先日、驚くべき記事が出ていました。石油関連事業で巨富を成し遂げた米国ロックフェラー家が化石燃料関連事業への投資を中止するという内容です。2004年にロスチャイルド家が金の値決めから撤退という話に匹敵する驚きのニュースです。

3月23日、米国を代表する資産家、ロックフェラー家が関連する基金ロックフェラー・ファミリー・ファンドが米石油メジャーのエクソンモービルの株式を売却すると発表しました。ロックフェラー家はかつて、石油関連事業で財を成しましたが、同ファンドによると、気候変動が人類や生態系を脅かす現状を踏まえると、「各国政府が二酸化炭素(CO2)排出削減を目指す中で、炭化水素の新たな供給源を企業が探査し続ける行動に健全な論理的根拠はない」と結論付けたようです。この方針に基づき、エクソンモービルの株式売却のみならず、石炭やカナダのオイルサンドの保有資産も同時に処分し、他の全ての化石燃料関連業界への投資を中止することを決定したようです。

売却するエクソンについては厳しい評価をしています。記事によると「(エクソンは)北極海の氷が後退しているにもかかわらず資源の探索を追求するなど、1980年代から気候変動に警鐘を鳴らす人々を当惑させてきた」と批判しています。突然批判をしたわけではなく、ロックフェラー家関係者は2008年にエクソンに対して、企業統治のあり方を変えて代替燃料への転換などを求めてきたという背景があるようです。また、2014年には、ロックフェラー家関連の別ファンド、ロックフェラー兄弟財団など複数の慈善団体、非政府組織が、化石燃料関連の投資をやめる方針を示していました。

今回のロックフェラー・ファミリー・ファンドの決定について、エクソンは同日、「彼らの化石燃料関連への投資姿勢を踏まえれば、何ら驚くものではない。我々は気候変動のリスクを認識しており、行動も取っている」との声明を出しました。しかし、同社に対しては米ニューヨーク州司法長官が2015年11月に、地球温暖化リスクなどに関する情報開示が不適切だった疑いがあるとして調査を開始しています。

昨年12月にはCOP21がパリで開催され、2020年以降の新たな温暖化対策の枠組みがどうなるか世界中で注目されました。メジャー最大手としてのエクソンに対しても気候変動に対する姿勢が注目されやすい環境でしたが、ロックフェラー一族は、地球温暖化に対するエクソンの消極的な取り組みに業を煮やしたようです。

【ロックフェラー家】

モルガンやメロンと並ぶ米三大財閥の一角。19世紀末から20世紀初頭にジョン・ロックフェラー氏が創設したスタンダードオイルを基盤に米石油業界を支配し巨万の富を築いた。石油のみならず、金融や軍需産業など様々な企業も一族の傘下に収めていった。スタンダードオイルはその後、強大な独占力(石油精製の90%)ゆえに反発を買い、ついに反トラスト法によって30以上の会社に解体された。しかし、その後再編を繰り返し集約が進み、スタンダードオイルを源流に持つ企業の中でも本流格のエクソンとモービルが1999年に合併。この合併によって誕生したエクソンモービルは、ロックフェラー家にとって最も由緒のある企業だった。創立者ジョン・ロックフェラー氏の一人息子、ジョン・D・ロックフェラー氏は石油財閥から不動産、金融へ事業範囲を広げ、とくにチェース・マンハッタン銀行の発展に尽力する一方、ニューヨークの国連本部の建設敷地を寄贈するなど、慈善事業家として知られる。

ロックフェラー家の石油関連事業への投資を中止するという方針は、環境問題が地球全体にとって今後の最重要課題であるという姿勢を世の中に示しました。石油で巨富を築きあげた一族が、その石油に対して三行半を突きつけたという出来事はかなりの驚くべきニュースです。この方針決定は様々な分野に影響を与えることが予想されます。化石燃料によって成り立っていた産業は大転換を強いられるかもしれません。例えば、自動車。自動運転が注目されていますが、それ以上に電気自動車や水素燃料自動車が一気に浸透していくことが予想されます。そして原油や化石燃料の需要が減少していくことが予想され、これらの価格に対して今後下方バイアスが長く続くことが予想されます。かなりの大きな流れの変化になる可能性があります。為替相場を読む上では無視できない出来事です。

商社5社減損1兆円

このロックフェラー家の決断ニュースを聞いて、日本の5大商社が2016年3月期の決算で5社合計の減損損失1兆円(前期は7,000億円の減損)を計上との記事が目に留まります。これによって三菱商事は1,500億円の連結最終赤字、三井物産も700億円の最終赤字の見通しとなりました。三菱商事は連結で赤字になるのは初めてであり、三井物産は1959年以降で初の赤字となるようです。これまで商社の収益を支えていた資源ビジネスが大きな曲がり角に来たことは間違いありません。世界的な景気低迷による資源価格の下落によって収益を生みにくくなっただけでなく、ロックフェラー家が決断したように環境問題への影響も考慮した資源ビジネスへの転換となると、かなり収益機会が制限されてくるかもしれません。このことは、日本の商社だけでなく、世界の資源開発会社や資源商社も同じような経営環境となるはずであり、そのことが資源価格全般にデフレ圧力を与えていくことになるかもしれません。

3月29日、FRBイエレン議長は講演会で「物価見通しは経済成長のリスクによって今年に入り不透明感が増した。物価は今年中に目標の2%は届かない。先行きのリスクを考えると金融政策の変更は慎重に進めるべきだ。」との見方を示しました。この講演会の前まではFRBの理事達によって4月利上げを示唆する発言が相次いでいただけにマーケットは驚いたようです(ドル安・円高)。

しかし、イエレン議長自身は直近の発言と何ら変わっていません。ハト派色の強いスタンスのままでした。イエレン議長は、ドル高、原油下落、世界経済の低迷による短期的な下方リスクを懸念していますが、ひょっとしたらロックフェラー家の決断、日本の商社の減損といった大きな流れの中で現在の状況を感じ取っているのかもしれません。

そしてイエレン議長は今後の金融政策についてこうも発言していました。「今後、景気が減速した場合は、ゼロ金利に戻すことや資産購入の拡大などの緩和策を取ることも出来る」と。