3月30日、日本政府は日本を訪れる外国人旅行者を増やすための新たな行動計画を発表しました。それによると東京オリンピック・パラリンピックが開かれる2020年までに海外からの旅行者を昨年の2倍となる年間4,000万人に引き上げ、消費額を2倍超の8兆円に増やす目標となっています。更に2030年には3倍の6,000万人、消費額は4倍超の15兆円という目標を立てています。

この行動計画は、為替相場を予想する上で無視できない内容です。なぜなら、訪日外国人観光客の日本での消費行動は日本経済にとっては同じ金額を輸出した効果となるからです。つまり、外国人旅行者がモノを買ったり、宿泊などのサービスを受けたりした場合は、円を買って円で支払うため円高要因となります。また、日本で消費をすることによって日本のGDPを押し上げる効果があります。このように訪日外国人旅行者が、日本で消費をすればするほど円高となり、日本のGDPを押し上げる効果があるということは覚えておく必要があります。

下表は2011年以降の訪日外国人旅行者数と消費額の推移です。また、後で触れますが、その年のドル円の平均レートと中国のGDPを付記しました。

訪日外国人旅行者数と消費額の推移

訪日外国人 消費額 ドル円平均 中国GDP
2010 861万人 1.1兆円 87.81 10.6
2011 622万人 0.8兆円 79.84 9.5
2012 836万人 1.1兆円 79.83 7.7
2013 1,036万人 1.4兆円 97.65 7.7
2014 1,341万人 2兆円 105.86 7.3
2015 1,973万人 3.5兆円 121.05 6.8
2020(目標) 4,000万人 8兆円 6.3
2030(目標) 6,000万人 15兆円

2011年の東日本大震災で訪日外国人は急減しましたが、その後回復し、安倍政権スタート時は1,000万人前後でした。そのため安倍政権は2020年までに訪日外国人2,000万人という目標を立てました。ところがその目標が予定よりもかなり速いスピードで達成しつつあるために目標を引き上げたようです。消費額も2014年から2015年にかけて急増しています。2015年の消費額3.5兆円は、自動車部品の輸出額に匹敵する金額です。また2020年の目標消費額8兆円は化学製品の輸出額を上回り、12兆円の自動車の輸出額に次ぐ規模となります。かなり大きな存在となります。

目標の4,000万人や6,000万人は国際比較でみるとどのような位置付けでしょうか。下表は2014年の他国の外国人観光客数です。トップはフランスです。さすがに食と芸術の大国です。昨年11月の同時テロ事件の影響が今年は出て来ることが予想されますが、2位の米国とは1,000万人近く開きがあるため、トップの座は変わらないと思われます。日本は2014年の実績では韓国より低い22位でしたが、2015年ではタイやギリシアに続く16位近くに来ています。日本の2020年の目標4,000万人は、イタリアの次ぐらいの位置づけとなります。2030年の目標6,000万人はスペインと中国の間の位置となります。いずれも世界遺産も多く、日本人にとっても人気の観光大国です。

外国人旅行者数の国際比較(2014年)

順位 国名 外国人旅行者数(万人)
1 フランス 8,370
2 米 国 7,475
3 スペイン 6,499
4 中 国 5,562
5 イタリア 4,857
14 タイ 2,477
15 ギリシア 2,203
  日本(2015年) 1,973
20 韓国 1,420
22 日本(2014年) 1,341

円安と中国の爆買い

果たして実現可能性はあるのでしょうか。目標6,000万人はかなり遠いですが、2年で倍になったスピード(2013→2015年)は無理でも、5年で倍の達成は可能なのでしょうか。訪日旅行者が増えない限り、消費額も増えません。

2015年の訪日外国人旅行者数は前年比47%増となりました。この急増の背景はアジア各国の所得水準が背景にあるようです。日本に来る外国人旅行者の8割近くがアジアからの旅行者です。中国、韓国、台湾、香港の東アジアだけで7割を占めています。下表の通り、この4ヶ国・地域は2014年から2015年にかけて急増しています。

2015年訪日外国人観光客ランキング(総数1,973万人)

順位(前年) 国・地域 観光客数(万人) 伸び率(%) シェア(%)
1 (3) 中国 499 107.3 25.3 71.9
2 (2) 韓国 400 45.3 20.3
3 (1) 台湾 367 29.9 18.6
4 (4) 香港 152 64.6 7.7
5 (5) 米国 103 15.9 5.2
6 (6) タイ 79 21.2 4.0
7 (7) オーストラリア 37 24.3 1.9
8 (9) シンガポール 30 35.5 1.5
9 (8) マレーシア 30 22.4 1.5
10 (11) フィリピン 26 45.7 1.3

このまま東アジアからの訪日観光客が増え続ければいいのですが、気になるのは中国の景気減速です。中国の景気減速は他の東アジアの景気にも大きな影響を与えます。景気が悪くなれば旅行者数も減り、来日しても消費額は抑制気味になるかもしれません。2015年のようなペースの伸びは必要ありませんが、5年で4,000万人と倍増するためには年15%のペースで伸びていく必要があります。2016年に入ってからのペースは鈍くはなっていますが急減している様子はありません。しかし、その動向は注意深く見ていく必要があります。銀座や渋谷へ外出の際には、中国語が聞こえてくる頻度が少なくなってきたのではないかと感じるためにアンテナを立てておく必要があります。

もうひとつ気になる点は、為替レートが円安から円高に転じていることです。最初に示した「訪日外国人旅行者数と消費額の推移」の表には、中国GDPの推移と合わせてドル円の平均レートを表に載せています。これを見ると2014年から2015年にかけて一段と円安が進んでいることがわかります。円安は、外国人観光客にとっては、少ない外貨で多くの円貨に変えることが出来、日本の価格が割安に感じられ消費が増える効果になります。しかし、2016年からの円高の動きで2016年1-3月の平均レートは115.45円となっています。このまま円高地合いが続けば、昨年と比べてお得感が少しなくなるため消費に影響してくるかもしれません。

訪日外国人旅行者数と消費額は毎月発表されていますので、その数字をチェックし、為替レートを睨みながらペースが鈍っていないかどうか注目しておく必要があります。訪日外国人の消費額はGDP比で0.4%と、フランス(2.0%)の5分の1にすぎません。まだまだのびしろはあるようです。