前回までに為替介入について連続してお話してきましたが(第98回から第101回)、改めてその中の協調介入について今回はお話します。(第99回「為替介入の種類」5月25日付参照)

「協調介入」とは、一国で為替介入を行う「単独介入」に対して、複数の通貨当局が協議のうえで、各通貨当局の資金を用いて同時ないし連続的に為替介入を実施する介入のことをいいます。例えば日米の二国間で実施した日米協調介入やG5、G7各国が協調して同時に介入した場合などがあります。単独介入よりはるかに影響が大きく、時には中期的にトレンドを転換さすこともあります。

下表のように、これまでにG7各国による協調介入は6回ありました。

G7による協調介入

時期 背 景
1985年9月 プラザ合意によるドル高是正。当時はG5(日米英ドイツ、フランス)ドル売り協調介入によって、1ドル=240円台から1年後には150円台に
1987年2月 ルーブル合意⇒プラザ合意によるドル高是正が行き過ぎ、過度のドル安を是正するために協調介入を実施したが、長続きせず失敗。
1995年7月 4月に79.75円の最安値を付けたことから円高を阻止するために、いわゆる「七夕介入」と呼ばれている日米協調介入を実施。ドル円は年末までに103円台に上昇。
1998年6月 アジア危機を受け、円買いドル売りの日米協調介入
2000年9月 1999年1月に誕生したユーロは、その後一本調子で下落。このユーロ安を阻止するためにG7はユーロ買いの協調介入を実施。そのごユーロは反転
2011年9月 東日本大震災や原子力発電所事故の影響で急速に進む円高が日本経済に深刻な打撃を与えかねないとG7は判断し、協調介入を実施。日銀やFRBは円売りドル買い介入、ECBは円売りユーロ買い介入、BOE(英中銀)は円売り英ポンド買い介入を実施。介入前に79円台前半のドル円は、その後85円を超えたが、10月には75.31円の戦後の円最高値を付けた。

改めて協調介入についてお話したのは、この6月半ばから7月初めにかけて夏場の最重要イベントが控えており、いや、ひょっとしたら今年最大の最重要イベント期間になるかもしれないからです。

  • 6月14-15日  FOMC(米連邦公開市場委員会)開催
  • 6月15-16日  日銀政策委員会
    発表は日本時間の6月16日に集中
    午前3時 FOMC声明文発表
    午前3時半 イエレン議長記者会見、
    正午~1時過ぎ日銀政策委員会終了(終了時刻は定まらず、長引く場合もある)
  • 6月21日  イエレン議長の上院議会証言
  • 6月23日  イギリスのEU離脱の是非を問う国民投票
  • 7月8日   米国雇用統計

6月15日のFOMCでは利上げなしとの見方が大勢ですが、もし、利上げをすれば株は急落し、ドルは急騰し、相場の大変動が予想されます。日銀の追加緩和の期待は低いですが、もし、緩和し、内容によっては円売り、株上昇が予想されます。6月21日のイエレン議長の議会証言では、米国経済の現状とそれに伴う今後の利上げ見通しが証言されると思われますが、決め手は7月8日金曜日(日本時間午後9時半発表)の米雇用統計。前回の非農業部門雇用者数が予想を大幅に下回る3.8万人の増加でしたが、この数字が一時的なのかどうか判断されることになります。もし、前回に続いて弱い数字が発表されれば、7月の利上げも遠のき、場合によっては、FRBは政策転換(利上げ→再緩和)を強いられる可能性が出てきます。もし、そうなった場合、株は一時的に上昇しますが、景気が良くないことから再下落する可能性もあり、また、ドルは急速に売られることが予想されます。また、政策変更を迫られるのはFRBだけでなく、世界各国の政策立案者や企業、そして世界中の投資家やファンドもシナリオ修正を迫られる可能性があります。そして、その2週間前の6月23日にはイギリスの国民投票があります。結果次第では、金融・株式市場は大変動する可能性があり、この1カ月弱は本当に予断を許さない状況が続きます。

そしてこれら一連のイベントの結果に備えて、既にG7では協調介入の準備を始めているかもしれません。5月に開催された伊勢志摩サミット(G7先進国首脳会議)の首脳宣言では、EU(欧州連合)からの離脱の是非を問う英国の国民投票(6月23日)について「離脱は成長に向けた深刻なリスク」と明記し、強い懸念を示しています。サミットの首脳宣言は各国の内政問題に踏み込まないのが通例ですが、フランスのオランド大統領が「離脱は欧州だけでなく世界にとって悪いニュースになる」と警告したように、世界経済に悪影響を与えるかもしれないと懸念されたため首脳宣言で言及されました。首脳宣言で言及されたということは、事態を共有したということを意味し、協調行動を取る準備が出来ているのではないかと推測されます。

直近の協調介入である、2011年3月の協調介入ではG7で電話協議した後、以下のような緊急声明を発表しています。その声明には「為替レートの過度の変動や無秩序な動きは、経済および金融の安定に悪影響を与える」と現状の警戒感を共有し、「為替市場をよく注視し、適切に協力する」ことが明記されていました。この「適切に協力する」ということが協調介入で合意したという意味になり、マーケットは直ぐに反応しました。このG7で重要なことは、緊急の場合には電話会議で決定することがあるということです。この場合、事前のG7の動きや兆候はわかりません。しかし、緊急の事態や大変動が起きた場合は、G7は迅速に行動するということを肝に銘じておく必要があります。

このように、一国の出来事がその国に大きな影響を与えるだけでなく、世界経済に悪影響を与えるとG7が判断した場合、そして為替市場が急変動した場合には、G7が団結してこの事態を回避するために協調行動を取るかもしれないということをシナリオとして考えておく必要があります。

現在、ドル円の円高進行に対して、為替介入について日米が火花を散らしていますが、このような状況の中でも事態が急変すると、G7は一致団結する可能性があるということです。そしてそのように行動してきた歴史と経験があります。

まとめますと、以下のようになります。今後の重要イベントが続く中で非常に重要な心構えです。

  • 一国の経済に深刻な影響が出る場合、また世界経済にもその影響が及ぶ場合、G7は一致団結して協力してきた歴史と経験がある
  • 緊急の場合は、電話会議などで電撃的に決定する場合があるため、事態急変の場合の相場予測シナリオにはG7の協調行動の可能性を常に留意しておく必要がある