」の見通しです。FOMCの参加者(FRBメンバーと地区連銀総裁の17名 )が各年の年末時点のFF金利、つまり政策金利の見通しを予想し、その中央値を表しています。2015年12月の見通しから直近の2016年9月の見通しを一覧表にしました。

フェデラルファンド(FF)金利見通し(政策金利)の予想中央値

見通し時点 2016年末 2017年末 2018年末 2019年末 長期予想
2015/12 1.375% 2.375% 3.250% n.a. 3.50%
2016/3 0.875% 1.875% 3.000% n.a. 3.25%
2016/6 0.875% 1.625% 2.375% n.a. 3.00%
2016/9 0.625% 1.125% 1.875% 2.625% 2.90%
利上げのペース 年1回
(前回年2回)
年2回
(前回年3回)
年3回 年3回  

この表でみると、毎回予想値が下がっていることがわかります。昨年12月に利上げした時の2016年末のFF金利予想中央値は1.375%です。これは2016年の利上げペースが0.25%刻みで年4回になるということを意味しています。そして今回の2016年9月時点の2016年末FF金利予想中央値は0.625%であるため、年内に利上げ1回の予想ということになります。また前回6月時点での利上げペース2回の予想から低下していることがわかります。同じように2017年をみてみますと、2015年12月時点では年4回の利上げペースという予想になっています。つまり、2015年12月時点では、2016年に4回、2017年にも4回、合わせて8回の利上げ予想となります。それが今年9月時点では、年内1回、来年2回の計3回とかなり利上げペースが落ちたということがわかります。更に注目すべきポイントは、金利の長期予想です。この長期予想も毎回低下予想となっていることがわかります。短期的には利上げを予想していても、長期的には低下方向を示唆しているようです。

ハト派のブレイナードFRB 理事は、この2年のドル高がFF金利にして2%の利上げに相当したと述べています。つまり、0.25%刻みで利上げ8回分となります。つまり、ドル高によって利上げ8回分が既に織り込まれたということになり、現在のFF金利0.25%-0.50%は2.25%~2.50%相当という話になります。従って、現在の2%未満のGDPや物価の状況では、これ以上利上げできないということを物語っているのかもしれません。

FRBのGDP・失業率・物価見通し

それでは、FOMC参加者は経済の先行きをどのように見ているのでしょうか。FF金利見通しと同じように、GDPと失業率、物価見通しも四半期毎に公表されています。物価はFRBが最も重要視するPCE(個人消費支出)価格指数です。これはGDPの構成項目である個人消費支出の物価動向を示す指標です。これらも時系列でみてみると、見通しの強弱の方向性が見えてきます。

FOMC参加者によるGDP見通し(10‐12月期の前年同期比伸び率)

見通し時点 2016年 2017年 2018年 2019年 長期予想
2015/12 2.4% 2.2% 2.0% n.a. 2.0%
2016/3 2.2% 2.1% 2.0% n.a. 2.0%
2016/6 2.0% 2.0% 2.0% n.a. 2.0%
2016/9 1.8% 2.0% 2.0% 1.8% 1.8%

※10‐12月期の前年同期比伸び率

FOMC参加者による失業率見通し

見通し時点 2016年 2017年 2018年 2019年 長期予想
2015/12 4.7% 4.7% 4.7% n.a. 4.9%
2016/3 4.7% 4.6% 4.5% n.a. 4.8%
2016/6 4.7% 4.6% 4.6% n.a. 4.8%
2016/9 4.8% 4.6% 4.5% 4.6% 4.8%

FOMC参加者によるPCE(個人消費支出)価格指数見通し(10‐12月期の前年同期比伸び率)

見通し時点 2016年末 2017年末 2018年末 2019年末 長期予想
2015/12 1.6% 1.9% 2.0% n.a. 2.0%
2016/3 1.2% 1.9% 2.0% n.a. 2.0%
2016/6 1.4% 1.9% 2.0% n.a. 2.0%
2016/9 1.3% 1.9% 2.0% 2.0% 2.0%

この表によると、2016年のGDP見通しは1.8%と前回よりも0.2%下方修正されています。また、長期予想も下方修正されています。2015年10‐12月期以降の直近3四半期の実質GDPは、0.9→0.8→1.4%と見通しよりも低い成長となっています。2015年のGDPは2.6%でしたが、2016年に入ってから成長は鈍化しているようです。10‐12月期のGDPは2%超の予想が出ていますが、通年では見通しの1.8%を超えるのは難しいかもしれません

失業率はどうでしょうか。2016年は、今回4.8%に上方修正されていますが、おそらくこれまでが4.7%と強気だった見通しを方向修正したことによるものと思われます。今年5月の失業率は4.7%でしたが、その後の3カ月は4.9%となっています。イエレン議長が雇用情勢はまだ改善の余地があると述べていることは、見通しと実体の数字とのギャップを指摘しているのかもしれません。

物価はどうでしょうか。2015年12月時点と比べると見通しは低下しています。今回も2017年以降は長期予想も含めて前回と同じ見通しとなっていますが、2016年の予想は下方修正されており、FRBの目標とする2%には程遠い1.3%の見通しとなっています。直近9月30日に発表された8月のPCE物価指数(食品とエネルギーを除くコア指数)は前年比+1.7%と前月から0.1%上昇しました。見通しよりも高く利上げを後押しする数字ですが、目標の2%にはまだ届かない数字であり、年内後2回の発表で2%に近づいていくかどうかが注目です。

伸びが鈍くなってきたGDP、横ばいの失業率、もうひと伸びしない物価、これらの経済実体をみると、3カ月後のFOMCの見通しも下方修正の可能性があります。そうなると、2017年の利上げペースも2回から1回になるかもしれません。

今後の為替動向は、いまだ米国の金融政策に左右されるところが大きいため、その利上げペースを予想することが肝要となります。FRBの金利・経済見通しを参考にしながら、毎月発表される経済指標と、その見通しとの差異を確認して予想してみて下さい。利上げペースの回数が減ってきているため、ゼロということも選択肢のひとつになるかもしれません。