中国経済と世界経済
中国経済の減速が世界経済に大きな影響を与えています。中国は世界の「工場」として、低賃金の労働コストを背景に大量に生産し、低価格の商品を輸出していました。また、経済が拡大するにつれて国民の消費パワーが大きくなり、米国に次ぐ世界の消費大国となりました。しかし、ここへ来て、行け行けどんどんの製造業は過剰投資となり、その過剰設備の解消が進まないことから経済に変調をきたし、成長スピードに陰りが出てきました。その結果、製造業の原材料だったセメントや鉄鉱石などの消費が落ち、商品価格が下落しました。また、経済成長の減速によって消費パワーも減退し、世界各国の中国向け輸出は鈍化しました。中国経済の減速は、商品価格の下落と中国の輸入の減少(原材料と消費財)によって、経済基盤を資源の輸出のみに頼っていた新興国や、中国の輸入に頼っていた新興国は大きな影響を受け、また先進国も中国向け輸出が減少し、経済に大きな影響を与えています。
世界経済の影響はどの程度大きいのでしょうか。その大きさかを知るうえで、IMFなどの国際機関の成長予測が役に立ちます。まずは、IMFの経済見通しを見てみます。表の項目が多くなると見にくくなるため、世界経済と中国のみを表示します。
IMF世界経済見通し(直近10月6日発表、%)
2015年見通し | 2016年見通し | |||||||
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予想時点 | 1月 | 4月 | 7月 | 10月 | 1月 | 4月 | 7月 | 10月 |
世界 | 3.5 | 3.5 | 3.3 | 3.1 | 3.7 | 3.8 | 3.8 | 3.6 |
中国 | 6.8 | 6.8 | 6.8 | 6.8 | 6.3 | 6.3 | 6.3 | 6.3 |
IMF(国際通貨基金)は、世界の経済見通しを3ヶ月毎(1月、4月、7月、10月)に発表しています。世界全体の成長率、先進国グループの成長率、新興国グループの成長率、そして各国の成長率を細かく発表しており、マーケットでは大変注目されています。なぜなら、各国政府や中央銀行が自国の成長見通しを発表しますが、やはりバイアスがかかっています。政策の都合のいいように、あるいは政治家の圧力によって民間エコノミストの予想より強気のことが多く、予想がずれることが多いようです。その点、IMFは中立の国際機関であることから、各国政府の予測バイアスがかかっていないため、より実態にあった成長率予測として参考になるからです。この予測は、新聞に必ず記事として取り上げられますので参考にして下さい。もちろん、ホームページからも見ることが出来、日本語版もあります。
上の表は、2015年と2016年の世界全体と中国の成長率予測を、今年の1月時点の予測、4月時点の予測と時系列に並べた表です。直近の予測は10月6日に発表された10月時点の経済見通しです。時系列に並べてみるとおもしろいことが分かります。
2015年の世界全体の経済成長は、3.5→3.5→3.3→3.1%と、7月時点の予測を0.2%下方修正して3.3%とし、更に10月時点でも0.2%の下方修正を行い、3.1%と予測しました。中国経済の減速がクローズアップされてきたのは、7月から始まった上海株の急落から中国経済の先行きが不安視されたのですが、世界全体の見通しはその影響を織り込み、7月時点、10月時点と下方修正されました。ところが、中国経済の見通しは、1月時点と変わらず6.8%のままとなっています。中国経済については、上海株下落の影響はないとの見通しであり、世界全体の見通しについては、中国経済の影響はなく、ブラジルやロシアなど他の国々の影響によるものとの見方になるようです。何となく違和感を覚えます。この違和感を解消するために他の国際機関の見通しを見てみます。下表は、OECDと世界銀行、アジア開銀の見通しです。
OECD成長率見通し(直近9月16日発表、%)
2015年見通し | 2016年見通し | |||||
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予想時点 | 2014 11月 |
2015 6月 |
2015 9月 |
2014 11月 |
2015 6月 |
2015 9月 |
世界 | 3.7 | 3.1 | 3.0 | 3.9 | 3.8 | 3.6 |
中国 | 7.1 | 6.8 | 6.7 | 6.9 | 6.7 | 6.5 |
OECD(経済協力開発機構)の現在加盟国は34か国。EU21カ国、日本、米国などその他13か国となっています。先進国中心の国際機関であることから「先進国クラブ」と呼ばれています。OECDの2015年の成長率予測は、6月時点で大きく下方修正(▲0.6%)されています。直近の9月時点も0.1%の下方修正をしています。中国経済はどうでしょうか。やはり、6月時点で0.3%下方修正し、9月時点でも0.1%下方修正しています。昨年はIMFより強気だった見方を、今年後半からは世界全体も中国経済もIMFより弱気の見方となっています。
世界銀行も年2回、1月と6月に世界各国の経済見通しを発表しています。
世界銀行経済見通し(直近6月10日発表、%)
2015年見通し | 2016年見通し | |||
---|---|---|---|---|
予想時点 | 1月 | 6月 | 1月 | 6月 |
世界 | 3.0 | 2.8 | 3.3 | 3.3 |
中国 | 7.1 | 7.1 | 7.0 | 7.0 |
世界銀行も2015年の世界全体の見通しを、6月時点で0.2%下方修正していますが、中国の成長率は変わらずの7.1%のままです。6月時点の予測ですから、上海株の急落後の影響は加味されていないので仕方ないのかもしれませんが、OECD予測は6月時点で中国を下方修正しているので、世界銀行の見方はIMFの見方に似ているのかもしれません。
中国が属するアジア圏はどうでしょうか。アジア開発銀行(ADB)がアジア地域の経済予測を発表しています。直近は9月22日に発表しています。
アジア開発銀行のアジア地域の成長率見通し(直近9月22日発表、%)
2015年見通し | 2016年見通し | |||
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予想時点 | 3月 | 9月 | 3月 | 9月 |
アジア新興国 | 6.3 | 5.8 | 6.3 | 6.0 |
中国 | 7.2 | 6.8 | 7.0 | 6.7 |
アジア地域の成長率見通しは、世界全体の倍の成長スピードとなっていますが、それでも9月時点では、中国減速の影響を大きく受けて0.5%の下方修正となっています。中国は0.4%の下方修正です。下方修正幅では、これら4機関の中では一番大きいですが、それでも6.8%とIMFと同じ水準ですので、逆にそれまでの予想を強気に見ていたということが分かります。
これら4機関の予測を直近のデータのみで一覧表にしたのが下表です。
アジア開発銀行のアジア地域の成長率見通し(直近9月22日発表、%)
GDP予測 (予想時点) |
2015年見通し | |
---|---|---|
世界 | 中国 | |
IMF
(10月)
|
3.1 | 6.8 |
OECD
(10月)
|
3.0 | 6.7 |
世界銀行
(6月)
|
2.8 | 7.1 |
アジア開発銀行
(9月)
|
(5.8) | 6.8 |
比較してみるとよく分かります。世界全体のGDP予測では、IMFが3.1%と最も強気であり、世界銀行が最も弱気の2.8%です。一方、中国経済は世界銀行の予測が最も強気となります。ただ。世界銀行の見通しは6月時点ですので、次の来年1月時点では下方修正されている可能性があります。世界銀行以外は9月から10月時点の予測で、6.7-6.8%が中国経済の2015年のGDP予想の大勢ということが分かります。
中国の2012年のGDP成長率は7.7%、2013年も同じ7.7%で、2014年は7.3%と減速しました。今年の成長率目標を中国政府は「7%前後」と定めています。直近の中国の4-6月期GDPは7%成長だったと中国政府は公表しています。国際機関の予測はこれより少し低い予想ですが、おおむね外れていないと言えます。ところが、日本経済研究センターは、中国の4-6月期実質GDPは、中国政府公表を大幅に下回る5%前後だったとの試算結果を発表しました。中国の李克強首相が、経済分析の材料に用いたとされる、「鉄道貨物輸送量」、「発電量」、「銀行貸出の伸び」、これら指標を使うと、4-6月期GDPは4.8~6.5%の範囲内の試算結果になったそうです。4-6月期GDPは、7月から始まった上海株の急落の影響がまだ加味されていません。7-9月期GDPが中国政府目標の7%よりも低ければ、世界経済の見通しは更に下方修正されることが予想されます。もし、日本経済研究センターの試算の方が実体経済の動きに近いのであれば、7-9月期は更に減速することが予想され、世界全体への影響はより大きくなります。中国政府の公表数字、国際機関の予測数字、そして民間調査機関の試算数字と、さまざまな数字が交錯していますが、市場の見方は、中国経済は想定を上回るペースで減速しているとの見方が強まっています。これらのことを念頭に置いて、新聞記事などの情報を読み解いて下さい。ここに書かれている話は、全て新聞に掲載されています。
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