サウジアラビア通貨庁 ( SAMA )

サウジアラビアの中央銀行であるサウジアラビア通貨庁(Saudi Arabian Monetary Agency)は、頭文字を取って略称SAMA(サマ)と呼ばれています。今回は、このSAMAが為替、株式、金融市場に与える影響についてお話します。

SAMAは、他国の中央銀行と同様、物価・金利の安定の役割を担っていますが、それ以外に日本では財務省の役割である外貨準備高の管理、商業銀行の監督、為替相場管理などの役割を担っています。そして金融マーケットでは常にSAMAの動向は注目されています。なぜなら、SAMAは、原油収入を原資とする世界屈指の政府系ファンド(SWF)のひとつであるからです。そのオイルマネーがどの金融市場に投資されるか常に注目されています。

IMFの警告

前回、IMF(国際通貨基金)によるサウジアラビアへの警告について触れました。10月下旬、IMFはサウジアラビアの財政が今年2015年にGDP比22%の赤字になると予測し、外貨準備が5年以内に枯渇する恐れがあると警告しました。SAMAの9月末の外貨準備は6,545億ドル(約80兆円)。この準備資産の規模は、IMFが見込む今年のサウジの名目GDPを若干上回る規模ですが、今年の財政赤字はGDP比で、昨年の3%から22%に急拡大する可能性があると試算しました。この結果、このままの比率で毎年財政が赤字になれば、単純計算では5年で準備資産がなくなるという警告でした。同様に他の湾岸諸国の見通しも発表されていますが、クウェート、カタール、UAE(アラブ首長国連邦)は、準備資産の蓄えが20年もつとのことです。バーレーンやオマーンはサウジと同様に5年以内に蓄えが底をつくという見通しのようです。

サウジアラビアの財政赤字の原因は、支出面では社会を安定させるために大盤振る舞いをした社会保障費の増加と光熱費などの膨大な補助金、そして近隣諸国との地政学リスクの高まりによって膨らむ軍事費の増大です。一方、収入面では1年前は100ドルを超えていた原油価格の暴落によって国家収入の8割を担ってきた原油収入が激減し、この結果、収支が赤字となってしまいました。これまでも原油価格の下落によって財政が赤字になることはありましたが、準備資産の取り崩しによって短期間で乗り越えてきました。しかし今回は原油価格の下落が止まらず、低価格が長期化する可能性がある中で警告されたことから現実味が出てきたため、マーケットはこのIMFの警告を注目しました。

このIMFの警告の前には、SAMAが海外の運用会社に預けていた資金を引き揚げている可能性があるとの観測が流れていました。9月28日付の英紙フィナンシャル・タイムズは、「SAMAが引き揚げた金額は過去6ヶ月で500~700億ドル」と報じ、このニュースは、金融市場に衝撃を与えました。最大の産油国であるサウジは、これまでは債券や株の安定的な買い手でしたが、そのサウジが大口の売り手に転じたことは市場に動揺を与えました。現実にSAMAの9月末の外貨準備は、7カ月連続で減少した結果、1年前と比べて12%減少しています。このまま、原油価格低迷が続けば、売り手として世界の市場を動揺さすことになりかねません。いや、現実に日本の株式市場では異変が起こっています。これまでSAMAが日本の上場企業の大株主だった数は56社でしたが、9月末時点で26社が上位株主から消えています。半年前と比べて約5割減少したことになります。やはり、原油下落に伴って、この半年でオイルマネーの動きに変化があったということがわかります。

IEA世界エネルギー見通し

11月10日、IEA(国際エネルギー機関)は2015年の世界エネルギー見通しを発表しました。その報告によると、原油市場は当面、OPECの増産などで供給過剰の状況だが、2020年頃には需給が均衡し、価格が1バーレル80ドルに向けて上昇すると予測しています。中長期では原油安による開発投資の落ち込みによって、原油の供給不足を招く可能性があるとの見方を示しています。開発投資は、2015年は前年より2割減り、2016年も減少が続くと分析しています。過去25年間で2年連続の開発投資の縮小は例がないとのことです。

また、非OPEC加盟国の原油生産は2020年までに日量5,500万バーレルで頭打ちになると予測しています。米国のシェールオイル生産も2020年代の早い時期に日量500万バーレル程度でピークに達すると予測しています。

この報告からは、原油下落を打ち止めにしたいとの思惑がじわっとにじみ出ていますが、2020年の予測では現況に対応できないかもしれません。もし、このまま原油が低迷すればサウジの準備資産が減少していき、その間、運用資産の中心である金融資産は売られ、世界の金融・株式市場は揺さぶられることになります。12月に原油が40ドルを割れてから円高が進んだように、一層の原油下落は金融・株式市場を揺さぶり、円高要因になるかもしれません。

IEAの報告では、OPECは現在増産しているが、その増産も軍事費の増大で開発投資が後回しになり、また、イランの経済制裁解除後の増産も、投資が大きくなることから課題が多いと結んでいます。つまり、将来的には世界景気が回復し、需要が増えるにつれて供給が追いつかないとの予測です。このシナリオでは世界景気が2016年か、2017年かどこかの局面で成長局面に入っていき、そして石油需要が増えていくかが注目ポイントとなります。需要面から見ると、最大の注目は、石油需要を牽引してきた中国の動向ということになります。

12月15日  格付け会社のムーディーズは2016年原油価格見通しを発表しました、WTIで1バーレル=40ドルと8ドルの下方修正、北海ブレントは1バーレル=43ドルと10ドルの下方修正をしました。かなり現実的な予想です。そして理由はイラン産原油の供給増加と報じています。OPECの協調減産が見送られた現時点では、供給面からはイランの動向が注目材料となりそうです。

サウジアラビア通貨庁(Saudi Arabian Monetary Agency) 略称 SAMA(サマ)

物価・金利の安定、外貨準備高の管理、商業銀行の監督、為替相場管理

原油収入を原資とする世界屈指の政府系ファンド(SWF)のひとつ

9月末外貨準備  6,545億ドル(約80兆円)→ GDPとほぼ同じ規模
      → 7カ月連続減少し、1年前と比べ12%減少
      → この半年で運用資産を500~700億ドル引き揚げ

 

IMFの警告

サウジアラビアの財政赤字→名目GDP比で昨年の3%から22%に急拡大する可能性

GDPは外貨準備とほぼ同規模であるため、単純計算では5年で準備資産が枯渇
      → 他の湾岸諸国の試算
      20年     クウェート、カタール、UAE(アラブ首長国連邦)
      5年以内    バーレーン、オマーン

 

IEA(国際エネルギー機関)の2015年の世界エネルギー見通し

原油市場は当面、OPECの増産などで供給過剰の状況だが、2020年頃には需給が均衡し、価格が1バーレル80ドルに向けて上昇

中長期では原油安による開発投資の落ち込みから原油の供給不足を招く可能性

非OPEC加盟国の原油生産は2020年までに日量5,500万バーレルで頭打ち

米国のシェールオイル生産も2020年代の早い時期に日量500万バーレル程度で ピークに達する

 

原油需給面の注目ポイント

需要要因 → 世界景気の回復、特に中国の復活

供給要因 → イランの増産動向