前回、EU加盟国の中でユーロ導入国やシェンゲン協定に加盟している国々の一覧表を掲載しました。その表の中でNATO(北大西洋条約機構)加盟国も掲載していますが、今回はこの軍事同盟であるNATOについて触れてみます。
NATOは「ナトー」と読み、“North Atlantic Treaty Organization(北大西洋条約機構)〝の略です。
NATOの現在の加盟国数は28か国(EU加盟国22か国+6か国)です。NATOは北大西洋条約(1949年4月4日締結)に基づき設立されました。設立経緯は、第二次大戦終了後、東欧を影響圏に置いた共産主義のソビエト連邦との冷戦が激しさを増し、このソ連を中心とする共産圏(東側諸国)に対抗するため、米国を中心とした北アメリカ(=米国とカナダ)およびヨーロッパ諸国によって西側陣営の軍事同盟が結成されました。
「冷戦」とは戦火を交えない戦争のことです。情報戦争とも呼ばれ、銃器をもった兵士ではなく諜報部員(スパイ)が活躍しました。軍備などの機密情報を結んだり、内政を混乱に陥れたりしたそうです。007シリーズの映画はこの東西冷戦を題材にした映画で、「ミッション・インポッシブル」などのスパイ映画やTV番組が日本を含めた欧米西側諸国で流行りました。この諜報合戦は、映画やTVドラマの中だけではなく、時々、新聞などにも出てきますので、注意して見ておくとそういった記事に出くわすことがあります。NY駐在の頃、NYTimes新聞にイギリスMI6の求人広告が出ていたのには驚きました。MI6はイギリスの情報機関であり、ジェームズ・ボンドもこのMI6に所属しているとの設定になっています。その新聞広告の求人条件が興味深く、性別年齢、宗教、国籍を問わず、条件の中に「InformationをIntelligenceとして活用できる人材」とあったのが印象深く記憶に残っています。
この東西冷戦は西ドイツのNATO加盟によって更に激しさが増すこととなりました。ドイツは第二次大戦後、ベルリンの壁によって東西に分断されました。東ドイツは共産圏の東側陣営に取り込まれていました(現在のドイツのメルケル首相は東ドイツ出身です)。西側陣営は共産圏に対抗するため西ドイツの再軍備を進めていましたが、フランスの猛反対によってなかなか再軍備が実現しませんでした。しかし、遂にフランスも折れ、西ドイツは1955年にNATOに加盟することになりました。この動きを受けて、ソ連を中心とする東側8か国は同年ワルシャワ条約機構を発足させ、ヨーロッパはNATOとワルシャワ条約機構2つの軍事同盟によって完全に分割されることとなりました。
NATOは、このように共産圏に対抗するための西側陣営の多国間軍事同盟であると同時にもう一つの側面があります。長年、欧州を戦火で悩まし続けてきたドイツに対する解決策のひとつとして、ドイツを封じ込めるために欧州内の一部として取り込んだといわれています。「アメリカを引き込み、ロシアを締め出し、ドイツを抑え込む」との言葉が象徴するように「反共主義とドイツ封じ込め」の意義があるといわれています。ドイツ封じ込めはドイツ以外の欧州諸国にとっては長年の頭の痛い難題だったようです。東西ドイツを統一させることによって、ドイツの負担を増やし、ドイツの力を削いだり、またユーロを導入して欧州最強の通貨であるドイツマルクを封じ込めようとしたのですが、結局、ドイツ一強の時代に再び入りつつあるようです。
東西冷戦は、1989年のベルリンの壁崩壊が象徴されるように、東欧で次々と共産主義国家が崩壊し(東欧革命と呼ばれています)、1990年の東西ドイツ統一、1991年のソビエト連邦崩壊によって終結しました、その後は、共産圏ではロシアが主体となり、ロシア対欧州、ロシア対NATOという関係になっています。しかし、東西冷戦が終了したとはいえ、2014年のウクライナ危機(ロシアの強制的なクリミア半島併合によってロシアとウクライナの関係が悪化)によってロシアと欧米との関係は急速に悪化しています。
このような状況の中で6月23日、英国の国民投票によって英国のEU離脱が決定しました。欧州での英国の軍事的な存在感は大きいです。欧州のNATO加盟国の中で英国の国防費は最も多く、欧州のNATO加盟国の国防費全体の約4分の1を英国が占めています。英独仏では約6割となります。また英国は核保有国であり、米国との「特別な関係」を背景に欧州と米国とのつなぎ役としてNATOを支えてきました。このように欧州での英国の軍事的な存在感は大きいため、EUからの離脱は欧州との距離を置くことになり、NATOの根幹である集団的自衛権が揺らぐ可能性があるのではないかと懸念されています。
欧州のNATO加盟国の国防費シェア
国名 | シェア(%) |
---|---|
英国 | 25.3 |
フランス | 18.4 |
ドイツ | 16.9 |
イタリア | 8.3 |
トルコ | 5.1 |
スペイン | 4.7 |
ポーランド | 4.5 |
その他 | 16.8 |
イギリスのEU離脱によってNATOの影響力は低下し、ロシアにとっては好都合な状況になるのか、あるいはイギリスは、EUは離脱するがNATOではその存在感を強めることによって、NATOも強固になるのか、今後の動向に注目です。
イギリスの国民投票後である7月8日にNATOの首脳会談が開催されました。この会談では、ロシアに対する抑止力を強めるため、バルト3国(ラトビア、リトアニア、エストニア)やポーランドに4000人規模の部隊を新たに配置することが決定されました。この首脳会談には、最後の参加となるキャメロン首相も出席し、EU離脱後も英国のNATOへの貢献は変わらないとアピールしました。その方針は後任のメイ首相にも引き継がれることは間違いなさそうです。
長々とNATOの役割、東西冷戦、英国の欧州での軍事的位置づけについてお話しましたが、短期的な相場シナリオに影響を与える話ではないです。しかし、中長期的な相場シナリオを考える時に役に立ちます。中長期的な相場シナリオを考える際には、その前提となる基本的な枠組みを理解しておくことは重要です。基本的な枠組みとは、安全に経済活動を行うことが出来る枠組みであり、政治体制や軍備体制のことです。下記にこれまでの話を年表風にまとめました。これらの基本的な欧州の政治・軍事の動きを理解し、今後の相場予想の参考にして下さい。
- 1945年第二次大戦終了、東西冷戦開始
- 1949年NATO設立
- 1955年西ドイツ再軍備、NATOに加盟、東側側陣ワルシャワ条約機構設立
- →欧州が東西2大軍事同盟で分断
- 1967年欧州共同体(EC)、6か国で発足
- 1973年イギリス、ECに加盟
- 1989年ベルリンの壁崩壊、東欧革命によって東欧共産主義国家が次々と崩壊
- 1990年東西ドイツ統一
- 1991年ソビエト連邦崩壊、東西冷戦終結、ロシア誕生
- 1993年欧州連合(EU)、12か国で発足
- 1999年欧州統一通貨ユーロ誕生
- 2010年ギリシャ財政赤字発覚によって欧州債務問題が勃発
- 2015年シリア難民の動きから、欧州各国で難民、移民の問題が急浮上
- 2016年イギリス、国民投票でEU離脱を決定
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