9月2日、米国の雇用統計が発表されました。米国雇用統計の重要性はこのコラムでも何回と触れてきましたが、為替の変動要因として最重要経済指標です。発表直後に大きく市場を揺さぶるだけでなく、その後のトレンドを決定づける可能性があるからです。雇用が増え続けているかどうか、失業率が低下しているかどうか、あるいは低水準の状態を継続しているかどうかは景気の勢いを見る上だけではなく、米国の金融政策の方向を探る上で重要な経済指標となるからです。

米国FRB(連邦制度準備理事会)には政策目標として“ Dual Mandate ”と呼ばれる「物価の安定」と「完全雇用(雇用の最大化)」の2大命題が課されています。この二つの政策目標を達成するために金融を引き締めるのかあるいは緩和するのか、あるいは現状維持なのかを、毎回のFOMC(連邦公開市場委員会)で議論して政策が決定されています。毎月第一金曜日に発表される米雇用統計は、「雇用の最大化」を目指すFRBにとって政策判断のための重要データとなります。また、物価の面では雇用者の賃金の増減のデータも発表されますので、「物価の安定」を目指すFRBにとって重要データとなります。FRBが注目する物価指標は「コアPCEデフレーター」と言われていますが、物価が上がる要因として賃金の上昇が大きく影響を与えるため、時間当たりの賃金が上昇しているかどうかが注目されています。

9月2日に発表された米雇用統計では、目安とされる20万人を下回る15.1万人でした。しかし、3カ月平均では23.2万となり、基調は強いため年内利上げシナリオに変更はないとの見方からドルは上昇しました。雇用統計発表前のイエレン議長の講演やフィッシャー副議長や高官のタカ派発言も援護射撃になっているようです。しかし、時間当たり賃金は前月比+0.1%と予想を下回り、前月よりも伸びは鈍化しています。FRBが注目するコアPCEデフレーターは1.6%と目標の2%に届かない中では、この賃金上昇率は利上げの材料としてはいまだ力不足です。FF金利先物でみる9月利上げの確率は、米雇用統計発表後は低下しているのが金利市場の反応のようです。

非農業部門雇用者数の見方

米国雇用統計でマーケットに最も注目されるのが、非農業部門雇用者数(Non-Farm Payrolls )です。略称でNFP(エヌ・エフ・ピー)と呼ばれています。各種発表される経済指標の中でもマーケット参加者が最も注目する指標です。変動の大きい農業部門を除いた雇用者数がどの程度のペースで増えているのかどうかを確認します。米国は人口が増えている国であり、経済が順調に成長しているのであれば、雇用は基本的には増える方向にあります。

マーケットが注目するこの数字について、マーケットではどのような見方をされているのでしょうか。注目点は3点です。

予想数字に対して多いか少ないかを見る

9月2日に発表された8月分の非農業部門雇用者数は、予想18万人に対して15.1万人の増加でした。予想より低い数字だったためドル円は103.50円近辺から102.80円まで急落しました。予想より大きく上回ることをポズティブサプライズ、予想より大きく下回ることをネガティブサプライズといいます。マーケットは大きく反応します。予想の数字については、FX証券会社のコメントやネットで確認できます。

前月、前々月の修正数字を見る

非農業部門雇用者数は前月と前々月の雇用者数の修正も同時に発表されています。見落としがちですが非常に重要です。雇用者数の基調(トレンド)を見る時に、これら2カ月分の修正数も加えて増勢にあるのかどうかを判断します。例えば、9月2日に発表された8月分の数字は+15.1万人、7月分は+25.5→+27.5万人に上方修正されました。修正の増加人数は2万人です。6月分は+29.2→+27.1万人に下方修正されました。修正人数は▲2.1万人です。差し引き2カ月分の修正人数は▲0.1万人となります。この程度の修正人数だと当月の数字には影響はない、あるいは景気の悪材料ではないと判断します。修正人数が大きく増加している場合は、基調は強いとか当月の数字も来月には大きく上方修正されるのではないかとの期待が膨らみ、当月の数字に対してプラス材料として働きます。もちろん、逆の場合も同じです。過去2カ月分が大きく下方修正されていると、基調は弱いのではないか、当月も下方修正されるのではないかとの思惑からマイナス材料となります。

この修正は過去2カ月分修正されます。例えば今月修正された7月分は来月発表時にも前々月分として修正発表されるので注意が必要です。また、後述する3カ月平均の数字を見る場合も修正分によって平均が変わるので注意が必要です。少しややこしいですが、最近の数字を修正分の推移も加えて下表にまとめてみましたので参考にして下さい。速報時点の予想数も記載していますので参考にして下さい。

非農業部門雇用者数の速報値と予想、修正値の推移(万人)

3カ月平均で20万人を超えているかどうかを見る。

NFP(非農業部門雇用者数)の20万人の増加が3カ月続くと、FRBは緩和縮小や引き締めの政策変更の目安にすると言われています。従って、3カ月の平均で雇用者数の増勢をみる見方があります。今年は、3月、4月と低下し、5月に大きく落ち込みましたが(+2.4万人)、3カ月平均でみると回復してきていることがわかります。この回復度合いがこのまま続けば、FRBの政策変更の支援材料のひとつになる可能性があるため、単月の雇用者数の増減だけでなく、3カ月平均の動向もマーケットでは注目されています。ちなみに、昨年12月に利上げした直前のNFP11月分は28.0万人、3カ月平均では24.1万でした。